「朝食を抜く」「夜遅い夕食」は骨粗鬆症性骨折リスクを高める可能性 食習慣と骨折の関連を調査 奈良県立医科大学

朝食抜きと遅い夕食の習慣が、骨粗鬆症性骨折リスクの上昇と関連していることが、初めて明らかにされた。奈良県立医科大学の研究グループの研究結果であり、「Journal of the Endocrine Society」に論文が掲載されるとともに、プレスリリースが発行された。

研究の背景:食習慣は骨粗鬆症による骨折リスクに関連があるのか?

骨粗鬆症による骨折は、とくに高齢者においてADL(日常生活動作)の低下を引き起こし、本人および家族のQOL(生活の質)を大きく損なう。寝たきりや施設への入所につながることもあり、生命予後にも影響を及ぼす。また、骨折による手術費、リハビリテーション費、そして介護費など、経済的負担も大きくなるため、骨粗鬆症を正しく診断・治療し、骨折を予防することは非常に大切。

骨粗鬆症の予防には、リスクの高い人を把握する必要がある。骨粗鬆症のリスクは、加齢、家族歴、薬剤に加え、さまざまな生活習慣がリスクとして関連している。これまで、喫煙、運動不足、睡眠不足が骨粗鬆症のリスクであり、食事のカルシウムやビタミンDの摂取不足の関連は言われていたが、いわゆる食習慣そのものに関する報告は限られていた。朝食抜きは骨密度の低下と関連する可能性があると報告されていたものの、実際の骨折リスクとの関連は不明だった。また夜遅い夕食に関しては、骨粗鬆症との関連を調べた研究自体が存在しなかった。

そこで今回の研究では、健康診断結果と紐づけられた日本の大規模なレセプトデータベース(病院や薬局が保険者へ請求する「診療明細(レセプト)」を匿名化して集めた巨大なデータベース)を活用し、生活習慣に関する問診に答えた人を対象に、「朝食抜き」「遅い夕食」という食習慣が骨粗鬆症性骨折に与える影響を調べた。

研究の成果:食習慣だけでなく、さまざまな生活習慣が骨折リスクに関連している

1,100万人の健診データが連結された日本の大規模レセプトデータベース(DeSCデータベース)を用いて、2014~22年に健康診断を受診し、骨粗鬆症の既往がない20歳以上の人を対象に解析を行った。生活習慣に関する情報は、健康診断時の問診票から取得し、朝食抜き(週3回以上朝食を抜いた)、遅い夕食(週3回以上、就寝2時間以内の夕食を摂る)に加えて、喫煙、運動、睡眠の質など、ほかの生活習慣もあわせて収集した。アウトカムは、レセプトデータに基づき、骨粗鬆症性骨折(大腿骨・橈骨遠位端・脊椎・上腕骨の骨折)の診断とした。

健康診断日を起点として、骨粗鬆症性骨折の発生または観察終了日までを追跡し、不健康な生活習慣の有無による骨折のリスクをCOX比例ハザードモデル※2により求めた。個々の生活習慣による独立したリスクを正確に計算するために、交絡因子となり得る既知の骨粗鬆症のリスクである、年齢や性別、ステロイド薬などの薬剤歴、関節リウマチ・糖尿病などの疾患の有無などで調整した。

対象者92万7,130人を、中央値2.6年追跡したところ、2万8,196人に骨粗鬆症性骨折が発生していた。骨折リスクについて、ほかのリスク因子を調整した後の骨折リスクハザード比(95%CI)は、朝食抜きが18%増加(調整ハザード比※3〈aHR〉1.18〈95%信頼区間※41.12~1.23〉)、遅い夕食が8%増加(aHR1.08〈1.04~1.12〉)を示した。その他の生活習慣では喫煙が11%増加(aHR1.11〈1.06~1.17〉)、運動習慣なしが9%増加(aHR1.09〈1.06~1.11〉)、不十分な睡眠が5%増加(aHR1.05〈1.02~1.07〉)と関連していた。さらに、朝食抜きと遅い夕食習慣をあわせ持つ人は、骨折リスクが23%増加(aHR1.23〈1.13~1.34〉)と、相加的にリスクが増加するという大きな影響が認められた。

とくに重要な点として、朝食を抜く習慣のある集団では、男性が多く、遅くに夕食を摂る、喫煙、運動不足、睡眠不良、体重増加傾向など、複数の不健康な生活習慣の集積が認められた。このことは、朝食抜きという習慣そのものよりも、その背景にある生活スタイルを明らかにして介入することの重要性を示唆している。例えば、働き盛りで忙しい男性では、朝食を摂る時間が確保できず、帰りが遅く夕食も遅くなりがちであることや、ストレスによって喫煙や飲酒量が増える可能性なども考慮する必要がある。

本研究の限界として、観察研究であることから因果関係を示すものではない点が挙げられる。生活習慣の改善によって本当に骨折を予防できるかどうかの証明には、前向きの介入研究が必要。一方で今回の結果は、肥満、2型糖尿病、高血圧、脂質異常症などは生活習慣病として知られているが、骨粗鬆症も重要な生活習慣病の一つであることを明確に示している。骨の健康のためにも、健康的な食習慣とともに運動習慣、禁煙、お酒を飲み過ぎないなど総合的な指導が大切と言える。

プレスリリース

朝食抜き・遅い夕食の習慣は骨折リスクを高める可能性があるー1100万人のデータ解析で食習慣との関連を初めて明らかにー(奈良県立医科大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Dietary Habits and Osteoporotic Fracture Risk: Retrospective Cohort Study Using Large-Scale Claims Data」。〔J Endocr Soc. 2025 Aug 28;9(9):bvaf127〕 原文はこちら(Oxford University Press)

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スポーツ栄養Web編集部


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日本のアスリートは百日咳ワクチンの追加接種を受けるべきではないかとする、岡山大学病院感染症内科の萩谷英大氏の論文が、「IJID Regions」に短報として掲載された。要旨を紹介する。

ポストコロナで百日咳が世界的に流行

百日咳は百日咳菌による感染症で、基本再生産数は15~17と報告されており感染力が強い。罹患すると風邪症状に始まり、数週間から数カ月にわたり咳が続くことがある。さらに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック終息後には、マクロライド耐性株による流行が世界的規模で発生している。

幼児期から思春期にかけて、ワクチンの繰り返し接種が世界標準

百日咳の最も効果的な予防法はワクチン接種であり、国際的には幼児期から思春期にわたり繰り返し接種が推奨されている。例えば米国疾病対策センター(CDC)は、生後6カ月までに初回シリーズ(3回)を接種し、生後15~18カ月、就学前期(4〜6歳)、思春期初期(11〜12歳)の追加接種を推奨している。

日本の定期接種は乳幼児期までで終了、ワクチンのタイプも異なる

一方、我が国では、生後6カ月までに3回、12〜18カ月に1回の計4回が定期接種として行われるものの、それ以降は任意接種となるため大半の人は幼児期以降にブースト接種を受けていない。さらに、日本で用いられているワクチンは、ジフテリア、百日咳、破傷風に対する三種混合(DPT)ワクチンのみであり、抗原毒素量が海外で使われているものよりも多く、接種後の局所副反応が強く現れやすいという差異も存在する。

国際大会参加アスリート間で流行した事例がある

アスリートが百日咳に罹患した場合、軽快するまでの長期間、トレーニングに支障が生じたり、大会参加が制限されたり、パフォーマンスが低下する懸念がある。実際、過去にはポーランドの射撃ナショナルチームの選手間で百日咳が流行し、期待された成績を上げられなかったという事例の報告がある。

日本のスポーツを世界水準にするためには、ワクチン接種を世界標準に

国際化の進展とともに、人々の感染症罹患リスクは高まっており、国際大会に出場するアスリートも同様と言える。これらを論拠として萩谷氏は、「我が国のスポーツを世界水準に引き上げるためには、ワクチン接種政策を国際標準にあわせることが不可欠」と述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「Should Japanese athletes undergo booster vaccination for pertussis?」。〔IJID Reg. 2025 Jul 31:16:100718〕 原文はこちら(Elsevier)

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スポーツ栄養Web編集部


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思春期におけるインターネット依存やソーシャルメディア使用障害は、食事の質の低下を介して摂食障害のリスク上昇と関連しているとする研究結果が報告された。トルコの高校生を対象とする横断研究の媒介分析とネットワーク分析からの知見であり、著者らはネット依存をターゲットとする介入が、この世代の食習慣と精神的健康を向上させ得ると述べている。

思春期のネット依存や食習慣の乱れは、後年の健康にも影響を及ぼす可能性がある

思春期は心理社会的発達の重要な時期であり、保護者の影響力の低下、および、感受性の高まりにより仲間から受ける力の上昇によって行動パターンが形成され、それが精神的・および身体的健康を左右する。思春期の行動パターンのうち、乱れた食行動(disordered eating;DE)は、有病率の高さと影響の及ぶ範囲の広さから、とくに重要な懸念事項として浮上している。最近のシステマティックレビューとメタ分析では、思春期の約22%に乱れた食行動(DE)がみられると推定されている。DEはしばしば、食事制限、過食、体型への過度なこだわりと結びつき、摂食障害(eating disorders;ED)のリスクと関連している。

一方、思春期のもう一つの問題として近年、インターネット依存症とソーシャルメディア使用障害の双方を含めた、問題のあるインターネットの使用(problematic internet use;PIU)の重要性が指摘されるようになった。PIUは、感受性とアイデンティティー形成が進む思春期において不適応な行動を増やすと考えられており、かつDEの修正可能な危険因子として報告されている。

他方、健康的な食習慣を含む健康的なライフスタイルは、ストレスや不安を軽減し、感情を安定させることが示されている。よって、健康的な食生活を守ることは、DEとPIU双方のリスクを抑制する可能性がある。

健康的な食習慣のパターンとして、地中海食が世界中で広く知られ実践されている。大うつ病性障害を含む精神疾患の治療における地中海食の有効性に関するエビデンスも存在し、さらに思春期世代の心理的苦痛の軽減や自己管理力との関連の報告もある。

以上を背景として本論文の著者らは、地中海食の実践状況で評価した食事の質が、思春期の子どものPIUの少なさやDEリスクと関連している可能性を想定し、以下の研究を行った。研究仮説として、(1)PIUはDEリスクと正の相関関係にある一方、食事の質は負の相関関係がある、(2)食事の質はPIUとDEリスクの関係を媒介する――という2項目が設定された。

トルコ国内の高校生を対象に横断調査を行い、媒介分析およびネットワーク分析

研究対象は、トルコ国内から無作為に選ばれた高校3校の生徒647人。乱れた食行動(DE)または問題のあるインターネットの使用(PIU)のため治療中の生徒、出席していない生徒、保護者の同意のない生徒は除外されている。なお、事前の統計学的検討で、この仮説の検証に必要なサンプルサイズは631と計算されていた。

PIUやDEのリスク、食事の質などの評価には次項に挙げる、いずれも精度検証済みの評価法を用いた。

解析対象となった高校生の特徴

解析対象者のおもな特徴は、年齢16.0±0.90歳、男子46%で、BMIは20.8±3.0であり、31%が低体重、11%が過体重・肥満だった。

摂食態度調査票(Eating Attitudes Test;EAT-26)は26項目で、それぞれ0~4点のリッカートスコアで回答し、合計20点以上の場合、乱れた食行動(DE)のリスクありと判定する。本研究では平均13.1±11.0点であり、20点以上でDEリスクありとされたのは18.2%だった。

若年者対象インターネット依存度テスト短縮版(Young Internet Addiction Test;YIAT-SF)は、12項目でそれぞれ1~5点のリッカートスコアで回答し、スコアが高いほど依存度が高いと判定する。本研究では平均31.3±9.6点であり、乱れた食行動(DE)リスクの有無で比較すると、DEリスクなし群(30.0±9.0点)に比較しDEリスクあり群(36.0±10.64点)は、スコアが有意に高かった(p<0.001)。<>

ソーシャルメディア障害(Social media disorder;SMD)尺度は、9項目の質問の5項目以上に該当する場合に、ソーシャルメディア障害と判定する。本研究での平均該当項目数は3.1±2.3であり、乱れた食行動(DE)リスクなし群(2.9±2.2)に比較しDEリスクあり群(4.1±2.5)は該当項目数が有意に多かった(p<0.001)。<>

