焦点:中ロ朝の「独裁国家連合」、西側の対抗軸となるか
[北京/ソウル/ワシントン 10日 ロイター] - 北京で3日に行われた抗日戦争勝利80年記念行事では、習近平国家主席がロシアのプーチン大統領および北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記と会談し、3人で顔をそろえて軍事パレードを鑑賞した。3カ国首脳の前例のない親密ぶりが示された形だが、複数の外交官や政治家、専門家は、3カ国が結束した政治ブロックとなって西側に対抗するにはさまざまな限界を抱えていると指摘している。
軍事パレードでの3カ国首脳の様子については、欧州連合(EU)高官が「独裁国家連合」と呼ぶなど、一部西側指導者からは地政学上の重要な転換点を意味するのではないかとの懸念が浮上していた。
こうした懸念に対し、複数の専門家らは、一連の行事を通じて正式な3カ国の首脳会談が開催されなかったことや、パイプライン敷設計画などの大規模な経済取引を巡り不透明感があることなどを指摘。より緊密な協力を漠然と約束した姿勢からは、3カ国間の絆を深めるというより、それぞれがトランプ米大統領との交渉を有利にする意図が強いことが読み取れると分析する。
米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)の地政学・外交政策部門を統括し、かつて米国家安全保障会議(NSC)のアジア問題ディレクターを務めたビクター・チャー氏は「この動きが(国際的な)新秩序の宣言であるようには見えない。むしろ近視眼的な自己利益に基づく混乱と機会主義の宣言だ」と言い切った。
ただアジアに駐在する米国のあるベテラン外交官は「どう見えるかは大事だ」と主張し、中ロ朝3カ国は個別政策分野で引き続き意見の違いがあるのは間違いないものの、米国主導の国際政治・経済システムに反対するという点で足並みをそろえていることを明確に示したと指摘した。
石破茂首相は3首脳の集結について、「今後更に厳しい安全保障環境になる、その危惧を禁じ得ない」と述べた。またEUのカラス外交安全保障上級代表はこの3カ国を「独裁国家連合」と呼び、トランプ氏はソーシャルメディアに、プーチン氏と金正恩氏が共謀して自身に立ち向かおうとしていると投稿。米政府高官は、トランプ氏は一部の国が中国に味方するのを目にして「失望」しており、この状況を「米国は改めて検討していく」と述べた。
<経済問題でも温度差>
北京の軍事パレードは習氏にとって外交的な力を誇示する舞台となったほか、プーチン氏にとってはロシアがウクライナ戦争で国際社会から孤立しているという西側の主張に対抗する機会となり、金正恩氏は核兵器開発・保有に関して暗黙の支持を取り付けることができたと、専門家は分析する。
しかし習氏は、プーチン氏、金正恩氏と一対一で対話したが、正式な3者会談は開かなかった。
北朝鮮の動向を監視している38ノースのディレクター、ジェニー・タウン氏は「中国は正式な中ロ朝の協力関係が始動しつつあるというシグナルは送らなかった」と話す。
中ロ朝による合同軍事演習などのより直接的な軍事力誇示の取り組みまでの距離は依然として遠い、というのが複数の専門家の見解だ。
経済分野では、中ロ間で長大な天然ガスパイプラインの計画に関する「拘束力のある覚書」が交わされたと報道され、より中身のある成果があったように見える。
だが積極的に同計画を宣伝したプーチン氏と異なり、中国側は公式文書でパイプラインに一切言及しておらず、定例会見でも質問をはぐらかしている。
シベリアから中国本土まで約3000キロのパイプラインでガスを輸送する計画を巡っては、取引価格などの諸条件で両国の隔たりが解消されていない。
またプーチン氏に同行して北京を訪れたロシアのルート農業相によると、中国政府はロシアが期待していた冬小麦市場の開放を拒絶している。
習氏とプーチン氏の会談後、中国は西側諸国の資本から締め出されているロシア企業に国内債券市場を開放する動きを見せているが、ロシア財務省は債券は国内で発行されるのが望ましいと警告している。
<トランプ氏との交渉に照準>
習氏と金正恩氏の会談に同席した中国政府高官の顔ぶれを踏まえると、対面で6年ぶりとなったこの会談では貿易も議題になった公算が大きい、と北京駐在のある外交官は分析した。
会談に関する中国側の公式文書では、ここ数年で初めて「非核化」という表現がなくなり、金正恩氏に大きく譲歩したとの専門家の指摘も出ている。
これを受け韓国外務省は、北朝鮮が核開発を巡る対話の場に加わるよう中国に建設的な役割を果たして欲しいと要望。中国の公営メディアが9日伝えたところでは、習氏は会談後に金正恩氏へ宛てた書簡で、中国は北朝鮮との戦略的対話を強化する用意があるとの考えを示した。
ただ中国における北朝鮮労働者の待遇をはじめとする幾つかの問題は未解決で、両国が交わした友好的な文言は、首脳会談を求めているトランプ氏との交渉力を高めるのが狙いという側面が大きい、と複数の関係者は話す。
トランプ氏は、10月末に韓国で開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)に出席する見通しで、習氏と会談する可能性がある。
金正恩氏が2019年に決裂したトランプ氏との対話を再開する意思を示している兆しはないが、韓国の国会議員は、今回の一連の外交活動が対話の糸口につながる可能性があり、情報機関も注視していると述べた。
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Antoni Slodkowski is Reuters Chief Politics & General News Correspondent for China, based in Beijing, where he leads coverage of Chinese politics, society, and its relations with global counterparts. He has won two Pulitzer Prizes with Reuters colleagues: in Investigative Reporting in 2025 for uncovering fentanyl supply chains, and in International Reporting in 2019 for exposing the persecution of Rohingya Muslims in Myanmar. Previously Japan Deputy Bureau Chief and Myanmar Bureau Chief at Reuters, Antoni also reported from Tokyo for the Financial Times and was a Knight-Wallace Fellow at the University of Michigan. He began his journalism career as a teenager, hosting a children's TV show for Poland's largest public broadcaster.