世界初のLG“透けるテレビ”見てきた。価格も中身もガチだった(AV Watch)
CES2024で話題を集め、海外で先行発売されていた“透けるテレビ”がついに日本にやってきた。LGエレクトロニクス・ジャパンが、今年7月1日から受注販売を開始した「LG SIGNATURE OLED T」(OLED77T4PJA)だ。 【この記事に関する別の画像を見る】 価格は、泣く子も黙る1,100万円(税込)。完全受注生産で納期は約3カ月。王族か、アラブの富豪か、はたまた人生の成功者しか手にできないセレブリティテレビだが、一体どんな製品なのか気になるところ。LG本社のショールームで実機を見ることができた。 失礼ながら、視聴前は「透けるってホント?」「映像は大丈夫?」と思っていたのだが、出来栄えは本物だった。そして透けるテレビ、コレ意外とアリかもしれない。 ■ 「黒い板は置きたくない」リビングのテレビ問題解決? LG SIGNATURE OLED Tは、世界初の透過型4K有機ELディスプレイを採用したテレビだ。 透過型とは、ディスプレイ部がガラスのように透けているものを指す。映像やテキスト情報を表示するサイネージ用途の透過型ディスプレイはこれまでも存在したものの、民生用テレビで透過を実現したのはLGが初めてだ。 透過にすると何が良いのか? というと、従来のテレビでは実現できなかった“空間との調和”が可能になる。 身の回りにあるディスプレイを見てもらえば分かる通り、通常のディスプレイは、電源オフ時はただの“黒い板”になる。スマートフォンやタブレットなど、小型サイズであればそれほど気にはならないが、テレビのような大型の場合はそうもいかない。 特に最近のテレビは、75型、85型、98型、100型……と大型化がますます顕著になっている。大画面ならではの迫力や没入感といった部分に魅力を感じる人がいる一方で、「リビングでテレビをあまり目立たせたくない」「大きな黒い板は置きたくない」と考える人もいる。 LGの透けるテレビはこうした問題を解決するものだ。 77型というサイズにもかかわらず、ディスプレイを透過型にすることで、電源オフ時でもガラスのような外観を実現。しかもガラスに封止された有機EL材料が発光するため、液晶のバックライトも不要。極薄のディスプレイを可能にした。さらによくあるテレビスタンドではなく、スリムなスチールフレームを筐体に使用。画面が浮遊しているようなデザインに仕上げた。 アンテナ線やHDMIケーブルは別筐体のZeroConnect Boxにつないで無線接続。ディスプレイ部は電源ケーブルだけで、その電源ケーブルも前述のフレームで隠すことができるため、デザイン美を邪魔しない。 透過型ディスプレイを活かしたコンテンツや機能もポイントだ。 魚たちが泳ぐ姿が楽しめるアクアリウムや水平線に浮かぶ満月など、動きのあるアートコンテンツを表示させたり、ディスプレイ下部に時刻やカレンダー、天気、ニュースを表示させる機能を搭載した。リビングの景観に溶け込むだけでなく、あえて映えるリビングも演出できるのだ。 映像をしっかり見たい、という場合には、黒幕「T-Curtain Call」を立ち上げればよい。透過型ではない、通常のテレビと同じ黒ディスプレイに変わり、より没入感のある映像が楽しめる。黒幕はリモコンまたはアプリで昇降できる。 なお、透過以外の、テレビとして機能・仕様は他のシリーズとほぼ変わらないガチ仕様。ディスプレイの解像度は4Kなので、地デジやBS、4K放送はもちろんのこと、ネット動画や映画、ゲームも高解像に表示できる。明るさも「'25年モデル並み」を実現している。 信号処理を司るプロセッサーは「α11 AIプロセッサー4K」(フラッグシップG4と同じ)。視聴映像のジャンルとシーンをAIが自動認識して画質を最適化する「AI映像プロ」、好きな絵を選ぶだけでAIがユーザー好みの画質を提案する「パーソナルピクチャーウィザード」なども搭載。 LGが得意とする様々なゲーム機能(ALLM、VRR 4K120Hz、AMD FreeSync Premiumテクノロジー、NVIDIA G-SYNC Compatibleなど)や、4.2chスピーカーでバーチャル11.1.2chを実現する立体音響機能も備える。 ■ 透けるだけじゃない。映像の品質や機能も本気のテレビだった ということで、透けるテレビを実際に見てみた。 細身のスチールフレームの前面にはめ込まれた、77型の透過型有機ELディスプレイは厚み0.6ミリ。ディスプレイ部分は一枚のガラスのようで、パッと見、映像が映るようには見えない。 電源オフ状態でも、確かに背景のクロス(コンクリート柄の壁紙)が透けている。この透明度があれば、こだわって選んだリビングのアクセントクロスが黒い板で隠れることもないし、窓際であったり、仮に部屋の中央に置いても、自然光や背景が遮られないので空間の広がりを演出できそうだ。 電源を入れ、専用コンテンツの「アクアリウム」を表示。熱帯魚が、画面の中をゆらゆらと動き始める。まるでガラス水槽の中を泳いでいるように、魚が浮かび上がって見える。 映像に合わせて、後ろ側のフレームに仕込まれたLED照明の色も自動的に変わる(LED照明はオン/オフ可能)。通常のディスプレイでは作れない、幻想的な演出が楽しめる。 表示映像もコントラストが高く、熱帯魚やサンゴの色も鮮明。斜めから見てもしっかり色が乗っている。透過型でも、有機EL方式の強みが生きている。透過型になることで薄味の画になってしまうのではないか?と考えたのは杞憂だった。 専用コンテンツではなく、通常の映像も見てみた。映画『F1/エフワン』のプロモーション映像を、まずは“透過状態”で表示してみる。 上下の黒帯部分に目をやるとうっすらと背景のクロスが透けて見えるが、黒帯以外の映像は通常の有機ELテレビと遜色のない画。発色もよく十分に明るい。 リモコンで黒幕を立ち上げるとさらにコントラストが上がり、暗部がグッと締まり没入感が増す。表示するコンテンツや生活のシーンに合わせて、黒幕オン/オフを使い分けるのがよさそうだ。 実機を見て感じたのは、見た目重視の単なるセレブテレビではなく、映像の品質や機能も本気のテレビだったということ。 それに、ディスプレイの存在を目立たせずに空間に溶け込む、”透過型”の魅力にも気付かされた。このテレビであれば、今まで黒い板と敬遠してきた方も、デザイン感度の高い方も納得してくれると思う。問題はサイズと価格なので、今後LGには現実的な価格、そしてサイズのバリエーションも増やしてくれることを期待したい。 担当者によると、製品への問い合わせは多く、7月の発表からすでに数台の注文が入ったという。また8月9日から25日までの期間限定(各日10時~18時)で、東京・秋葉原の「ヨドバシカメラ マルチメディアAkiba」で透けるテレビの日本初展示を実施。その後も首都圏、関西での量販店で展示を検討しているという。 体験イベントは無料で参加できるそうなので、読者の方にはぜひ一度、透けるテレビの視聴をお勧めしたい。筆者同様、透けるテレビって意外とアリでは?という発見と、製品の魅力に気付いてもらえるのではないだろうか。
AV Watch,阿部邦弘