長寿命量子ビットの実現、量子コンピューティングの大いなるブレークスルー(Forbes JAPAN)
パリ拠点の量子コンピューティング・スタートアップであるAlice & Bob(アリス・アンド・ボブ)は、量子計算における驚くべき前進を発表した。同社の量子ビット(qubit)が、ビット反転エラーに1時間以上耐えられるようになったという。これは同社の従来記録の4倍であり、デコヒーレンス(量子状態の崩壊)によって多くが数マイクロ秒で失われる一般的な量子ビットと比べると数百万倍に相当する。 これは、Alice & Bobが2030年までに100個の論理量子ビットを備えたフォールトトレラントな量子コンピューターを構築する軌道に乗ったことを意味する。 Alice & BobのCTOで共同創業者であるラファエル・レスカンヌは「年々、当社の『キャット量子ビット』(Cat qubits)の安定性を高め続けていることが、当社がロードマップを達成できるという自信につながっています」と声明で述べた。 古典的なコンピューティングの世界では、1時間にわたりエラーのない状態を維持できても大きな成果とはみなされない。しかし、創薬、材料科学、暗号などの分野で大きな計算上の優位性が期待される量子コンピューターは、本質的に脆弱な量子ビットを用いる。量子ビットは時間とともにコヒーレンスを失い(デコヒーレンス)、量子計算に誤りを持ち込む。誤り訂正は量子コンピューティングにおける主要課題の一つなのだ。 たとえばIBMの超伝導量子プロセッサー「Eagle」(イーグル)は、量子ビットのコヒーレンス時間として400ミリ秒を達成できるが、他の量子計算機では1〜34ミリ秒にとどまる場合もある。2029年に構築予定のIBMの「Starling」(スターリング)量子コンピューターのような新しい量子コンピューティング・アーキテクチャは、より賢い検出技術によって誤り訂正の問題に対処するが、より長寿命の量子ビットは問題の源流そのものに対応する。 「主要な二種のエラーのうち一方を事実上排除することで、当社の『キャット量子ビット』は、必要な量子ビット数を大幅に減らせる、より効率的な誤り訂正符号を可能にします」と同社は述べている。 これまでの量子コンピューターは100回から1000回の演算ごとに1回エラーを起こすと、Alice & BobのCEOであるテオ・ペロナンは昨年、筆者のTechFirst(テックファースト)ポッドキャストで語った。 それは一見それほど悪くは聞こえないが、これは現在のコンピューターより1000億の10億倍も高いエラー率である。したがって、長くもつ量子ビットや大規模な誤り訂正がなければ、量子コンピューターは「基本的にはノイズを発生する機械です」と彼は述べた。