地中海食品質指数(Mediterranean Diet Quality Index;KIDMED)は16項目からなり、3点以下は食事の質が悪い、4~7点は改善が必要、8~12点は食事の質が良いと判定する。本研究では平均4.4±2.3点であり、DEリスクなし群(4.3±2.3点)に比較しDEリスクあり群(5.0±2.4点)は、スコアが有意に高かった(p=0.004)。

このほかに、DEリスクの有無で、性別の分布(女子の割合)、世帯収入、父親の教育歴、および、1日のネット利用が2時間以上の割合については有意差がなかったものの、母親の教育歴に有意差がみられ、DEリスクあり群で大学・大学院以上の割合が有意に高かった(18.0 vs 28.0%、p=0.04)。

ネット依存度と乱れた食行動のリスクとが有意に正相関

前記の各指標の相関を検討すると、若年者対象インターネット依存度(YIAT-SF)とソーシャルメディア障害(SMD)との間に強い正相関が認められた(r=0.679、p<0.001)。また、乱れた食行動(de)リスクは、yiat-sf(r=0.300)およびsmd(r=0.274)と中程度の正相関があり、地中海食品質指数(kidmed)とは弱い正相関(r=0.153)が認められた(すべてp<0.001)。一方、bmiはすべての行動指標とも有意な相関を示さなかった。<>

このほかに媒介分析からは、問題のあるインターネットの使用(PIU)は地中海食品質指数(KIDMED)の低さ(β=-0.12、p=0.002)と関連しており、地中海食の遵守が乱れた食行動(DE)のリスクの上昇(β=0.15、p<0.001)と関連していることが示された。間接効果は有意であり(β=-0.02、p=0.016)、部分的な媒介効果が認められた。<>

ネットワーク分析から、YIAT-SFはDEリスク、SMD、およびKIDMEDをつなぐ中核的な因子であることが示唆された。

これら一連の結果を基に論文の結論は、「インターネット依存症は、食生活の質を介した乱れた食行動のリスク上昇と関連しており、思春期世代への介入において、この課題への対処が求められる」とされている。また著者らはこのトピックに関する、より長期にわたる研究の必要性を述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「The interaction between problematic internet use, diet quality, and disordered eating risk in adolescents: a mediation and network analysis」。〔Eat Weight Disord. 2025 Aug 4;30(1):61〕 原文はこちら(Springer Nature)

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スポーツ栄養Web編集部

0.001)と関連していることが示された。間接効果は有意であり(β=-0.02、p=0.016)、部分的な媒介効果が認められた。<>0.001)。また、乱れた食行動(de)リスクは、yiat-sf(r=0.300)およびsmd(r=0.274)と中程度の正相関があり、地中海食品質指数(kidmed)とは弱い正相関(r=0.153)が認められた(すべてp<0.001)。一方、bmiはすべての行動指標とも有意な相関を示さなかった。<>0.001)。<>0.001)。<>

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中国の800人以上のレクリエーションランナーを対象に行われた、レース中の消化器症状に関する調査の結果が報告された。4人に1人以上が消化器症状を来すこと、女性より男性に多いこと、レース前とレース中の食事が症状発現に関係していることなどが示されている。

長距離レースではエネルギー摂取が需要だが、それが消化器症状を招きがち

持久系競技では長時間にわたるレース中にエネルギーを枯渇させないことが結果を大きく左右し、とくに炭水化物の摂り方が重要となる。しかし、食事の摂取がレース中の消化器症状の発現に関与していることも知られている。これは、運動中には筋肉への血流が優先され、消化管の血流が不足することが原因と考えられている。

レース中の消化器症状を抑制し、かつエネルギー需要を満たすための栄養戦略の模索が続けられているが、消化器症状の発現には日常の食習慣も関与している可能性がある。今回取り上げる論文の著者によると、長距離ランナーの消化器症状に関するこれまでの研究の多くは、動物性食品中心で高脂肪食であることの多い欧米で行われてきており、植物性食品中心で高繊維であることの多い中国人での研究は少ないという。

これを背景に著者らは、中国国内の長距離ランナーの食習慣とレース中の消化器症状について、横断的な調査を行った。日本人の食習慣も、調理法という点では炒める・揚げるの多い中国とやや異なるものの伝統的に植物性食品が中心であり、欧米での研究に比べ参考になる点が多いかもしれない。

800人のレクリエーションランナーを対象に調査

この研究は、中国の長距離ランナーの栄養状態を把握する目的で実施されている大規模調査「中国マラソン栄養調査(China Marathon Nutrition Survey;CMNS)」のサブスタディとして、2024年に実施された。研究参加の適格基準は、フルマラソン、ハーフマラソン、10km走、トレイルランニングなどの長距離競技大会に参加経験がある18歳以上のランナー。重度の疾患有病者、代謝に影響を及ぼし得る薬剤の服用者、妊婦・授乳中女性などは除外した。

レース中の消化器症状については、精度検証済みの質問票(Gastrointestinal Symptom Rating Scale;GSRS)を用いて評価した。GSRSでは、腹部膨満感、腹痛、便意などの11項目の症状を7段階のリッカート尺度(症状なしは1、最も重度の不快感は7)でスコア化する。

好発症状やその関連因子などが明らかに

オンライン、オフラインにより計929人が回答し、データ欠落等を除外して805人を解析対象とした。おもな特徴は、年齢39.7±10.0歳、男性74.9%、BMI22.6±4.3で、ふだん参加している競技はマラソンが42.5%、ハーフマラソン64.6%、その他9.3%。トレーニング歴は5年未満が60.7%、1カ月の走行距離は100~200kmが43%、大会参加回数は5回未満が40.4%だった。

性別により好発症状がやや異なる

全体の26.1%のランナーが、レース中に消化器症状を経験したと回答した。最も一般的な症状は、膨満感(18.6%)、便意(17.8%)、および腹痛(16.5%)だった。

症状の出現率は性別によって異なり、男性の上部消化管症状として膨満感(19.6%)と腹痛(18.1%)、下部消化管症状として便意(18.9%)と下痢(16.9%)が多く、女性では上部消化管症状として膨満感(15.8%)と腹痛およびげっぷ(ともに11.9%)、下部消化管症状として便意(14.4%)、脇腹の痛み(12.4%)が多かった。

レースの中盤に最も症状が現れやすい

消化器症状の出現頻度と重症度はレースのステージによって異なっていた。

症状はレース中盤で最も多く現れ(30.0%)、また重症度スコアもレース中盤が最も高かった(2.43±0.22)。レース終盤になると症状の出現頻度は低下したが(16.7%)、症状は引き続き比較的強いと報告された(2.26±0.29)。性別で比較すると、女性は男性よりもレースの序盤での症状発現が多かった。

症状発現との関連因子

消化器症状の発現に関連のある因子を検討すると、複数の有意な因子が特定された。

まず、男性は女性よりも症状を経験している割合が高く(27.9 vs 20.8%、p=0.048)、年齢については34歳以下の場合にその割合が高かった(p=0.014)。最も有意性の強い因子は、胃炎、機能性消化不良、過敏性腸症候群、慢性便秘など、臨床的に診断された状態または自覚症状の既往歴だった(p<0.001)。<>

ランニングの経験年数、トレーニングレベル、レース歴、レース前の睡眠およびストレスレベルとの有意な関連は認められなかった。

栄養戦略との関連

回避する食品

大半のランナーが消化器症状のリスク抑制のため、何らかの食品の摂取を制限していて、制限をしていないとの回答はわずか5.5%だった。摂取を避けるとの回答が多い食品は、魚介類(47.5%)、赤身肉(26.2%)、豆類(25.3%)、乳製品(24.1%)、紅茶/コーヒー(19.4%)であり、一方で、エナジーバー/ジェル(3.1%)、エナジードリンク(3.2%)、スポーツドリンク(4.8%)を回避するとの回答は少数だった。

摂取タイミング

レース前の食事のタイミングも消化器症状の発現に影響を与えていた。レース開始30分以内の食事は、腹部膨満感(p=0.017)、便意(p=0.040)、鼓腸(p=0.011)の増加と有意に関連していた。また、レース中に消化器症状を経験したランナーは、レース後に食欲不振を報告する可能性が高く(p<0.001)、この点は回復への影響という点でも対策を要する事項と考えられた。<>

消化器症状を訴えたランナーの76.2%が、症状がパフォーマンスに悪影響を及ぼしていると回答した。症状出現時の対策として最も一般的なものは、走行ペースを落とすが76.2%、歩くまたは休憩をとるが41.0%であり、53.8%がこれらの対策を効果的と感じていた。症状を経験することのあるランナーの3%は、症状緩和を目的として非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を使用していると回答した。なお著者らは、NSAIDsの使用には腸の健康への潜在的なリスクを示唆する研究があると付記している。

消化器症状に関する情報源については、42.2%がソーシャルメディアに頼っていると回答し、次いで書籍や雑誌が37.8%、友人や家族との会話が31.8%だった。

論文の結論は、「本研究の結果はレクリエーションランナーの消化器症状を軽減するために、個別化された食事計画の重要性を強調している。レース前の食事のタイミングを調整し、特定の食品を避けることで、不快感を軽減できる可能性がある。今後の研究では、持久系競技におけるアスリートの健康とパフォーマンスを向上させるための、個々のランナーに合わせた栄養とトレーニングのアプローチを探求する必要がある」と総括されている。

文献情報

原題のタイトルは、「Gastrointestinal symptoms among recreational long distance runners in China: prevalence, severity, and contributing factors」。〔Front Nutr. 2025 Jul 23:12:1589344〕 原文はこちら(Frontiers Media)

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スポーツ栄養Web編集部

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神経性過食症の女性患者を対象とする、全国6大学の付属病院とナショナルセンター1施設による多施設共同ランダム化比較試験の結果、治療者誘導型オンライン認知行動療法の有効性をアジアで初めて、また世界で2例目として実証された。「JAMA Network Open」に論文が掲載されるとともに、関係機関のサイトにプレスリリースが発表された。この介入により、過食や代償行動のエピソードが減少し、寛解率も向上することが明らかにされたという。著者らは「病院に通う負担を軽減し、自宅で専門的な治療を受けることができる新しい選択肢として、今後の広い活用が期待される」としている。

研究の概要:治療アクセスが限られている過食症患者にオンラインで専門治療を提供

神経性過食症は、深刻な健康障害を伴う精神疾患だが、科学的根拠のある認知行動療法を提供可能な施設は都市部に偏在しており、専門家も少ないため、専門的な治療を受ける機会のない患者が多数存在する。このような問題を解決するため、日本文化に合わせた治療者誘導型オンライン認知行動療法が開発され、その有効性が全国6大学病院、1ナショナルセンターによる多施設共同ランダム化比較試験で検証された。

外来診療中の神経性過食症と診断された女性61人を対象とする研究の結果、通常治療のみのグループ(外来診療のみ)に比べて、治療者誘導型オンライン認知行動療法グループは、過食と代償行動(嘔吐・下剤乱用など)の回数が顕著に減少したことを、アジア圏で初めて実証した。これは2024年7月のドイツの研究チームの報告に次いで、世界で2番目の報告。

これにより、外来通院の負担を減らし、自宅で専門的な治療を受けられる新たな選択肢として、治療者誘導型オンライン認知行動療法の普及が期待される。

研究の背景と経緯:日本の文化を考慮したオンライン認知行動療法の模索

神経性過食症は有病率が増加しつつあり、慢性化や深刻な身体的・心理的な健康障害を引き起こすリスクを伴う。しかし、効果的な治療を受けられる機会は依然として限られている。

とくに日本を含むアジア圏では、神経性過食症の女性を対象とした治療者誘導型オンライン認知行動療法の有効性や受容性が十分に検証されていなかった。そこで本研究では、日本文化に適応させた治療者誘導型オンライン認知行動療法の有効性と受容性を、日本全国の多施設共同研究で科学的に評価した。

研究の内容:通常治療に比べ、過食や代償行動の合計頻度が有意に減少、寛解率向上

本ランダム化比較試験は、スウェーデンのリンショーピング大学の協力を得て、2022年8月~2024年10月まで、日本国内の6大学病院、1ナショナルセンター(福井大学、鹿児島大学、東北大学、千葉大学、徳島大学、獨協医科大学埼玉医療センター、国立精神・神経医療研究センター)で実施した。対象は、DSM-5(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders fifth edition;精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)で神経性過食症と診断され、BMIが17.5以上で、インターネット環境があり、過去2年間に同様の治療を受けていない13~65歳の女性。

