「帰ってきてとは言えない」 復興遅れで懸念される能登の事情

能登半島地震の隆起した海岸で、ふるさとの再生について語る元区長の谷内謙一さん。谷内さんらは隆起した土地に災害公営住宅の建設を求めている=石川県珠洲市で2025年9月3日午後1時21分、中尾卓英撮影

 「隆起した海岸を新たに(石川県珠洲(すず)市の)仁江(にえ)町に編入して、災害公営住宅を整備したい」

 泉谷満寿裕(いずみやますひろ)市長は今月9日、市議会にそう提案した。

 隆起した海岸とは、能登半島地震で海底が海面より高い所まで盛り上がった所だ。今は国有地という扱いだ。

 能登豪雨から1年がたとうとしている中、そのような所への建設を進めなければならない被災地の事情があるという。現場を訪ねた。

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「隆起した所に災害公営住宅を」

 日本海に面し、23世帯の50人ほどが暮らしていた仁江地区は2024年元日、震度6強の揺れに襲われた。山間地が大規模に崩れ、停電や断水が続いた。

 海岸沿いにあった多くの家屋は半壊か、それより軽い被害だったが、帰省した家族ら9人が土砂崩れに巻き込まれ、犠牲となった。

 東西に走る唯一の国道は、東側の珠洲市大谷町方面も西側の輪島市方面も崩落。復旧や対策工事に数年かかる見込みとなり、地区の全域が「長期避難世帯」に指定された。

 こうした状況を受けて、大半の住民は、地区から160キロ余りの道のりがある金沢市の周辺に避難を余儀なくされた。

 24年の春だった。「隆起した所に災害公営住宅を建設できないか」。仁江地区の当時の区長らがそう呼びかけた。

 なぜ、海辺の土地を望んだのか。

 仁江地区に…

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