糖と脂肪の「記憶」が食欲を刺激、脳の新たな回路を発見、研究

新しい研究によると、渇望はしばしば記憶に根ざしているようだ。科学者たちは、脳が高カロリー食品のことを記憶していて、私たちが空腹でないときにさえ食べてしまうものに密かに影響を及ぼしている可能性があることを発見した。(PHOTOGRAPH BY HEATHER WILLENSKY, THE NEW YORK TIMES/REDUX)

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 高カロリーの食べ物への食欲を促すこれまで知られていなかった脳内の回路が、マウスを使った実験で見つかった。1月15日付で学術誌「Nature Metabolism」に発表された研究によると、海馬という記憶をつかさどる脳の部位にある特定のニューロン(神経細胞)集団は、糖分や脂肪分にまつわる感覚や感情を記録していることが分かったという。マウスでは、これらのニューロンが食べ物への渇望を誘発して、食べ過ぎにつながっていた。

 渇望は、マウスが空腹でないときにも見られた。しかし、研究者がこれらのニューロンを取り除くと、マウスの糖分や脂肪の摂取量は減り、食事に誘発される肥満を防ぐことができた。

「すべての動物は食べ物を摂取する必要があるので、生存のための空腹動因が備わっています」と、米モネル化学感覚センターの客員研究員で、今回の論文の最終著者であるギョーム・ド・ラルティーグ氏は説明する。動因とは、生物を行動にかりたてる要因のことだ。

 科学者たちはこれまで、体がエネルギーを必要としているときに生じる「代謝的空腹」と、おいしそうな食べ物を見たり匂いを嗅いだりしたときに生じる「快楽的空腹」を区別してきた。今回の研究で、そこに「記憶駆動型空腹」という第3の空腹が新たに加わった。

 近年、脂肪や糖分に関する記憶が、しばしば意識されることなく、私たちの食行動に影響を及ぼしていることを示す証拠が集まりつつある。動物を使った実験とはいえ、今回の研究成果もそうした証拠の1つだ。

 高カロリー食品だらけのこの世界で、私たちがある種の食べ物に渇望を感じる理由は、これらの神経パターンによって説明できるのかもしれない。(参考記事:「「超加工食品」の多い食事、うつや認知症の割合が高かった、研究」

脳がジャンクフードの誘惑に勝てない理由

「食べ物を手に入れるには、環境の中でどのように動けば最善の選択ができるか。生物の仕事は、それを理解することです」とカナダ、マギル大学の心理学者・神経科学者で、代謝・脳部門のカナダ卓越研究教授であるダナ・スモール氏は言う。

 スモール氏によると、カロリーが不足していた初期の人類は、匂いや見た目や場所などの感覚的な手がかりを利用して、エネルギーが豊富な食べ物を識別することを学んだという。私たちがものを食べた後、脳はこれらの情報を、食べたときの感情と一緒に保存し、食べ物の味と効果に関する心の「データベース」を作る。

「つまり、私たちがものを食べるときには、潜在意識の中で外の世界と内なる世界を統合しています。それが記憶というものなのです」と氏は言う。

ギャラリー:ようこそドーナツの聖地ロサンゼルスへ 写真20点(写真クリックでギャラリーページへ)

ハリウッドにあるユニバーサル・スタジオで販売されている巨大ドーナツ。(PHOTOGRAPH BY THEO STROOMER)

 これらのシグナルは、脳の報酬系におけるドーパミンの放出に影響を及ぼす。すると脳は、この情報に基づいて食べ物の評価をアップデートし、次に同じ風味に出会ったときにそのデータを利用する。例えばあなたがパン屋の前を通るとき、パンに関する内的な記録(つまり記憶)が活性化して、パンへの渇望を呼び起こすのだ。(参考記事:「ドーパミンは「快楽物質」ではない、“幸せホルモン”の真実」

 マウスを対象とした今回の研究では、糖分と脂肪の記憶は別々の回路で保存され、どちらもドーパミンの放出につながることが分かった。ほとんどの食品には脂質か炭水化物のどちらかが含まれているが、超加工食品にはその両方が含まれている。

 超加工食品は、両方の回路を同時に活性化させ、報酬反応を増幅させる可能性がある。私たちが超加工食品に抗い難い魅力を感じるのは、そのせいかもしれない。

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