合計61人が本臨床試験に参加し、治療者誘導型オンライン認知行動療法を加えたグループ(31人)と、通常治療のみのグループ(30人)に分けられた。平均年齢は27.8歳、平均BMIは21.1、平均病歴は9.3年で、約半数が就業者だった。

治療者誘導型オンライン認知行動療法を受けたグループでは、通常治療のみのグループに比べ、過食や代償行動の合計頻度の減少が統計的に有意に大きく(平均約10回減少)、重症度の改善が確認された(図1)。さらに、寛解率も統計的に有意に高くなった(約45~55% vs 約13%、図2)。

図1 過食および代償行動エピソード数の12週間後の変化

治療者誘導型オンライン認知行動療法群(Guided ICBT group、左)では、治療前と比べて12週後に過食・代償行動の合計頻度が約10回減少し、重症度の有意な改善が認められた。通常治療群(Usual care group、右)では明確な変化は見られなかった。

(出典:徳島大学)

図2 各グループにおける寛解した患者の割合

摂食障害評価質問票(EDE-Q)の基準値(<2.34および<2.80)に基づき、寛解した患者の割合を示している。治療者誘導型オンライン認知行動療法(icbt)群では、いずれのカットオフでも寛解率が約45~55%と高く、通常治療群(usual class="textR">(出典:徳島大学)2.34および<2.80)に基づき、寛解した患者の割合を示している。治療者誘導型オンライン認知行動療法(icbt)群では、いずれのカットオフでも寛解率が約45~55%と高く、通常治療群(usual>

本研究の結果から、外来診療中の神経性過食症の女性に治療者誘導型オンライン認知行動療法を提供することで、重症度が改善すること、そして寛解者が増えることが示唆された。

この治療法は、自宅で専門的な治療を受けることができる新しい選択肢として、今後の活用が期待される。著者らは、「より幅広い患者への対応や長期的な効果の確認を進めていき、地域による専門治療提供の障壁を取り除き、誰もが適切な治療を受けることのできる社会を目指していく」と述べている。

原題のタイトルは、「Guided Internet-Based Cognitive Behavior Therapy for Women With Bulimia Nervosa: A Randomized Clinical Trial」。〔JAMA Netw Open. 2025 Aug 1;8(8):e2525165.〕 原文はこちら(American Medical Association)

スポーツ栄養Web編集部


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代表的なトランス脂肪酸であるエライジン酸が、DNA損傷※1の際に起きる細胞老化※2および炎症を促進する作用とその分子機構が解明された。エライジン酸を摂取したマウスでは、代謝関連脂肪肝疾患(MASLD)※3の発症時に、肝臓の細胞老化および炎症が亢進するという。東北大学などの研究グループの研究によるもので、「iScience」に論文が掲載されるとともに、プレスリリースが発行された。著者らは、「動脈硬化症やMASLDをはじめとした、トランス脂肪酸関連疾患の画期的な予防・治療戦略の開発につながることが期待される」としている。

研究の概要:トランス脂肪酸がDNA損傷の際に起きる細胞老化および炎症を促進する

一部の加工食品に含まれるエライジン酸などのトランス脂肪酸の摂取は、過去の疫学的知見から、動脈硬化症や生活習慣病(MASLDなど)をはじめとした、加齢や炎症が関連する疾患のリスク因子とされてきたが、炎症誘導の詳細な分子機構は不明だった。東北大学大学院薬学研究科、帝京大学薬学部、静岡県立大学薬学部、岩手医科大学薬学部の共同研究グループは、最も主要なトランス脂肪酸であるエライジン酸が、DNA損傷の際に起きる細胞老化および炎症を促進することを発見した。

エライジン酸は細胞膜上の脂質ラフト※4と呼ばれる膜上の微少領域に取り込まれ、この領域内にサイトカインIL-1受容体を集積させることで、受容体下流における炎症誘導シグナルの活性化を増強し、細胞老化や炎症反応を増幅することが明らかになった。エライジン酸を摂取させたマウスでは、心血管疾患や肝がんの引き金となるMASLDの発症時に、肝臓の細胞老化および炎症が亢進した。動脈硬化症やMASLDなどのトランス脂肪酸関連疾患の画期的な予防・治療戦略の開発につながる重要な研究成果といえる。

詳細な説明:代表的な人工型であるエライジン酸のみが炎症促進作用を有している

研究の背景:人工型でなく、天然型のトランス脂肪酸の分子機構は未解明

トランス脂肪酸は、トランス型の炭素-炭素間二重結合を一つ以上含む脂肪酸の総称。食用油脂の製造・加工過程で副産物として産生され、一部の加工食品に含有されるエライジン酸などの「人工型」トランス脂肪酸は、過去の疫学調査を中心とした知見から、動脈硬化症、神経変性疾患、生活習慣病(糖尿病、MASLD)などの加齢や炎症が関連する諸疾患のリスクファクターとなることが示唆されている。欧米諸国ではこれまでに、食品中含有量の制限等の規制も導入されてきた。

一方、主にウシなどの反芻動物の胃の中の微生物によって産生され、乳製品や牛肉などに多く含まれるトランスバクセン酸などの「天然型」トランス脂肪酸については、上記疾患との疫学的関連性は低いものの、実際の毒性の有無については科学的根拠が乏しいのが現状。その主な要因は、トランス脂肪酸摂取に伴う関連疾患の発症・増悪の詳細な分子機構についての理解が十分に進んでいないことにある。

研究の概要:エライジン酸が細胞老化・炎症を促す分子機構を解明

研究グループは、トランス脂肪酸関連疾患全般に細胞老化および炎症が共通して密接に関与することに着目して、U2OS(ヒト骨肉腫)などの細胞株にエライジン酸を前処置して、予め細胞内に取り込ませたうえでDNA損傷を与え、細胞老化を誘導した。その結果、エライジン酸存在下では、細胞老化およびそれに伴うIL-1α、IL-6、IL-8などの炎症促進因子の産生が亢進した。本作用は、エライジン酸の幾何異性体にあたるオレイン酸(天然に豊富に存在するシス型二重結合を有する脂肪酸)、あるいは食品中に含まれるエライジン酸以外の主要なトランス脂肪酸4種類ではいずれも認められなかったことから、エライジン酸特有の作用であることが判明した。

詳細な解析から、DNA損傷時に、エライジン酸が炎症関連因子の発現誘導に主要に寄与する転写因子NF-κBの活性化を促進すること、その上流で働くキナーゼ分子群TAK1、IKKの活性化が増強することを見いだした。そこで、TAK1/IKK/NF-κB経路※5の最上流にあたるIL-1受容体の関与を想定し、その活性化に重要とされる細胞膜上の脂質ラフトと呼ばれる膜上の微少領域に着目した。

エライジン酸存在下では、IL-1αによるリガンド刺激時のIL-6/8の発現が上昇したこと、メチル-β-シクロデキストリン処置による薬理的な脂質ラフトの除去によって、IKKやNF-κBの活性化が抑制されたことから、IL-1受容体および脂質ラフトの寄与が確認できた。さらに、脂質ラフト画分を生化学的に分離して脂質解析を行ったところ、細胞に添加したエライジン酸が実際に脂質ラフト画分に効率よく取り込まれることが確認され、エライジン酸存在下では、同画分中におけるIL-1受容体の存在量が有意に増加していた。

以上の結果から、エライジン酸は脂質ラフトに取り込まれることで、IL-1受容体を同領域内に集積させ、IL-1リガンド刺激に伴うNFκBの活性化を増強することでIL-1α/6/8の産生を促進することが明らかとなり、細胞老化および炎症を正のフィードバック機構によって促進する一連の分子機構が解明された(図1)。

図1 エライジン酸による細胞老化および炎症の促進機構

エライジン酸はリン脂質成分として脂質ラフトと呼ばれる細胞膜上の微少領域に取り込まれ、本領域へのIL-1受容体の集積を促進する。DNA損傷時に細胞老化が起きると、IL-1α/6/8などの炎症関連因子が発現誘導されるが、エライジン酸存在下では、IL-1αの産生・分泌に伴うIL-1受容体の活性化が増幅され、TAK1/IKK経路を介した転写因子NF-κBの活性化が亢進することで、さらなる細胞老化・炎症が引き起こされる(正のフィードバック機構)。本機構による炎症反応の促進作用は、代謝関連脂肪肝疾患(MAFLD)などのトランス脂肪酸関連疾患の発症や進展に寄与すると考えられる。

(出典:東北大学)

さらに、野生型マウス(C57BL/6J)に12週間高脂肪食を与えることでMASLDを誘導した際の餌中のエライジン酸の有無が本病態に与える影響を解析したところ、エライジン酸摂取時には、肝臓における老化細胞数、およびIL-1βやcol1a1などの炎症や肝臓線維化にかかわる遺伝子群の発現の有意な増加が認められた。したがって、エライジン酸の摂取に伴い、MASLD発症時に、実際に肝臓における細胞老化および炎症が亢進することが、マウス個体レベルでの実験でも確認できた。

社会的意義と今後の展望:関連疾患の予防・治療戦略の開発や提案に期待

トランス脂肪酸関連疾患には細胞死も深く関与するが、同研究グループを中心に、エライジン酸などの人工型トランス脂肪酸が細胞死を促進することが示され、その分子機構について解明が進んできた。その一方で、トランス脂肪酸摂取と全身性炎症(血中の炎症マーカーCRPの増加)の関連性を示した知見や、トランス脂肪酸が実際に炎症を誘導・促進することを示した細胞・個体レベルでの知見は存在するが、その背景にある具体的な分子機構については謎に包まれていた。

本研究成果は、トランス脂肪酸による炎症誘導・促進メカニズム、および老化や関連疾患の発症・増悪機構の全容解明につながる重要な基礎的知見として位置付けられる。また、トランス脂肪酸の中でも、代表的な「人工型」であるエライジン酸のみが炎症促進作用を有していたことから、乳製品や牛肉に含まれる天然型のトランス脂肪酸については過度に注意する必要はない一方で、人工型トランス脂肪酸の食品中含有量や摂取量について引き続き注視していく必要があると考えられる。

なお、本研究成果は、あくまでもがん細胞株を利用した分子メカニズムの解析、マウスを利用した個体レベルでの解析の結果に基づくもの。したがって、実際の生理的な条件、具体的には、正常な細胞やヒトの体内において、本知見によって得られた分子機構や現象が同様に認められるか否かについては、今後のさらなる調査や検証が必要であり、今回得られた知見に関しては、そのような観点から、慎重な解釈が必要。今後、トランス脂肪酸による細胞老化や炎症の誘導・促進作用に関する研究や解明が進むことで、関連疾患の予防・治療戦略の開発や提案につながることが期待される。

プレスリリース

トランス脂肪酸が老化・炎症を促進する分子メカニズムを発見 -生活習慣病の発症予防・治療戦略の開発に期待-(東北大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Elaidic acid drives cellular senescence and inflammation via lipid raft-mediated IL-1R signaling」。〔iScience. 2025 Aug 6;28(9):113305〕 原文はこちら(Elsevier)

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スポーツ栄養Web編集部


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国内の小学生のSNS利用状況と身体イメージとの関連性を調査した研究結果が報告された。SNSを使っている女児は、自分が実際よりも太っていると考える傾向があることや、性別にかかわらず、SNSを使っている子どもは、身近にいる友達やクラスメートよりもメディア上の人の体型を理想と考えていることが明らかにされている。筑波大学大学院人間総合科学研究科の馬場朝美氏、麻見直美氏らの研究によるもので、論文が「European Journal of Investigation in Health, Psychology and Education」に掲載された。

研究の背景:SNS利用は小学生の身体イメージにも影響を及ぼしている?

