フランス新首相は「愛されキャラ」-マクロン大統領も調整力に期待
ここ数カ月のフランス政治界で飛び交う激しい非難の中でも、ルコルニュ新首相(39)を悪く言う者はほとんど見当たらない。前内閣で国防相を務めたキャリア政治家のルコルニュ氏は、イデオロギーの隔たりを超えて指導者層から「親しみやすくも真剣な人物」と見なされている。
社会党上層部はルコルニュ氏を「鋭い観察眼を持つ賢明な政治家」と評し、急進左派の議員は「鋭い知性」を称賛した。国民議会(下院)でルコルニュ氏個人を批判する議員を見つけるのは難しいほどだ。フランスという激しく対立する政治舞台では珍しい。
極右・国民連合(RN)のマリーヌ・ルペン氏でさえ、ルコルニュ氏のプロ意識や、RNに対する敬意ある態度を非公開の場で称賛している。仏紙ル・モンドは、ルコルニュ氏が、おそらく極左の特に過激な人物の一人を除き、誰とでもうまくやっていけることをを誇りに思っていると話したと報じた。
その手腕は、最終的には予算案通過のために議会過半数の支持を確保するには不十分かもしれないが、超党派的な魅力は、分裂したフランス下院の戦いで役に立ちそうだ。
議会取り込み
440億ユーロ(約7兆6100億円)規模の増税・歳出削減を含む予算案に極右と極左が反発し、信任投票に敗れたバイル前首相に代わる形で、ルコルニュ氏は就任した。
予算案の提出は、新首相にとって最初の大きな試練の一つとなる。前任者と同じ運命をたどらないため、ルコルニュ氏は財政計画を迅速に書き直し、マクロン大統領に協力に反対する勢力の一部から、少なくとも暗黙の支持を得るべく譲歩する必要がある。一方で、自らが支持する親企業的な中道派の基盤も失うわけにはいかない。
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就任初日の10日、ルコルニュ氏は左派に接触し、緑の党党首や有力な労働組合指導者と電話会談した。マクロン氏が「予算成立に向け政府支持派と協力する可能性が最も高い勢力」と見なす社会党とは、まだ協議していない。
2025年度予算案の議会通過を支援した社会党議員は、新政権への参加を拒否したが、新首相と政策について協議する用意はあるとしている。
フランスの財政を懸念する投資家は、予算案に向けた動きを注視している。ムーディーズ・レーティングスは9日、現在の不確実性は「信用にマイナス」とコメントした。
フランス債は11日、長期債を中心に上昇し、30年債の利回りは2ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)低下し4.31%と、3週間ぶりの低水準となった。フランスとドイツの10年債利回り格差は80bp未満に縮小した。
政府が穏健左派との合意に期待を寄せる一方、下院最大議席を持つRNとの合意の可能性は低いとみられている。ルコルニュ氏の任命が発表された数分後、ルペン氏はSNSに、マクロン氏が最後の切り札を切ったと投稿し、早期の議会選挙実施を改めて要求した。ルペン氏は、選挙は避けられないと断言している。
フランスメディアによると、ルコルニュ氏は国防相時代、ルペン氏やその側近との対話を重視し、国防省での夕食会に招待したとされる。RNはこの報道についてコメントを控えたが、ルコルニュ氏は自らの働きかけで、軍事予算についてRNの支持をとりつけた経緯がある。
期待
マクロン氏は、ルコルニュ氏が草の根政治家としての経歴を持ち、同世代の多くが持つエリート的な学歴を欠いていることを強みと見なしているとされる。
穏やかな性格のルコルニュ氏は、かつて中道右派の牙城だったフランスの地方出身だ。この地域は2017年にマクロン氏支持に傾き、2022年にはほぼ完全に極右に流れた。ルコルニュ氏はマクロン氏のウクライナ政策の柱であり、両者はフランスの防衛力強化の必要性について、足並みを揃えてきた。
ルコルニュ氏が政治危機を乗り切り、少数与党政権を維持できるか、それとも、マクロン氏の新首相任命は、有権者との本格的な決着を遅らせただけなのか。その答えが、ルコルニュ氏の首相としての在任期間と、マクロン氏の残りの任期を決定づけることになる。
原題:Macron Bets on New Premier’s Personal Charm to Fix Budget (1)(抜粋)