総裁選の出馬会見、一番のアピール上手は? 広報戦略の専門家が分析
石破茂首相(自民党総裁)の退陣表明に伴う自民党臨時総裁選(22日告示、10月4日投開票)は、20日までに5人の候補者が出馬表明の記者会見を開き、役者が出そろった。
告示を前にした前哨戦となった出馬表明の記者会見では、力を入れる政策だけでなく、各候補者のカラーもにじみ出た。
Advertisement告示前から熱を帯びる総裁選レースで、「見せ方」がうまかったのは誰なのか? 広報戦略の専門家に分析してもらった。
高評価だった2人
20日までに出馬表明を行ったのは、会見順に▽茂木敏充前幹事長(69)▽小林鷹之元経済安全保障担当相(50)▽林芳正官房長官(64)▽高市早苗前経済安保担当相(64)▽小泉進次郎農相(44)――の5人。
全員が昨年の総裁選の経験者だ。
広報戦略に詳しい社会構想大学院大の石川慶子教授によると、総裁選での見せ方でポイントとなるのは、候補者の明るさや人望だけでなく、実績を基に分かりやすく未来を語れるストーリー性を持たせられるかどうかだ。
その上で、石川さんが前哨戦で軍配を上げたのは、高市氏と小泉氏だった。
石川さんの5人の評価はこうだ。
高市氏は約1時間半あった会見のうち、約50分もの時間を冒頭発言に費やした。
実体験に基づくエピソードを盛り込み、時折織り交ぜる関西弁も高市氏らしさを演出した。
「話は長いが、具体性はありました。女性の視点も強調し、表情も豊かで表現力に優れていました」
石川さんはそう評価し、メークもかつての華美さを抑えていた点に着目した。
「女性や弱者の目線を取り入れ、タカ派のイメージを払拭(ふっしょく)しようとしたのではないでしょうか」
一方、小泉氏は会場の演出がシンプルだった。
候補者5人の中でただ一人、キャッチコピーが書かれたパネルなど、背景のセットを準備せず、脇に国旗のみを据えた。
昨年は「決着 新時代の扉をあける」と記したセットを組んでの出馬会見だっただけに、石川さんは「あえて変えたのでは」とみる。
高市氏と同様に口角の上がった表情も良く、スーツの着こなしでも他の男性候補者よりも秀でていた。
一方で、「不安要素」に挙げた点もあった。
想定問答を確認するように、下を見る仕草だ。
抜群の知名度を誇りながら、途中で失速した昨年の総裁選同様、今回も論戦の乗り切り方がポイントになりそうだ。
気迫があったのは…
迫力や気迫があったのは小林氏だったという。
知名度では引けを取るものの、小泉氏と並ぶ若手候補者として、会見では力を込めた発声と大きな身ぶりが目立った。
だが、話に具体性が乏しかった点が残念だったと分析した。
「実績を語った上で未来を語った方が良かった。観念的になってしまい、もったいなかったです」
靖国神社への参拝に関する質問にも、小林氏は「首相として適切に判断する」と短く答えただけで、リスクコントロール力を見せた一方で、冷たい印象を与える結果となった、と指摘する。
同様の質問に参拝への思いを語った高市、小泉両氏とは差が生じた点だ。
先陣を切って会見に臨んだ茂木氏は、もう少し言葉に迫力が欲しかったという。
会場には透明な板に原稿を映すプロンプターも用意され、周到さがうかがえた。
だが、優秀さが伝わる一方で、表情が分かりづらく、言葉が間延びする点もマイナスだった、とみる。
「発声練習で声に深みは出せます。ロジカルに訴えるだけでなく、聞く人に未来を想像させてほしかった」
同じくもう少し気迫が欲しかったというのが、林氏だ。
数多くの閣僚をこなした「万能型」の候補だが、表情を変えず淡々と話す姿は、インパクトが残らない難点があるという。
他方、音楽の素養も兼ね備えた林氏らしく、耳に心地よい声質は高く評価した。
岸田、石破両政権で官房長官を務めた林氏。政権イメージを刷新する「新鮮さ」では不利な立場だが、石川さんは「自民党の層の厚さは示せます。党全体のレピュテーション(評判)は上がるのではないでしょうか」とみる。
近年の選挙では、交流サイト(SNS)の浸透も相まって、政策だけでなく候補者の「見せ方」にも注目が集まり、総裁選も例外ではない。
5人の何気ない身ぶりや口調、表情にまで視線が及びそうだ。【川口峻】