SNS利用の拡大と低年齢化

テレビや雑誌などに登場する人の体型が、若者の身体イメージに影響を及ぼし、痩身願望を強めたり、過度の食事制限、メンタルヘルスの不調、摂食障害などのリスクを高めたりする可能性が指摘されている。さらに今世紀に入って以降、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)が台頭し、従来型メディアよりも強い影響力を持ちうることが指摘されるようになった。

ただし、これまでのところ、このトピックに関する研究は若年成人や思春期以降の青年を対象に行われている。その一方でSNSの利用は低年齢化していて、2023年の調査では、日本の小学校高学年の58%がLINEやTikTok、Instagram、XなどのSNSを利用していると報告されている。

若年男子の痩せ問題

他方、従来、メディアによる身体イメージへの影響は、性別で比較した場合、男子よりも女子により強く現れると考えられている。その理由として、女子は男子よりも外見を重視すること、対人関係によって考え方が影響されやすいこと、男子よりも思春期が早く発来し体格が変化してくることなどの関与が想定されている。それらの結果として、若年女性の痩せすぎが、しばしば公衆衛生上の課題として指摘されている。

しかし近年、日本の思春期前の男児の間で痩せが増加していることが報告されるようになってきた。女児と同様に男児にも、過剰な痩身願望が広がっている可能性が考えられる。

これらを背景として馬場氏らは、国内の小学生男児・女児を対象として、SNSの利用状況と身体イメージの調査を実施し、両者の関連性を検討した。

研究の方法:小学校2校の3~6年生を対象として横断的に解析

この研究は、公立小学校2校の3~6年生を対象とする横断研究として行われた。1,525人が参加し、回答内容の不備を除外し1,261人(82.7%)を解析対象とした。解析対象者は平均年齢が9.64±1.15歳、女児52%だった。

SNS利用状況の把握

「自宅で勉強以外の目的で頻繁に利用するメディアを選択してください」という質問と、その選択肢として、通話、テキストメッセージ/チャット(LINE、カカオトークなど)、テレビ視聴、ゲーム、動画視聴(YouTubeなど)、アプリ利用(Instagram、X、Snapchat、Facebookなど)、情報検索、漫画鑑賞、読書などを挙げた。これらのうち、LINE、カカオトーク、Instagram、X、Snapchat、Facebookを選択した子どもを「SNS利用群」とし、それらを選択しなかった子どもを「SNS非利用群」とした。

このほかに、スクリーンタイム(自宅での勉強以外の目的でのテレビ、スマートフォン、タブレット、ゲーム機などの利用時間)を質問した。

身体イメージの把握

身体イメージは7段階のシルエットチャート(1:非常に痩せている~7:非常に太っている)から、自分自身があてはまるものと、理想と考えるものを選択してもらい、両者の差を計算。差がない(スコア0)は、自分の体型が理想と一致していることを意味し、スコアがプラスの場合は痩せていることを望んでいる、スコアがマイナスの場合は太っていることを望んでいると判定した。

また、自分自身の体型を5段階スケール(痩せすぎ、やや痩せている、標準、やや太っている、太りすぎ)の中から選択してもらい、これを実際の体型(学校保健統計の身長・体重の標準値からの乖離の程度で分類)との差を計算。差がない(スコア0)は、自分の体型を適切に認識していることを意味し、スコアがプラスの場合は実際よりも太っていると考えている、スコアがマイナスの場合は実際よりも痩せていると考えていると判定した。

このほかに、理想的な身体イメージ像を、家族、親しい友人、クラスメート、メディアに登場する人(有名人、モデル、アイドル、アスリート、インフルエンサー、SNS上の人など)、および「該当する人はいない」の中から選択してもらった。

解析結果:SNS利用がメディア中の人の体型賞賛や、女児の体型誤認識に関連

全体として、460人(36.5%)がSNS利用群に該当した。性別で比較すると、男児は29.6%であるのに対して女児は42.9%と、SNSを利用している子どもが有意に多かった(p<0.001)。一方、1日のスクリーンタイムは男児が98.31分、女児は88.02分で、男児のほうが有意に長かった(p<0.001)。<>

自分自身の身体イメージのスコアは、男児が3.89、女児は3.83で有意差はなかった。一方、理想とする身体イメージは同順に3.77、3.45で、女児のほうがより痩せている体型を理想としていた(p<0.001)。その結果、自分自身の身体イメージと理想とする身体イメージとの乖離は、男児の0.12に対して女児は0.38と大きく、有意差があった(p<0.001)。<>

自分自身の体型(肥満または痩せの程度)の認識と実際の体型との乖離は、男児は-0.31、女児は-0.18であり、男児のほうが誤って認識していることが多い(実際より痩せていると考えがち)という差が認められた(p=0.007)。

理想的な身体イメージ像については、「該当する人はいない」が男児は69.7%、女児は60.5%を占めともに最多だったが、具体的に選択された人としては、「メディアに登場する人」が最多であり、男児では19.6%、女児では20.3%を占め、家族や友人、クラスメートを凌駕していた。

SNSを利用している女児は、自分自身の体型の認識と実際の体型の乖離が大きい

SNS利用群とSNS非利用群を性別ごとに比較すると、男児ではスクリーンタイムに有意差が認められた(SNS利用群106.95分 vs 非利用群94.73分、p=0.002)。女児では、スクリーンタイム(同順に106.95 vs 94.73分、p=0.025)のほかに、自分自身の体型の認識の誤りの大きさや(-0.20 vs -0.36、p=0.014〈SNS非利用群のほうが実際より痩せていると考えている〉)、理想的な身体イメージの存在の有無(SNS利用群では「該当する人はいない」が少なく「メディアに登場する人」を理想とする割合が多い)にも有意差があった(p=0.004)。

次に、自分自身の身体イメージと理想とする身体イメージとの乖離、および、自分自身の体型の認識と実際の体型との乖離を目的変数、SNSの利用を説明変数とする多変量解析を実施。その結果、男児については調整変数にかかわらず、SNSの利用は身体イメージや体型の認識の乖離の有意な説明変数として抽出されなかった。

一方、女児についてはスクリーンタイムと肥満度で調整した場合に、自分自身の体型の認識と実際の体型との乖離の独立した説明変数として、SNSの利用が抽出された(β=0.08〈95%CI;0.00~0.26〉)。β値がプラスのため、SNSの利用が両者の乖離の拡大と関連している(SNSを利用していると自分が実際より太っていると認識しがちである)ことを意味している。なお、自分自身の身体イメージと理想とする身体イメージとの乖離に関しては、女児においてもSNSの利用との関連は認められなかった。

性別にかかわらず、SNSの利用は「メディアに登場する人」を理想とすることと関連

続いて、理想的な身体イメージの存在を目的変数とする解析を実施。すると、男児・女児ともに、「メディアに登場する人」を理想の身体イメージとすることの独立した説明変数として、SNSの利用が抽出された(スクリーンタイムと肥満度を調整変数とするモデルでのオッズ比が、男児は1.71〈95%CI;1.11~2.65〉、女児は1.87〈1.25~2.78〉)。

思春期前から、SNS利用による誤った身体イメージの形成に注意が求められる

まとめると、日本人小学生のSNS利用は、女児において、自分自身の体型を実際よりも太っているとの誤認と、独立した関連が認められた。また、性別を問わず、身近な友人やクラスメートではなくメディアに登場する人を、理想的な身体イメージとすることと関連していた。

著者らは、「思春期前の子どもたちのSNSの利用は、身体イメージの認識や体型の好みに悪影響を及ぼす可能性がある。思春期前からSNSを使い過ぎないように働きかけることが、思春期以降の子どもたちの健全な身体イメージの形成を促すのではないか」と述べている。また、「SNSの利用が身体イメージにどのように影響するかを理解することが重要であり、その関係の根底にあるメカニズムを明らかにするための研究が、日本ではまだ少ない」と指摘し、今後の研究の発展に期待を表している。

文献情報

原題のタイトルは、「Association Between Social Networking Service Use and Body Image Among Elementary School Children in Japan」。〔Eur J Investig Health Psychol Educ. 2025 Jul 7;15(7):125〕 原文はこちら(MDPI)

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スポーツ栄養Web編集部

0.001)。その結果、自分自身の身体イメージと理想とする身体イメージとの乖離は、男児の0.12に対して女児は0.38と大きく、有意差があった(p<0.001)。<>0.001)。一方、1日のスクリーンタイムは男児が98.31分、女児は88.02分で、男児のほうが有意に長かった(p<0.001)。<>

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グルカゴン様ペプチド-1受容体作動薬(GLP-1受容体作動薬)を用いた肥満治療の社会的な影響を考察した、欧米の研究者によるレビュー論文の要旨を紹介する。GLP-1受容体作動薬使用中止後のリバウンドに対するサポート体制が不備であること、コストの点で治療を受けられる人とそうでない人の格差が生じており、持続可能性に課題があることなどが述べられている。

イントロダクション

世界では約7人に1人が肥満であり、この割合は2035年までに4人に1人へと増加すると予測されている。肥満は2型糖尿病や心血管疾患などのリスク因子であり、医療経済へ多大な負のインパクトを与え、また個人のQOL低下を招く。

この肥満に対して、グルカゴン様ペプチド-1受容体作動薬(GLP-1受容体作動薬)は、初めての極めて有効かつ安全な薬物治療の選択肢として登場した。治験段階では最大15~25%の減量効果が報告され、臨床においても高い減量効果が示されている。しかし、治療適応のあるすべての人が同薬にアクセスできるわけではなく、また補助的な行動療法の最適化に関する知見が限られており、さらに使用中止後のリバウンドへのサポート体制はほとんど確立されていない。

GLP-1受容体作動薬から最良の結果を得るために、GLP-1受容体作動薬がもたらし得る社会的な影響の総括が必要とされている。

GLP-1受容体作動薬は減量に非常に効果的である

GLP-1受容体作動薬による肥満治療により、体重の有意な減少とともに心血管イベントリスクの低下も報告されている。安全性プロファイルは一般に良好であり、高頻度に現れる消化器症状も多は時間の経過とともに軽減する。ただし場合によっては治療中止につながる。この点に関しては、GLP-1受容体作動薬とともに、グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(glucose-dependent insulinotropic polypeptide)の分泌刺激作用をもつGLP-1受容体作動薬/GIPデュアルアゴニストでは、消化器症状の頻度が低く、GIPの制吐作用が影響している可能性がある。

GLP1-RA使用に関連する別の懸念は、減量後の除脂肪体重、特に骨格筋の減少である。除脂肪体重の相対的減少は脂肪量の相対的減少よりも小さいため、身体機能の改善につながる可能性があるものの、この考え方はまだ推測の域を出ない。十分なタンパク質摂取とレジスタンス運動を併用することで、フレイルが懸念される場合の有用な緩和戦略となる可能性がある。

GLP-1受容体作動薬による肥満治療を提供する医療従事者の課題

これらの新薬は、今後数年間で体重管理の基盤となる可能性が非常に高い。米国では、2030年までに全人口の9%がGLP-1受容体作動薬を使用するとする推計もある。しかし、医療システムがそのような急速な普及を妨げる律速因子となるかもしれない。プライマリケア医が患者の体重管理にあてる時間は限られていて、補助的な行動支援をなし得る環境が整っていないことが多い。

今後のGLP-1受容体作動薬治療の成功は、治療提供者である一般開業医、看護師、栄養士、臨床心理士などのサポートが鍵となる。GLP-1受容体作動薬治療の有効性が社会的に認知されるようになり、その治療を求めて受診する患者が増加しているが、その需要に対応できる体制が整っていない医療機関も存在している。また、患者が高い期待を抱く一方で、当然ながら臨床医は処方と継続的なモニタリングの責任を負うことになり、一部の医療者が慎重になる傾向もみられる。

リバウンド

GLP1-RA治療では、その中止後にしばしば比較的大きなリバウンドがみられる。リバウンドの速度は、行動療法による介入で減量を達成後し介入を中止した場合に比べ、より速い傾向が報告されている。例えば、行動療法による介入後のリバウンドは年間0.12~0.32kgというデータがある一方、セマグルチドと補助的な行動支援ではその中止から1年後に、減少した体重の3分の2(約11.5kg)が戻ったという報告がある。

この課題に対する容易な解決策は、GLP-1受容体作動薬を使い続けることである。しかし米国での初期のデータによると、自己負担で治療を継続する患者は稀であり、肥満治療では約半数が1年以内に使用を中止している。将来的にGLP-1受容体作動薬の特許が切れ、より安価な薬剤が利用可能になれば変化することも考えられるものの、現状では減量とリバウンドを繰り返す「ヨーヨーダイエット」の懸念がある。

