アングル:物資求めるガザ住民に「死の罠」、配給所付近でイスラエル軍が銃撃

[ガザ/カイロ 10日 ロイター] - 先週、パレスチナ自治区ガザ南部ラファの物資配給拠点に向かった大学教授のニザム・サラマさん(52)は、2度にわたって銃撃に見舞われ、飢えた群衆に押しつぶされた末、手ぶらで帰宅した。

物資配給拠点は民間軍事請負企業と協力する米国拠点の組織「ガザ人道財団(GHF)」が運営している。サラマさんは海岸沿いの道をラファへと向かう群衆に加わるため、現地時間3日午前3時に家族と住むテントを出発。その直後に最初の銃撃が始まった。

2度目に銃撃に遭ったのは物資配給拠点に近いアル・アラム地区の環状交差路で、そこでは6人の遺体を目撃した。

パレスチナ保健当局によると同日、イスラエル軍は援助を求める人々に向けて銃撃を行い、27人が死亡した。イスラエル側は、自軍が脅威と見なした集団に対して発砲したと主張し、軍は事件を調査中だと説明している。

GHFが提供した撮影日不明の監視カメラ映像をロイターが確認したところ、「SDS1」と呼ばれるこの物資配給所では、開門前から長蛇の列ができていた。その先には砂の壁で囲まれた場所があり、テーブルや地面に物資の箱が置かれていた。

開門と同時に数千人が殺到した様子を、サラマさんは「死の罠」と説明した。

「生き残るのは強者だ。体力があって人より早く到着し、人を押しのけて箱を手に入れられる者だ。自分の肋骨同士がぶつかり合っているのを感じた。胸が内側に押し込まれるような感覚だった。呼吸が、できなかった。人々は叫んでいた。まったく呼吸できなかった」

ロイターはサラマさんの証言について、全ての詳細を独自に確認することはできなかったが、その内容は取材した他の2人の証言と一致した。この2人も配給現場との往復途中、頭上を弾丸が飛び交い、はいずり回ったり身を隠したりしたと語った。

証言者3人全員が、ラファとの往復途中で死体を目撃したと述べた。

ラファ近くの赤十字野戦病院は声明で、3日に拠点付近で行われた攻撃による死者の数を確認した。

GHFが5月26日に活動を開始して以来、多くの死者が出ている事態について説明を求められたGHFは、同団体の拠点やその周辺で死傷者は出ていないと表明した。

イスラエル軍は詳細なコメント要請に応じなかった。軍報道官のエフィー・デフリン准将は8日、記者団に対し、イスラム組織ハマスが部隊を挑発するために「全力を挙げて」おり、部隊は「脅威を阻止するために射撃している」と説明した。デフリン氏は物資配給拠点の周辺を「戦場」と呼び、軍事調査が進行中だと述べた。

サラマさんは新しく始まった物資配給のシステムについて十分聞いており、援助を受けるのは困難だと分かっていたが、5人の子どもには食料が必要だったと話す。子どもらはこの数カ月間、レンズ豆やパスタしか食べておらず、1日1食の日も多いという。

「米国企業(GHF)の援助拠点に行くのはまったく嫌だった。どれだけ屈辱的なことかを聞き、知っていたからだ。だが、何が何でも家族を食べさせる必要があり、やむを得なかった」

ガザの保健当局は9日、新しい配給システムが導入されてからの2週間、ほぼ毎日銃撃があり、物資を受け取ろうとしたパレスチナ人127人が死亡したと発表した。

人道支援団体「ノルウェー難民評議会」のヤン・エグランド事務局長は、配給システムが人道支援の中核を成す原則に違反していると批判。人々を死闘へと駆り立てるディストピア小説「ハンガー・ゲーム」に例え、「一握りの者だけが報われ、大多数は命を危険にさらすだけで何も得られない」と語った。

同氏は、国際人道法は戦乱地域での援助について、政治または軍事戦略の一部ではなく中立的な仲介者を通じて提供されるべきだと定めていると指摘した。

GHFは中立性に関する質問には直接回答せず、2週間で1100万人分の食料を安全に配給したと答えた。ガザの人口は約210万人。

<飢饉のリスク>

11週間にわたるガザの封鎖後、イスラエルは5月19日に国連主導の援助活動を限定的に再開させた。専門家はその1週間前、ガザに飢饉の危険が迫っていると警告していた。国連は、ガザに許可された援助は「大海の一滴」に過ぎないとしている。

国連の活動とは別に、イスラエルは従来の援助団体の頭越しに、GHFがガザで4つの拠点を開設することを許可した。情報筋2人によると、GHFの拠点は、米プライベートエクイティ企業が一部所有する米物流企業が監督しており、米軍出身の民間請負業者が警備を提供している。

人道問題に携わるイスラエルの防衛当局者はロイターに対し、GHFの配給拠点は120万人程度に対応可能だと述べた。

イスラエルと米国は、国連にGHFとの協力を促しているが、両国とも資金提供は否定している。ロイターはGHFに誰が資金を提供しているか特定できていないが、先週、米政府がイスラエルの要請を受けて5000万ドルの拠出を検討していると報じた。

<始まった銃撃>

前出のサラマさんと隣人4人は3日午前3時、ガザ南部ハンユニス地区のマワシから配給拠点に向けて出発し、2時間かけて数キロ先のラファに到着した。

早々に銃撃が始まり、何発かは海から撃ち込まれたという。この証言は他の目撃者らと一致している。

暗闇の中、彼らは整備されていない道を何度も転びながら前進を続けた。「負傷者を運ぶ人々がハンユニス方面に戻っていくのを見た」という。

拠点まで約1キロのアル・アラムに到着する頃には、物資を求める人々は大きな集団になっていた。さらに射撃があり、銃弾が近くを襲った。

「頭を下げ、地面に伏せるしかなかった」。

頭や胸、脚に傷を負った人々がおり、多くの負傷者に混ざって女性を含む複数の遺体も見たという。

赤十字国際委員会の声明によると、ラファの赤十字野戦病院には3日に負傷者184人が搬送され、その大半が銃弾による負傷者だった。

「意識のある患者は全員、物資配給場所を目指していたと語った」と、声明は指摘した。

サラマさんが3日にようやく拠点に到着した時には、もう何も残っていなかった。

「残念ながら何も見つからなかった。非常に、非常に、非常に大きなゼロだ」

支援物資が尽きてからも、人々は到着し続けた。

「私は引き返そうとしていたが、人波が私を前へ押しやった」

前方にはGHFの警備員がおり、群衆に催涙スプレーを使用しているのを目撃したという。

GHFは催涙スプレーの使用について承知していないとした上で、職員は市民を保護するために非致死的な措置を使ったと説明した。

「私は声を振り絞って叫び始めた。兄弟たちよ、私は何も欲しくないのだ。ただここを去りたい、去りたいと」とサラマさん。

「手ぶらで去った。落ち込んで家に帰った。悲しみと怒りで一杯で。そして空腹だった」

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A senior correspondent with nearly 25 years’ experience covering the Palestinian-Israeli conflict including several wars and the signing of the first historic peace accord between the two sides.

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