「高市トレード」で円安加速、注目集める政府・日銀の為替介入ライン

外国為替市場で円安が加速し、対ドルで心理的節目の155円が視野に入る中、投資家の間では政府・日本銀行が為替介入に踏み切る水準がどこになるのかに注目が集まっている。

  自民党総裁選で緩和的な財政・金融政策を志向する高市早苗氏が予想外の勝利を収めたことを受け、円は急落。一時152円65銭と2月以来の安値を更新し、対ユーロでは1999年のユーロ導入以来の最安値を付けた。

  ガマ・アセット・マネジメントのグローバル・マクロ・ポートフォリオ・マネジャー、ラジーブ・デメロ氏は「日本の財務省と日銀は急激な円安を望んでおらず、再び150-160円のレンジに戻ってきたことを不快に感じている」と指摘する。「まずは口先介入の形を取る可能性が高いが、円安が続けば実際の介入が近いうちに行われるかもしれない」と話す。

  急速な円安進行を受け、加藤勝信財務相は7日、「為替市場での過度な変動を注視する」と発言した。

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  高市氏の勝利で日銀が10月に利上げに動くとの見方が後退したことが、円の下落につながっている。一方、国債市場では財政出動を伴う景気刺激策への懸念から超長期債が下落した。高市氏の経済ブレーンの本田悦朗元内閣官房参与は、今月の日銀金融政策決定会合での利上げは「さすがに難しい」と述べ、12月の方が適切な時期だとの見解を示した。

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  円の対ドル相場は2024年に日本が為替介入を実施した日の安値水準(157円99銭、159円45銭、160円17銭、161円76銭)に近づきつつある。市場では介入ラインを探る動きが強まっているが、当局は特定の水準だけでなく、円安のスピードやボラティリティー(変動率)も注視しているとみられる。

  市場関係者の一部では、高市氏が元財務相の鈴木俊一氏と麻生太郎氏を党の要職に起用したことに一定の安心感も広がっている。高市氏が財務省の了承なしに大規模な歳出拡大や減税に踏み切る可能性は低いとの読みからだ。

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  それでも市場の円先安感は強まっている。バンク・オブ・アメリカは総裁選の結果を受けて円の見通しを引き下げ、年末のドル・円予想を従来の153円から155円に修正した。ドイツ銀行も円に対する強気見通しを中立に変更した。

  SBI FXトレードの上田真理人取締役は「円を積極的に買う理由は今のところ全くない」と話す。「財務省から強いけん制がなく、日銀も利上げに関して何もメッセージを出さないようなら、ドル・円が155円までいってもおかしくない」とみる。

  10月に訪日する予定のトランプ米大統領は、かねて日本が自国に有利なように為替操作を行っていると繰り返し主張してきた。ベッセント米財務長官は8月、ブルームバーグの取材に対し、日銀がインフレ対応で「後手に回っている」と発言。他国の中央銀行の政策決定を公に批判する異例のコメントで、注目を集めた。

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  今月の日銀会合で金融政策が据え置かれた場合、高市氏の勝利を受けて日銀が利上げを先送りしたと市場で受け止められ、円がさらに売られる可能性もある。オーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)市場は現在、10月の利上げ確率を約25%と織り込んでおり、1週間前の60%超から大きく低下している。

  オーストラリア・コモンウェルス銀行のストラテジスト、キャロル・コング氏は「据え置き判断はさらなる円安を招く可能性が高い」と指摘。円安が続くかどうかは「日銀の植田和男総裁が示す短期的な金利見通し次第だ」と話した。

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— 取材協力 Masahiro Hidaka, John Cheng and Hidenori Yamanaka

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