体重管理における不平等を拡大させるリスク

米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、および欧州の一部など、GLP1-RA療法が最も普及している国では、社会経済的格差がこの治療へのアクセスの差となって表れている。現在、GLP1-RAはわずかなメーカーの寡占状態であり、これが他の医薬品の場合と同様に高コストにつながっている可能性が高い。

特許が切れ始めると価格が下がる可能性があるが、すべての肥満患者がGLP-1受容体作動薬療法を受けられるようになるのは、たとえ高所得国であっても遠い先のことと思われる。低栄養と過栄養という二重不可に直面している国では、肥満治療のためにコストをかけることは困難であることが多いと考えられ、アクセスの不平等が拡大するのではないか。

肥満によるスティグマ

肥満の状態にある人は、体重に関連するスティグマを経験することが多い。GLP-1受容体作動薬治療の普及によって、このようなスティグマが緩和されるのではないかという考え方もある。しかし、減量・代謝改善手術を受けた人を対象とする研究からは、そうはならない可能性が示唆されている。定性的な研究によると、手術によって大幅に減量が達成された後も依然としてスティグマを抱えているという。

さらに、減量・代謝改善手術を受けた人は、「安易な選択肢を選んだ」と批判されていると感じていると報告されている。今後の研究では、GLP-1受容体作動薬による減量が肥満関連のスティグマにどのような変化を及ぼすのか調査する必要がある。

治療に効果的な反面、予防の妨げになる可能性

GLP-1受容体作動薬という極めて効果的な減量手段が、肥満治療の改善につながるという確かな見通しがある。しかしながらこの治療法が普遍的に利用可能な手段でないことは既に明らかであり、長期的なコストなどから、大半の個人および医療制度にとって持続可能な選択肢にはなり得ず、体重増加の予防は依然として重要である。

肥満の予防と治療は、互いに排他的ではない。これらの新薬を使用している人はより健康的な食習慣を身につける傾向があるという複数のエビデンスが存在し、米国ではGLP-1受容体作動薬の使用が増えるにつれて、食品の売上が減少していると報告されている。ポジティブに捉えれば、このような変化は、保護者がGLP-1受容体作動薬を使用している世帯の子どもを含む他の世帯員の肥満予防につながるかもしれない。しかし一方で、食品業界の行動に一定の規制をかけることで社会全体の肥満リスクを下げようとする公衆衛生戦略を、人々が軽視するような変化を生じさせてしまいかねない。

ここに挙げた課題は、どれも容易に解決できることではない。これらの課題の複雑さは、肥満予防への取り組みをより一層推進する必要性を改めて示している。

文献情報

原題のタイトルは、「The societal implications of using glucagon-like peptide-1 receptor agonists for the treatment of obesity」。〔Med. 2025 Aug 14:100805〕 原文はこちら(Elsevier)

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スポーツ栄養Web編集部


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2025年8月23日(土)・24日(日)の2日間、東京・中央区立築地社会教育会館を会場に、小学校3~6年生とその保護者を対象にした、スポーツ栄養学&料理教室ワークショップ「パラアスリートと料理教室 おいしく食べて強くなろう!」が開催されました。

本イベントは、パラスポーツを応援する東京都のプロジェクト「TEAM BEYOND」が主催、神奈川県立保健福祉大学大学院保健福祉学研究科の鈴木志保子研究科長が監修、味の素株式会社が協力。世界で活躍するパラ水泳の鈴木孝幸選手とブラインドサッカーの鳥居健人選手をゲストに、それぞれの選手の栄養サポートを行う公認スポーツ栄養士・鈴木志保子先生と秋葉美佳先生とともに、座学と料理教室で「パワー回復」や「強い身体作り」の秘訣を学びました。

参加したのは抽選で選ばれた約100名の親子で、1日目午前の回も夏休みの思い出や自由研究にと15組の親子が集いました。初日はパラ水泳の鈴木孝幸選手(以下、タカ選手)と公認スポーツ栄養士・鈴木志保子先生(以下、志保子先生)のコンビが登壇。冒頭、ずっしりと大きな金・銀・銅メダルを見せてもらってから講義がスタートです。

食事と休養で、日々の回復を丁寧に行う

タカ選手は、6大会連続でパラリンピックに出場し、パリ2024パラリンピックでは4つのメダルを獲得しました。通算メダル獲得数は「14」。先天性四肢欠損症で、右腕の肘から先がなく、左手は指が二本と短い指が1本、右足は根本付近からなく、左足は膝下からありません。38歳となる現在も、さらなる肉体進化のために科学的なトレーニングと栄養学が欠かせないと言います。

「僕は1回の練習で約4km泳いでいます。こうした練習を継続するためには、栄養をしっかりとって、十分に睡眠を確保することが欠かせません。僕の場合は身体を大きくしたいというよりも、できるだけ疲労の少ない状態でトレーニングに取り組めるよう、日々の回復を丁寧に行う。疲れを癒し、食事と休養で体を整えることを意識しています」(タカ選手)

疲れた時、何を食べる?

日本パラリンピック委員会強化本部委員であり、車いすバスケットボールなど多くのパラアスリートの栄養サポートを長年行っている公認スポーツ栄養士・鈴木志保子先生(SNDJ理事長)から、「疲れた時に何を食べる?」という問いが投げかけられ、パワー回復メニューを子どもたちに発表してもらいました。

「まず給食を思い出して!身体のエネルギーとなるご飯やパン、麺類を“主食”と言います。次はおかず!肉や魚、卵、豆・豆製品を使ったおかずを“主菜”と言います。そして“副菜”と言われる野菜のおかず。それに果物や牛乳、ヨーグルトをつける。献立は、この5つのグループの食品をまんべんなくとるように考えます。では、カレーライスはどのグループ? ご飯があって、カレーには肉と野菜が入ってるから、1皿で主食・主菜・副菜がとれる。これにサラダと牛乳と果物をつけると栄養バランスのよい食事になります」(志保子先生)

食材シールを使って、パワー回復できる最強ごはんプレートを子どもたちに考えてもらいました

「疲れている時には何を食べるか? すごく疲れているときは胃腸も疲れているので、消化の負担になるようなメニューをなるべく避けること。脂っこくなくて消化吸収が早いものを選び、脂っぽいものは練習がない日に食べて消化吸収を促します。ふつうは、練習をしてない日は動いてないから脂っぽいものは食べないようにしようと思うものですが、トップアスリートになると、その日の運動量と自分の身体と相談して、消化吸収の状態を見ながらメニューを考えます。

でも、一番大切なのは“おいしく食べること!”。では、なんで“おいしく食べる”のがいいかわかる? おいしく食べると胃腸の消化吸収がよくなるんです。お母さんとかに怒られながら食べると消化吸収が悪くなるから気をつけて(笑)」と志保子先生。

器用にトマトを切るタカ選手!

後半は、「パワー回復レシピ」として、タカ選手が大好きな麻婆豆腐をつくります。まず、タカ選手が作り方をレクチャー。車いすに立ったまま慣れた手つきで豆腐を切り、フライパンでひき肉を炒め、豆腐やネギ、調味液を絡めて仕上げていきます。会場に漂うおいしそうな香り!そしてもう一品、トマトとブロッコリーのサラダを作ります。どうやって片手でトマトを切るの? とみんなが見守ります。タカ選手はここでも器用にトマトをスライスして盛り付けました。できあがあったら、参加者も料理スタート。親子で仲良く麻婆豆腐をつくり、試食タイムへ。

成長期はしっかり食べよう!

食後は質問タイム。あるお母さんから、子どもでも太らないように意識したほうがよいのか、という問いかけに志保子先生は答えます。

「文部科学省のデータでは、女子は小学校5~6年生の時期に身長が最も伸びやすいとされ、個人差はあるものの早い子は4年生ごろから、遅い子は6年生から中学1年生ごろにかけて成長のスパートが始まります。一方、男子は中学でスパートがかかることが多い。この重要な時期には、過度に運動量を増やすのではなく、まず「しっかり食べる」ことが不可欠です。身長が伸びれば体重が増えるのは自然なことで、身長だけが伸びて体重が増えないのは、いわば中身の伴わない成長と同じ。成長に必要なエネルギーが不足すると、身長の伸びが抑えられてしまう可能性もあります。したがって、「少し太ってしまうかも」と感じる程度であっても、成長期には十分な量を食べることが望ましいのです。特に主食(ご飯)を中心に、どれくらい食べるかの目安を決めてとってください。成長曲線をつけて成長スパートを把握することも大切です」

成長曲線分析・予測ツール

最後に、志保子先生とタカ選手からのメッセージです。

志保子先生「みんな、自分は何kgで生まれたかお母さんに聞いてみてください。いま何倍になっていますか? どうやって大きくなった? そう、栄養のあるものを食べたから。食べないと大きくならないんですよ。その食べ物を自分のためにどれだけ入れるか入れないかで自分の一生が変わってくる。身体は自分が食べたものでできているんです。美味しく食べて、しっかり大きくなって、自分のやりたいことを思い切りやってください!」

タカ選手「みなさんと2時間楽しく過ごすことができました。今日得た栄養の学びをぜひ、日々の生活に生かしてもらいたいと思います。僕もこれから、9月は世界選手権(シンガポール)がありますし、来年は日本(名古屋)でアジアパラ競技大会も開催されるので、がんばります!みんな応援よろしくお願いします!」

世界で活躍するパラアスリートとスポーツ栄養士から、最新のスポーツ栄養学に基づいた食や栄養摂取の考え方を学び、一緒に料理を作れて楽しかったと参加者たちは嬉しそうに帰っていきました。

「TEAM BEYOND」とは

「TEAM BEYOND」はパラスポーツへの関心を高め、応援する人を増やす東京都のプロジェクトで、2016年からスタートし今年で10年を迎えます。東京2020パラリンピック以降も、ダイバーシティ実現を目標に様々な活動が展開されています。「TEAM BEYOND」を通じたパラスポーツへの理解を広める活動は今後も続きますので、機会があれば皆さんもご参加を!

関連情報

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スポーツ栄養Web編集部


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一般社団法人日本スポーツ栄養協会(理事長・鈴木志保子)主催の「志保子塾」の2025年度(第8期)後期が10月からスタートします。スポーツ栄養を学び、実践に活かしたいビジネスパーソンが全国から参加する人気セミナー。初めての方もリピートの方も大歓迎!ご参加をお待ちしております。

「ビジネスパーソンのためのスポーツ栄養セミナー」とは

通称「志保子塾」と呼ばれる当セミナーは、日本におけるスポーツ栄養学の第一人者、当協会・鈴木志保子理事長から直接講義を受けられる唯一のスポーツ栄養セミナーです。2025年度で8期目を迎え、延べ2千名以上が受講。仕事で使える実践的な栄養知識をつけたいビジネスパーソンのためにスタートしたセミナーですので、企業の開発・研究職やマーケティングの方をはじめ、スポーツに関わる専門職の方、スポーツ栄養を学びたい管理栄養士・栄養士など、様々な方が集います。

講義では、鈴木理事長の著書『理論と実践 スポーツ栄養学』をテキストとして使用し、6回に分けて1冊を学びます。毎回の講義は約4時間にわたり、PC画面越しでも伝わる講師の熱量を感じながらの講義「スポーツ栄養の理論と実践」、他では聞けない現場の経験談、業界トレンドなど、その圧倒的な情報量とわかりやすさ(面白さ)に定評があります。同じテーマでも最新情報がどんどん追加されていきますので、何度もリピートする方が多いのも特徴です。

オンライン受講なので、場所を問わず、交通費もかからず、PCやスマホから手軽に参加、LIVE配信では質疑応答タイムに講師へ直接質問もできます。さらに、3日間の見逃し配信もあるので、平日開催のLIVE配信に参加できない方も、期間中何度でも聴講して学びを深めていただけます。

セミナーは年2回、前期(4月~9月)と後期(10月~翌3月)に分かれており、興味のあるテーマ回のみの単回受講も可能です。

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2025年 後期 セミナー開催日程

ライブ配信:2025年10月14日(火) 13:30~17:00 見逃し配信:2025年10月18日(土)~10月20日(月)

スポーツ栄養とは? その意義とアスリートにおける栄養摂取の基本的考え方からスタート。エネルギー消費と代謝のメカニズム、最も重要なエネルギー源である糖質摂取の意義、糖質の選び方・食べ方、シーンに応じた摂取目安量、タイミング、グリコーゲンローディングやリカバリー活用のしかたなどについて詳しく解説します。

