【火星への「片道切符」は夢か詐欺か】20万人が応募したマーズワン計画の光と影 破産を申請するまで
火星に人類初の“定住地”を築くという壮大なビジョンを掲げ、世界中の注目を集めた民間プロジェクト「マーズワン」。その夢のような計画には、希望と疑念の両方が交錯していました。
火星に“住む”計画、2025年に始動予定だった
火星移住のイメージ 出典:Mars Oneマーズワンはオランダの元風力発電技術者、バス・ランスドルプ氏によって2011年に設立された団体です。目標は、2025年までに4人の人類を火星に片道で送り、定住させること。その後、2年ごとに4人ずつ増やし、火星に人類のコロニーを築こうという壮大な構想でした。
使用するロケットはスペースXのファルコンヘビー、宇宙船はタレス・アレーニア・スペース社が候補、さらにはロッキード・マーチン社とも提携の話があったとされています。アドバイザーにはノーベル物理学賞受賞者のヘーラルト・トホーフト氏も加わり、本格性が感じられる計画となっていきました。
火星で暮らすには?想像以上に厳しい環境
火星に建設したプラントイメージ 出典:NASAしかし、火星の環境は過酷です。大気は地球の1%ほどで、ほとんどが二酸化炭素。呼吸には宇宙服が必須です。重力は地球の約1/3、自転周期は24時間40分と一見地球に近いようですが、食料・水・空気の確保など課題は山積みです。
さらに、地球から火星への輸送は2年に1度しかできないため、補給に失敗すれば命の危険に直結します。近年の調査で火星には地下に氷が存在していることがわかってきましたが、実際に活用できるかは未知数です。
世界中が注目──選考に20万人が殺到
火星移住のイメージ 出典:Mars One2013年、マーズワンは初の乗組員選考を開始。なんと20万人が応募し、その年の12月には1058人に絞られました。この中には日本人16人も含まれており、医師や会社経営者など様々な背景の人々が名を連ねました。
2015年には男女各50人、合計100人に絞り込まれ、「マーズ100」と呼ばれる最終候補者が誕生。メディアでも頻繁に取り上げられ、世界中の期待が高まりました。
ところが、同年ごろから疑惑の声が次第に大きくなっていきます。マーズ100に選ばれたアイルランドのジョセフ・ローチ博士が「詐欺の可能性がある」と告発。選考後もマーズワン関係者と一度も対面していないと証言しました。
選考システムには「ポイント制」が導入されており、グッズ購入や寄付によってポイントが加算されますが、それは単にメディアに取り上げられる材料であり、選考基準ではないとされていました。
さらに、候補者は報酬の75%をマーズワンに寄付するよう求められていたとも報じられ、「有名になりたい人向けのビジネスでは?」といった疑念も生まれました。
現実味の薄い予算と人員体制、そして破産、だが夢は消えていない?
着陸船と火星基地 出典:Les Bossinas of NASA計画に必要な予算はわずか60億ドルとされましたが、NASAの試算では、火星に人を送り返すには4500億ドル以上かかるとされており、信ぴょう性に疑問が持たれました。
さらに、オフィスを取材したジャーナリストによると、従業員はわずか1人。医師の健康管理も実際にはほとんど行われていなかったという話もあります。
マーズワンはリアリティショーによって資金調達を目指し、大手番組制作会社Endemolとの提携も報じられましたが、計画の進捗は見られませんでした。
2019年、ついにマーズワンは破産を申請。しかし、マーズワン側は「破産したのは営利部門であり、非営利のマーズワン財団は存続している」と説明しています。
今後も計画継続を模索するとしていますが、資金や人材の不足、技術的なハードルの高さなどを考慮すると、実現の可能性は極めて低いと言わざるを得ません。
結局、夢だったのか?
火星に“行って帰らない”という前代未聞の計画は、多くの人に夢とロマンを与えた一方で、現実には厳しい問題や不信感をもたらしました。
「もしミッションが本当にあったとして、自分がその片道切符を手にしたら――」。みなさんは火星へ移住されますか?ぜひコメントお待ちしています。
宇宙ニュースをお届け!YouTubeでは宇宙情報をLIVE配信中! ロケット打ち上げ計画や惑星探査機・科学情報を、初心者の方にも分かりやすく解説します!皆さんからの気になる質問や熱いコメントもお待ちしています!