1万4300年前に地球を襲った史上最強の太陽嵐、古代樹木から判明
約1万4300年前、現在のフランス・アルプスに立っていた一本の古木が、太陽からの強烈な放射線を年輪の中に刻み込んでいた。
フィンランド・オウル大学の研究チームは、この木から得られた放射性炭素(炭素14)の異常な増加を調査し、地球史上最強クラスの太陽嵐がこの時期に発生していたことを明らかにした。
この太陽嵐はこれまで最大とされた西暦774年のものを大きく上回り、現代の衛星観測時代に記録された2005年の嵐と比べて、実に500倍以上の強さだったという。
フランス・アルプス地方の氷河堆積層の下から発見された太古の樹木の年輪には、通常では考えられないほどの炭素14濃度の上昇が記録されていた。
これは、太陽から放出された高エネルギー粒子によって引き起こされた現象とされ、地球の大気に強い影響を与えた証拠である。
このような放射性炭素の急激な増加は「ミヤケイベント」と呼ばれている。
2012年、日本の物理学者で名古屋大学太陽地球環境研究所の三宅芙沙(みやけ・ふさ)氏によって初めて報告されたため、「ミヤケイベント」の名がついた。
この現象は、太陽からの高エネルギー粒子が地球の磁場を突破し、大気中の窒素と反応して炭素14を生成し、それが木に取り込まれることで記録される。
今回の事例は、紀元前1万2350年頃に発生したものとされ、これまで記録されていた中でも最大規模のミヤケイベントだった可能性がある。
この画像を大きなサイズで見るNASAの太陽観測衛星(SDO)が2014年10月2日に撮影した太陽フレアの画像紀元前12350年(今から1万4300年前)に発生したこの太陽嵐が特異なのは、1万2000年前以降の完新世ではなく、それ以前の氷期に起きていた点である。
これまでのモデルでは、寒冷な気候下における放射性炭素の挙動を正確に再現することが困難だった。
そこでフィンランド・オウル大学のクセニア・ゴルベンコ博士率いる研究チームは、新たな気候化学モデル「SOCOL:14C-Ex」を開発。
西暦774年に発生した既知の太陽嵐イベントでモデルの妥当性を確認した後、改めて紀元前12350年の炭素14データに適用した。
この画像を大きなサイズで見る太陽から地球めがけて噴出された高エネルギー粒子のイメージ/NASAその結果、紀元前1万2350年に起きた太陽嵐は、775年のものよりも約18%も強力で、さらに2005年に観測された現代最大級の太陽嵐と比較しても、実に500倍以上の強度だったことが判明した。
この規模の太陽粒子嵐は、衛星や通信機器に対する深刻なリスクをはらんでおり、場合によっては航空機の高高度飛行中の乗員や宇宙飛行士への被ばくの恐れもある。
なお、このクラスの極端な太陽は、過去1万2000年間に8件しか確認されていない。
なかでも今回の太陽嵐は、人類文明が始まるより前に起きた唯一の事例である。
この画像を大きなサイズで見るimage credit:NASAゴルベンコ博士は、「このイベントは、現代における最悪のシナリオを示すものであり、その規模を理解することは、人工衛星、電力網、通信システムに与えるリスク評価にとって非常に重要です」と語っている。
もし今、同じ規模の太陽嵐が発生すれば、GPSは狂い、通信衛星が機能停止に陥り、大規模停電が世界的に連鎖する事態も想定される。
科学の力で過去を正確に解き明かすことは、未来への防御にもつながっている。1万年以上も前の空からの脅威は、現代文明にとって決して他人事ではない。
この研究は『Earth and Planetary Science Letters』(2025年4月28日付)に掲載された。
References: The most extreme solar storm hit Earth in 12,350 BC, scientists identify
本記事は、海外の記事を参考に、日本の読者向けに重要な情報を翻訳・再構成しています。