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第2回 タンパク質、ビタミン、ミネラルの摂取とサプリメントの活用

ライブ配信:2025年11月18日(火) 13:30~17:00 見逃し配信:2025年11月22日(土)~11月24日(月)

アスリートの脂質、タンパク質、ビタミン・ミネラルの摂り方を取り上げます。特に、タンパク質の適正な摂取量を知り、リカバリーや筋合成のためにどのように摂るとよいかを詳しく解説。摂りきれなかった栄養素を補うサプリメントの利用、競技力向上を目的に栄養素以外の成分をサプリメントで摂取するエルゴジェニックエイドとしての活用についても学びます。

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第3回 アスリートの食事、スポーツ栄養マネジメントを用いた栄養管理システムの活用

ライブ配信:2025年12月16日(火) 13:30~17:00 見逃し配信:2025年12月20日(土)~12月22日(月)

アスリートの運動量に応じた適正量を知り、目標達成のためにどのような食品をどのタイミングで食べるか、食材選び、食事構成、補食・間食のとり方の極意を講義します。理に適った糖質とタンパク質の摂り方、食塩摂取の考え方、生活リズムと朝食の関係など、具体的なノウハウを学びます。

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第4回 試合期・遠征時の栄養管理

ライブ配信:2026年1月20日(火) 13:30~17:00 見逃し配信:2026年1月24日(土)~1月26日(月)

通常の食事と試合期の食事は異なります。緊張や興奮からくる栄養状態への影響と対策を考えた試合前、試合当日の食事の原則・栄養管理のポイント、TPOに応じた糖質やタンパク質、水分摂取について講義します。

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第5回 アスリートにおける栄養面の課題~増量、エネルギー不足、貧血、疲労骨折を中心に~

ライブ配信:2026年2月17日(火) 13:30~17:00 見逃し配信:2026年2月21日(土)~2月23日(月)

アスリートにおける栄養面の課題をテーマに、エネルギー不足による健康問題、治し方、予防策、様々な理由による貧血、疲労骨折の原因と予防、増量・減量の正しい行い方を講義します。"エネルギー不足"の弊害は、実はまだあまり知られていませんが、アスリートに限らず、子どもや高齢者、女性など、あらゆる世代に関わる大きな問題です。

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第6回 対象アスリート別栄養管理~ジュニアアスリート、女性アスリート、パラアスリートを中心に~

ライブ配信:2026年3月10日(火) 13:30~17:00 見逃し配信:2026年3月14日(土)~3月16日(月)

選手の目標・課題達成のためのサポート計画に基づいた「スポーツ栄養マネジメント」の流れ、対象者別コンディション管理、評価のしかたを中心に講義を行います。女性の三主徴、発育発達期のエネルギー摂取の考え方、シニアやパラアスリートのサポートについても詳しく解説。

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スポーツ栄養WEB編集部


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ケトジェニックダイエットを行っているアスリートが、運動直前に糖質を摂取することで、パフォーマンスか向上するという研究結果が報告された。ただし、有意な影響が観察されるのは運動の30分前という直前に摂取した場合であって、2日間にわたって摂取した場合は有意でなく、この結果には筋肉と肝臓のグリコーゲンへの影響の違いなどが関与している可能性があるという。英国からの報告。

ケトジェニックダイエットを長期間続けているアスリートにも糖質は有効?

糖質の摂取量を極めて少量に制限することで、ケトン体の産生量を増やし、それをエネルギー基質として利用できるように代謝を変えることを意図した「ケトジェニックダイエット(ケトン産生食)」が、アスリートの間でも徐々に広がってきている。ケトジェニックダイエット(ketogenic diets;KD)によって炭水化物の酸化が抑制され、骨格筋や肝臓のグリコーゲンの貯蔵が温存され、持久力パフォーマンスに対して有利に働くという理論も提唱されている。ただしそれを実証したエビデンスは限られている。

一方、持久力にとって運動前の糖質摂取が重要であることは古くから認識されており、現在に至るまで、さまざまな糖質摂取戦略が試行錯誤されている。KDを実践しているアスリートにおいても、運動前の糖質摂取がパフォーマンスを向上させる可能性があるが、これまでのところ、ケーススタディーや短期間の糖質制限での研究の報告しかなく、長期にわたってKDを行っているアスリートでの知見はみられない。

これを背景としてこの論文の著者らは、最低1年以上KDを続けているアスリートを対象として、運動前の糖質摂取の有用性を検討した。

運動の直前に糖質を摂取するとパフォーマンスに好影響

この研究の参加者は、週に2回以上の頻度で持久系スポーツを行っているレクリエーションアスリート13人。全員が、過去1年以上ケトジェニックダイエット(KD)を継続していること、年齢が18~60歳の範囲であること、非喫煙者であること、摂食障害の既往がないこと、疾患を有していないことという適格基準を満たしていた。なお、KDは、1日あたりの炭水化物摂取量が50g未満または総摂取エネルギー量の10%未満と定義されている。

研究参加者の主な特徴は、年齢41±11歳、女性が13人中2人、BMI23.6±2.0、体脂肪率12.8±5.4%、VO2max49.8±5.4mL/kg/分であり、主要栄養素摂取量(%エネルギー)は、炭水化物5±2%、脂質67±7%、タンパク質27±6%で、安静時のケトン体(β-ヒドロキシ酪酸)レベルは0.8±0.4mmol/L。

糖質摂取の有無および摂取方法を変えた4パターンで比較

試験デザインは、単盲検プラセボ対照クロスオーバー法(ラテン方格法)であり、全員に対して以下の4条件を試行した。各試行には5日以上のウォッシュアウト期間を設け、試行は同一時間帯に行った。また研究期間中はトレーニング内容を変えないように指示し、試行48時間前からは激しい運動を禁止した。

  • 条件1(Acute条件):パフォーマンステストの試行30分前に、糖質60gを含む飲料を摂取する条件(テストの前日や前々日に摂取するものとしてはプラセボを支給)。
  • 条件2(Short条件):パフォーマンステストの2日前および1日前に、糖質200gを含む飲料を摂取する条件(テスト30分前に摂取するものとしてはプラセボを支給)。
  • 条件3(COMB条件):パフォーマンステストの2日前および1日前に糖質200gを含む飲料を摂取し、かつ、テスト試行30分前に糖質60gを含む飲料を摂取する条件(すべてのタイミングでプラセボは支給されない)。
  • 条件4(PLA条件):パフォーマンステストの2日前と1日前、および、テスト試行30分前に、糖質が含まれていないプラセボ飲料を摂取する条件(すべてのタイミングにプラセボを支給)。

呼吸交換比(RER)に有意差

パフォーマンステストには自転車エルゴメーターを用い、50%Wmax(平均139±26W)で60分間の負荷をかけた後、15分間の休憩をはさんで16.1kmのタイムトライアルを行った。

60分間の負荷中に測定されたVO2、心拍数、自覚的運動強度(rate of perceived exertion;RPE)に、条件間の有意差は観察されなかった。ただし、呼吸交換比(respiratory exchange ratio;RER)については、Acute条件は負荷20分以降、PLA条件に比べて高値で推移した。またCOMB条件は60分間にわたりPLA条件に比べて高値で推移し、かつ20分まではShort条件との比較でも有意に高値だった。これは、事前に摂取した糖質がエネルギー基質として優先的に利用されたことを意味する。

タイムトライアルにも有意差

タイムトライアルの結果は、PLA条件と比較して、運動の直前に糖質の摂取を含むAcute条件およびCOMB条件という2条件では、所要時間が有意に短縮されていた。COMB条件ではさらに、Short条件との比較においても有意に短縮されていた。一方、前日までに糖質を摂取し直前には摂取しないShort条件では、PLA条件と有意差がみられなかった。

なお、ピークパワーに関しては、4条件間で有意差はなかった。

運動直前の糖質摂取は肝グリコーゲン温存、血糖低下抑止、中枢刺激を介して働く

以上の結果を基に著者らは以下のような考察を述べている。

まず、糖質を運動の直前に摂取した場合にパフォーマンス上のメリットがあり、前日までに摂取した場合にはメリットが認められないという差異については、直前の摂取により運動中の血糖低下が抑制されること、肝臓と骨格筋のグリコーゲンに対する影響が異なり、急性摂取により肝グリコーゲンが温存されることが関与している可能性があるとしている。また、糖質の洗口(マウスウォッシュ)のパフォーマンス向上効果が知られているように、直前の摂取は高次中枢を刺激することを介してメリットをもたらす可能性があるという。

結論としては、「長期にわたりケトジェニックダイエットを行っているアスリートであっても、運動の直前の糖質摂取が、持久力パフォーマンス向上に寄与し得る」とまとめられている。

文献情報

原題のタイトルは、「Strategic carbohydrate feeding improves performance in ketogenic trained athletes」。〔Clin Nutr. 2025 Jun 25:51:212-221〕 原文はこちら(Clinical Nutrition)

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スポーツ栄養Web編集部


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8~17歳の小児・青年期アスリートの約8~9割が筋骨格系の痛みを自覚していて、「成長痛」との診断を受けている割合も、小児期では3割強、青年期では5割に及ぶという調査結果がスペインから報告された。この研究では、成長痛の一因の可能性のある食習慣についても調査しており、痛みのあるアスリートとないアスリートで、食習慣に有意な違いがみられたという。

アスリートの成長痛の実態を探る横断研究

成長痛は小児の反復性四肢痛の一般的な病態の一つであり、その有病率は調査対象により2.6~49.4%と広い範囲に分布している。成長痛の痛みは通常、夜間に増強し、朝には消退する。成長痛の原因はいまだ特定されていないが、成長ホルモンの分泌が夜間に亢進することが疼痛の日内変動に関与しているのではないか、骨の成長がインパルスを引き起こし夜間は外部刺激が少ないために疼痛が顕著になるのではないかといった説が提唱されている。また、ビタミンDの欠乏など栄養因子が関与する可能性も指摘されている。

一方、栄養に関しては、成長痛の有無にかかわらず、小児・青年期にはとくに重要であることは論をまたない。適切な栄養素の摂取につながる食事スタイルとして、海外では地中海式ダイエットが広く浸透している。地中海式ダイエットは、心血管代謝に対して保護的に働くだけでなく、カルシウムやビタミンD、良質なタンパク質の摂取にも適しており、近年、スポーツ栄養の領域でも評価されている。しかし、地中海式ダイエットと成長痛との関連はほとんど研究されていない。

これらを背景として、今回紹介する論文の研究では、小児・青年期アスリートの成長痛の有病率の推定、および、成長痛と地中海式ダイエットとの関連性の有無が検討された。

小児アスリートの78.5%、青年アスリートの93.5%が「疼痛あり」

調査対象は、スペイン国内の5カ所のスポーツクラブ/アカデミーに所属している8~17歳のアスリートであり、とくに除外条件は設けず、916人を対象とした。参加している競技はサッカーが最多であり、ハンドボール、バレーボール、水泳等が続いた。

疼痛に関しては、「ふだん、スポーツ中に怪我や転倒などをしていない場合でも、筋肉、関節、骨、または腱に痛みや不快感があるか?」、「とくに、夜間に原因不明の痛みを感じるか?」、「医師から成長痛と言われたことがあるか?」と三の質問を行い、いずれかに肯定的な回答した場合は「疼痛あり」と定義した。

解析は、小児(8~12歳)と青年(13~17歳)に分けて行われている。

小児アスリートの32.6%、青年アスリートの51.9%が「成長痛の診断歴あり」

小児アスリート(242人)は男児52.9%で、トレーニング時間は3.7±1.1時間/週、サプリメント利用率0%であり、「疼痛あり」の該当者率は78.5%と約8割だった。それにもかかわらず、鎮痛薬を使用している割合は9.5%にすぎなかった。成長痛の診断歴がある割合は32.6%だった。

一方、青年アスリート(674人)は男子51.0%で、トレーニング時間は7.2±1.2時間/週、サプリメント利用率7.7%であり、「疼痛あり」の該当者率は93.47%と9割を超えていた。それにもかかわらず、鎮痛薬を使用している割合は15.1%にすぎなかった。成長痛の診断歴がある割合は51.9%だった。

性別で比較すると、小児アスリートは「疼痛あり」の該当者率が、男児72.7%、女児85.1%で女児のほうが有意に高値だった。一方、青年アスリートは同順に94.2%、92.7%でほぼ同等だった。なお、成長痛の診断歴がある割合は、小児・青年ともに性別による有意差がなかった。

小児・青年アスリートの疼痛発現抑制のため、早期の栄養教育と予防介入が求められる

食事スタイルは、子どもの食習慣の地中海式ダイエットらしさを判定する16項目の質問票(KIDMED test)で評価した。KIDMED testは0~12点の範囲でスコア化され、8点以上は地中海式ダイエットの高い遵守、4~7点は中程度の遵守、3点以下は低い遵守と判定する。

小児アスリートは、高遵守が39.7%、中遵守が44.2%、低遵守が16.1%、青年アスリートは同順に45.1%、28.8%、26.1%であり、両群ともに中間的なスコアだった。より詳細に比較すると、小児は青年よりも果物と野菜を摂取している割合が高く、青年は健康的な脂質・炭水化物を摂取している割合が高かった。

痛みのあるアスリートとないアスリートでの食習慣の比較

次に、疼痛の有無別に地中海式ダイエットの遵守状況を比較した結果をみると、低遵守グループでは、疼痛なし群とあり群の割合に有意差はなかった(27.1 vs 23.0%)。しかし、中遵守グループでは、疼痛なし群は38.5%を占め、疼痛あり群は32.2%であり、疼痛なし群が有意に多く分布していた(p<0.05)。一方、高遵守グループでは、疼痛なし群は34.4%を占め、疼痛あり群は44.8%であり、疼痛あり群が有意に多く分布していた(p<0.0001)。<>

また、健康的な脂質を摂取している割合は、疼痛なし群が66.7%、疼痛あり群が78.8%だった(p<0.0001)。しかし、非健康的とされる食品を摂取している割合は、疼痛なし群が35.4%であるのに対して、疼痛あり群は49.3%と有意に高かった(p<0.0001)。<>

著者らは本研究について、小児に関しては保護者のサポートを受けて回答したケースが多いと考えられ、回答内容にバイアスがかかっている可能性があること、アンケートの結果のみの解析であり食事記録や臨床データは評価していないことなどの限界があるとしている。

そのうえで、「結論として本研究は、若年アスリートにおける筋骨格痛の有病率の高さを明らかにし、栄養面などの改善可能な因子へ対処する必要性を強調している。運動能力の高い若年者において、筋骨格系の健康の増進と回復の促進、および疼痛発生率を低減するために、早期の栄養教育と予防戦略が重要である」と総括している。

文献情報

原題のタイトルは、「Growing Pains and Dietary Habits in Young Athletes: A Cross-Sectional Survey」。〔Nutrients. 2025 Jul 21;17(14):2384〕 原文はこちら(MDPI)

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スポーツ栄養Web編集部

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当サイトの「アンチ・ドーピング情報コーナー」では、サプリメントの活用と選び方、選手がドーピングから身を守るための防衛術、アンチ・ドーピングの基礎知識、最新の認証製品リストなど、現場で役立つ最新情報をお届けしています。

このたび、Chapter3「INFORMED CHOICE」「INFORMED SPORT」の製品リストに新しいアイテムが加わり情報を更新しましたのでお知らせします。

INFORMED-SPORT 追加製品

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  • ナップルGD/エムジーファーマ(株)
  • シンクロンコーワ アクティブモード/興和(株)
  • シンクロンコーワ アクティブモード顆粒/興和(株)
  • プロテインパワー60:40/(株)ジャコラ
  • AMINO4 ENERGYGEL/(株)スリーピース
  • VITA POWER ENERGY/(株)スリーピース
  • SOUL PROTEIN ISOLATE/(株)トータルライフサポート
  • WPC PURE(ULTRA VALUE)/(株)八宝商会

原材料認証

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2型糖尿病の遺伝的リスクが高い集団において、フルーツジュースを週1回以上飲む人は、糖尿病の発症リスクが最大46%低いという、東京科学大学の研究チームによる論文が「British Journal of Nutrition」に掲載され、プレスリリースが発表された。この知見は、東アジア人由来の約92万カ所の遺伝子多型(SNP)で構成されたポリジェニックリスクスコア(PRS)と食事調査を組み合わせ、遺伝子要因と栄養要因の相互作用を統計的に解析して得られた。遺伝的に糖尿病のリスクが高い人では、適度な果汁摂取が予防的に作用する可能性を示しており、著者らは、個別化された精密栄養指針の策定に貢献する知見と述べている。

研究の概要:フルーツジュースは糖尿病リスクを上げるのか?

東京科学大学の研究チームは、国内13の大学や病院が参加する大規模調査「J-MICC研究」※1に登録された1万3,769人分のデータを用いて、フルーツジュースを飲む頻度と2型糖尿病との関連を調べた。また、個人が生まれもつ糖尿病のなりやすさを数値化した「ポリジェニックリスクスコア(PRS)」※2の高低によって、結果にどのような違いがあるかも比較した。

分析の結果、遺伝的に糖尿病になりやすい上位2割の人たちでは、フルーツジュースをほとんど飲まない場合と比べて、週1回未満飲む人は糖尿病にかかっている割合が約2割低く、週1回以上飲む人では約半分に下がることがわかった。つまり、遺伝的リスクが高い人ほど、適度にジュースを飲むことで糖尿病にかかりにくくなるという段階的なパターンが見られた。一方で、遺伝的リスクが低いまたは中程度の人たちでは、ジュースの摂取頻度と糖尿病との明確な関連は確認できなかった。

この成果は、遺伝的背景に応じた個別の食事指導の重要性を示しており、将来の精密医療や精密栄養学の発展に貢献することが期待される。

研究の背景:生活習慣病リスクの検討には、遺伝的背景の考慮が欠かせない

2型糖尿病は、世界で5億人以上、日本でも成人の約8%が抱える深刻な疾患であり、遺伝的素因と生活習慣の双方が複雑に関与している。しかし、果汁(本研究では100%フルーツジュース)と2型糖尿病との「つながり」を調べた先行研究では結果がまちまちで、明確な指針は示されていなかった。

研究チームではこの課題を解決するため、全国13施設が参加する多施設共同コホート「J-MICC研究」のベースラインデータ1万3,769例を解析した。対象者一人ひとりについて、約92万カ所に及ぶ遺伝子多型を組み合わせてポリジェニックリスクスコア(PGS002379)を算出し、遺伝的な糖尿病リスクの高さに基づいて五つのグループに分類した。

研究の成果:遺伝的ハイリスク者ではフルーツジュースが糖尿病オッズ比低下に関連

解析では、年齢、性別、喫煙、運動などの影響を統計的に調整した多変量ロジスティック回帰モデルを用いて、果汁の摂取頻度と2型糖尿病の有病率との交互作用を検定した。

その結果、遺伝的リスクが最も高い上位20%の集団に限り、果汁の摂取量が多いほど糖尿病にかかりにくいという明確な用量反応パターンが観察された(図1)。

具体的には、果汁を週1回未満しか飲まない人のオッズ比は0.78(95%信頼区間0.65〜0.93)、週1回以上飲む人では0.54(0.30〜0.96)となり、1〜2杯/日飲む人が最も低い値(0.47)を示した。

図1 2型糖尿病リスクにおけるPRSとフルーツジュース摂取との関連

横軸は遺伝的な2型糖尿病のリスク、縦軸は2型糖尿病のオッズ比を示す。遺伝的なリスクの高い人は、フルーツジュースを週に1回以上摂取する(点線)と、摂取しない人(実線)に比べて、2型糖尿病のオッズ比が低いことがわかる。

(出典:東京科学大学)

一方、遺伝的リスクが低いまたは中程度の集団では、果汁の摂取と糖尿病との間に有意な関連は確認されなかった。交互作用項の検定結果は統計学的には有意でないものの(p=0.116)、高リスク群に限定した解析で逆向き効果が再現性高く示された点は注目に値する。

社会的インパクト:画一的な栄養指導の見直しを迫るエビデンス

本成果は、遺伝的に糖尿病を発症しやすい人に的を絞って食事介入を行う「精密栄養学」の実装可能性を高めるものと言える。

現在、「果汁は糖分が多いから控えるべき」と一律に語られることが少なくない。しかし本研究は、遺伝的リスクが高い層においては、適量の果汁摂取がむしろ予防的に働く可能性を示しており、画一的な制限を見直すための科学的根拠となる。

今後の展開:精密栄養ガイドラインの策定に向けて

研究チームでは、「今後は縦断的な追跡データを用いて、果汁の摂取が将来の糖尿病発症を実際に減らすかどうかを検証するとともに、果汁に含まれるポリフェノールなどの成分が糖代謝関連遺伝子とどのように機能的に連携するのかを分子レベルで解明していく。さらに、国際的なゲノム-栄養相互作用コンソーシアムを構築し、民族や食文化の違いを超えた比較研究を推進して、最終的には個人のポリジェニックリスクスコアに基づいた精密栄養ガイドラインを策定し、保健指導や食品産業におけるイノベーションへの活用を目指す」としている。

プレスリリース

フルーツジュースの適度な摂取が2型糖尿病リスクを軽減(東京科学大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Inverse association between fruit juice consumption and type 2 diabetes among individuals with high genetic risk on type 2 diabetes: the Japan Multi-Institutional Collaborative Cohort (J-MICC) study」。〔Br J Nutr. 2025 Jul 10:1-8〕 原文はこちら(Cambridge University Press)

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小中高生を対象に習慣的な栄養素・食品摂取量を簡便かつ定量的に評価するために開発された「簡易型食事歴法質問票(BDHQ15y)」の妥当性について、初めて全国規模かつ幅広い年齢層で検証した、東京大学の研究チームによる論文が「British Journal of Nutrition」に掲載され、プレスリリースが発表された。8日間の詳細な食事記録と比較しBDHQ15yは、検討対象となった44の栄養素と31の食品群のうち、男女ともに19の栄養素、男子で11種、女子で7種の食品の摂取量において、全体的には概ね正確に把握できるという。著者らは、「BDHQ15yは今後、全国規模の食事調査や学校保健における簡易かつ効率的な食事モニタリングツールとして一定の有用性が見込まれ、子どもの栄養状態の把握や食育・健康施策の評価に広く貢献することが期待される」と述べている。

研究の背景・先行研究における問題点:子どもの食習慣を簡便かつ正確に把握するには

食事内容を正確に把握することは、健康への影響を理解し、病気を予防するうえで重要。とくに、成長と発達が著しい小・中・高校生の時期は、生涯にわたる健康の基礎を形成する重要な時期であり、この時期の食生活は将来の健康に大きく影響すると考えられている。しかし、この年代は食習慣の変動が大きく、摂取した食品や量を正しく思い出して申告することには限界があるため、食事の正確な把握が困難とされている。

日本では、小中高生向けに過去1カ月間の食習慣(栄養素・食品摂取量)を定量的に把握するために簡易型食事歴法調査票(BDHQ15y)が開発されているが、全国規模かつ幅広い年齢層を対象とした正確性の検証は十分に行われていなかった。そこで本研究では、BDHQ15yが実際の食事内容をどの程度正確に反映しているかを検証した。

研究内容:BDHQ15yは食事記録調査と、対象全体の中央値に関しては概ね一致

本研究は、全国32都道府県に居住する6〜17歳の小中高生844名(男子432名、女子412名)を対象に実施した。まずBDHQ15yに回答してもらい、その後、各季節に2日ずつ、計8日間の半秤量式食事記録調査を行った。得られたデータをもとに、44の栄養素および31の食品群について、BDHQ15yと食事記録から推定された摂取量の中央値を比較した(図1)。

図1 研究の概要図

(出典:東京大学)

その結果、BDHQ15yは男女ともに19の栄養素で、食事記録との摂取量の差が10%未満と小さく、良好な一致を示した(図2a、b)。

図2a BDHQ15yと食事記録からの栄養素摂取量の差の割合(%)【男子432名】

摂取量の差(%)=(BDHQ15yによる推定値-食事記録による推定値)÷食事記録による推定値×100。赤枠内は、BDHQ15yと食事記録の摂取量の差が10%未満で、高い一致度が認められたもの。

(出典:東京大学)

図2b BDHQ15yと食事記録からの栄養素摂取量の差の割合(%)【女子412名】

摂取量の差(%)=(BDHQ15yによる推定値-食事記録による推定値)÷食事記録による推定値×100。赤枠内は、BDHQ15yと食事記録の摂取量の差が10%未満で、高い一致度が認められたもの。

(出典:東京大学)

食品群では、男子で11種、女子で7種が同様の基準を満たし(図3a、b)、タンパク質、脂質、炭水化物、食物繊維、穀類、野菜、乳製品、加糖飲料などの主要な栄養素および食品群を概ね正確に把握できることが明らかとなった。

図3a BDHQ15yと食事記録からの食品群摂取量の差の割合(%)【男子432名】

(出典:東京大学)

図3b BDHQ15yと食事記録からの食品群摂取量の差の割合(%)【女子412名】

(出典:東京大学)

一方、多くの栄養素と食品群において摂取量が多くなる場合には、BDHQ15yが過大に推定する傾向がみられた。

また、個人ごとの推定値にはばらつきがあり、個人単位での摂取量の評価には慎重な解釈が必要なことが示された。さらに、摂取量の「多い・少ない」を順位付けする能力(ランキング能力)については、スピアマンの順位相関係数の中央値が、栄養素で男子0.33、女子0.28、食品群で男子0.36、女子0.29とやや低めではあるものの、一定の妥当性が確認された(図4、5)。

図4 BDHQ15yと食事記録から推定したエネルギー・栄養素摂取量の相関係数

(出典:東京大学)

図5 BDHQ15yと食事記録から推定した食品群摂取量の相関係数

(出典:東京大学)

社会的意義:子どもの食習慣はBDHQ15yでも把握可能だが、個人の評価には限界

本研究は、成長期の学童・思春期の子どもの食習慣を簡便かつ効率的に把握できるBDHQ15yの妥当性を科学的に裏付けた。これにより、全国規模の食事調査や学校・地域の健康施策のモニタリングにおいて、主要な栄養素や食品群の摂取状況を集団レベルで正確に把握する基盤が整備されることが期待される。こうしたツールの活用は、子どもの栄養状態の継続的な評価・改善、科学的根拠に基づく食育の推進、将来的な健康格差の予防に寄与すると考えられる。一方で、個人ごとの詳細な評価には限界があることから、研究チームでは「今後は精度向上に向けた改良を進める予定」としている。

プレスリリース

子どもの食事を“測る”評価ツール 8日間食事記録との比較により、BDHQ15yの妥当性を全国規模で初検証(東京大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Relative validity of food and nutrient intakes derived from a brief-type diet history questionnaire for Japanese children and adolescents (BDHQ15y)」。〔Br J Nutr. 2025 Aug 26:1-15〕 原文はこちら(Cambridge University Press)

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米国の北東部の都市にある野球のスタジアムで行われた70試合以上のゲームで、スタジアム内の医務室を受診した観客の患者数が、その試合の開始時刻の気温と湿度から算出した「Heat Index(体感温度)」と、中程度の相関関係があるとする研究結果が報告された。著者らは、「この結果は今後の気候変動を見据えた大規模スポーツイベント医療計画に役立つ知見だ」としている。

マスギャザリングでの医療需要

マスギャザリング(mass gathering)と呼ばれる大規模イベントでは、人々が集中することに伴い一時的に当該地域の医療受給バランスが逼迫することがあり、事前の綿密な医療計画の立案が必要とされる。多くの国で、イベント会場の収容人数や予測される観客数に応じて、定められた人数の医師や医療スタッフを予め配置することを義務付けている。例えば米国ニューヨーク州では、5,000人を超えるイベントでは15分以内に医師が到着可能な体制を確保すること、3万人を超えるイベントでは現場に医師を配置することが義務化されている。

マスギャザリングで発生する医療需要については、多くの研究で、三つの因子によって左右されることが報告されている。一つ目は観客の年齢や健康状態などの生物医学的因子、二つ目は観客の文化や行動、参加理由などの心理社会的因子、三つ目は会場の特徴や天候などの環境因子である。

三つ目の環境因子の中では「暑さ」が重要な要素とされており、暑さによる熱中症の増加が世界中で報告されている。これまでもマスギャザリングにおける気温と医療需要の変化との関係を解析した報告はいくつかあるが、気温に相対湿度を加えて算出する、より熱中症リスクを正確に評価可能な「Heat Index(体感温度)」と医療需要の変化との関係は、十分検討されていない。以上を背景として、今回紹介する論文の著者らは、大規模スポーツイベントにおけるその関連を探った。

米国内での野球のゲーム73試合を対象に解析

スタジアムの特徴と観客数

この研究では、2023年4~9月に米国北東部の都市にあるスタジアムで開催された野球の試合、81ゲームからデータが取得された。この球場は収容観客数4万7,309人で、周囲全体が囲われた構造であり、日陰は少なく座席の多くは屋根のない部分に設けられていた。

81試合のうち8試合は解析に必要なデータが十分でなかったため除外し、73試合を解析対象とした。観客数は2万5,007~4万7,295人の範囲で平均4万824人だった。

スタジアムで発生した患者数

会場での医療需要は、本人または救急救命士によって医務室に搬送された患者のうち、医師の対応が必要だった患者数を、原因が熱中症か否かにかかわらずカウントした。なお、市販薬の希望のみで医務室を訪問した患者は除外した。その結果、調査対象期間中の総観客数292万6,363人のうち、受診患者数は92人であり、1試合あたり0~5人の範囲で、平均は1.92±1.13人だった。

観客10万人あたりの患者数(patient presentation rates;PPR)は5.04±1.13であり、7月が6.09±1.66で最も高く、4月が3.19±1.13で最も低かった。

試合開始時点のHeat Index(体感温度)

気温と相対湿度に基づき算出した試合開始時点のHeat Index(体感温度)は、華氏46~91度(摂氏7.8~32.8℃)の範囲であり、平均は華氏70.8度(摂氏21.6℃)だった。

なお、日本では熱中症リスクの評価のために、気温と相対湿度だけでなく、輻射熱や気流も利用して算出する湿球黒球温度(wet bulb globe temperature;WBGT〈いわゆる暑さ指数〉)が用いられており、国際的にもWBGTが使われることが多いが、本研究ではデータが把握されていなかったことから、Heat Indexが用いられている。著者らは論文の考察において、「今後の研究ではWBGTでの検討が必要だろう」と記している。

Heat Indexが10度上昇すると、試合中の患者が1.46人増える

では、研究の主題である、Heat Indexと1試合あたりの患者数との関連の解析結果だが、相関係数(r)は0.37であり、中程度の正の相関関係が認められた(p<0.01)。つまり、気温や湿度が高くheat>

スタジアム内の医務室を受診した患者の主訴として最も多かったのは筋骨格系の訴えで31人(34%)、次いでふらつきが24人(26%)、酩酊状態が9人(10%)だった。

治療を複数回受けた患者もいたため、全試合で述べ108件の処置が行われた。処置内容で最も多かったのは、氷嚢33人(31%)、鎮痛薬(NSAIDsまたはアセトアミノフェン)投与21人(19%)、経口補水液投与11人(10%)などだった。

全患者のうち32人(35%)は病院への搬送が必要と判断され、このうち18人(19.2%)が救急車で搬送された。14人は救急隊による搬送を拒否し、個人の車で搬送された。911番(日本の119番)通報が必要になったケースはなかった。なお、ふらつきによる受診は上記のように全体の26%だったにもかかわらず、病院への搬送を要した症例の38%を占めるという結果だった。

論文の結論は、「Heat Indexは、大規模スポーツイベントである野球の試合における患者発生率と中程度の有意な関連があることがわかった。本研究では、研究期間中の天候の穏やかさから、事前に計画されていた医療体制の供給を上回る医療需要は発生しなかった。しかし、このような相関関係が存在するという知見は、今後の気候の変化が予測される中で、大規模イベントの医療計画の策定に役立つ可能性がある」と総括されている。

文献情報

原題のタイトルは、「Association of Heat Index and Patient Presentation Rate at a Stadium」。〔Observational Study West J Emerg Med. 2025 May 19;26(3):667-673.〕 原文はこちら(The Regents of the University of California)

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スポーツ栄養Web編集部

0.01)。つまり、気温や湿度が高くheat>

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必須アミノ酸とクレアチンが豊富なため良質なタンパク源とされている豚肉が、米陸軍の士官候補生等の運動後の回復を促進することが報告された。主要栄養素量が等しくなるように調整した植物性食品中心の食事と比べる無作為化二重盲検クロスオーバー試験の結果であり、著者らは、「植物性食品を優先する食事スタイル、とくにベジタリアン食を行っている兵士は、回復促進のため1日に6~10gの必須アミノ酸と2~3gのクレアチンを摂取する必要がある」と述べている。

豚肉のタンパク質は必須アミノ酸とクレアチンの含有量が高い‘complete protein’

高強度トレーニングを行っているアスリートや軍人には、回復と筋タンパク質の合成促進のため、1.4~2.0g/kg/日のタンパク質の摂取が推奨され、理想的にはそれに6gの必須アミノ酸(essential amino acid;EAA)、2~3gのロイシンを含むことが勧められている。また、筋肉や脳内のクレアチンレベルを維持するため、2~3g/日の食事由来クレアチンの摂取も必要とされる。これらのタンパク質を植物性のタンパク源のみで摂取することは困難なことが多い。

一方、アミノ酸スコアが高いことの多い動物性タンパク源の中でも、赤身の豚肉はこれら栄養素を多く含んでおり、推奨を満たすうえで適した食材の可能性がある。しかし、高強度運動を行っている人において、赤身の豚肉が植物性食品に比較し、どの程度のメリットを期待できるのかという定量的な検討はあまり行われていない。これを背景にこの論文の研究者らは、米国陸軍の士官候補生等を対象として3日間にわたる戦闘適合試験(army combat fitness test;ACFT)を用いた無作為化二重盲検クロスオーバー試験を行った。

米国の兵士の食事について

米国で兵士に提供される調理済みの戦闘糧食(military-style meals ready-to-eat;MRE)は1食あたり1,300kcalで、炭水化物50%、タンパク質15%、脂質35%とされている。2023年のMRE食事プランでは、主に動物性タンパク質(牛肉、鶏肉、ソーセージ、豚肉、マグロ、チーズなど)を含む14種類のメニューと、主に植物性タンパク質(豆、米、ナッツなど)を含む9種類のメニューがあるが、タンパク源として豚肉を使用しているメニューは1種類のみ。

豚の赤身肉のタンパク質は、MREに使用されている他の大半のタンパク質食品と比べてアミノ酸スコアが高く、EAA、ロイシン、クレアチンの含有量も高い「complete protein(完全タンパク質)」と言える。理論的には、軍事訓練のような激しい運動の前後に、豚肉を主要なタンパク源とするメニューを摂取することで、EAAとクレアチンの可用性が高まり、異化や炎症・酸化ストレスの抑制、免疫、疲労感、筋肉痛などの面に好ましい影響を与えると考えられる。一方で、植物性食品のタンパク質のメニューでは、逆の影響が生じる懸念がある。

3日間の戦闘適合試験(ACFT)とその後の回復等の変化を2条件で比較

この研究の参加者は、米国陸軍士官候補生や退役軍人などから募集された。適格条件と除外基準は以下のとおり。

適格条件

  1. 年齢18~40歳
  2. 過去に士官候補生または現役軍人としての訓練を受けた経験があること
  3. 戦闘適合試験への参加を制限する医学的状態がないこと
  4. プロトコル(研究期間中の鎮痛薬の使用禁止など)を遵守可能なこと

除外基準

  1. 妊娠中、授乳中または妊娠の予定があること
  2. 過去2週間以内のサプリメントや薬剤の使用
  3. 食物アレルギー

50人が応募し40人がスクリーニングを受け35人が適格と判定され、30人からインフォームドコンセントを得られた。研究中の脱落を除き、解析対象は23人(女性6人)となった。無作為に分けた2群のうち1群には、3日間の戦闘適合試験(ACFT)の間、豚肉ベースの戦闘糧食(MRE)を1日3食支給され、他の1群には植物性タンパク質を中心とするMREが1日3食支給された。そしてACFTの最中と終了72時間後まで、計5日間にわたり、採血・採尿検査、筋肉痛や睡眠・食欲・回復状態、認知機能などを評価。14~21日間のウォッシュアウト期間をおいて割り付けを切り替え、再度同様の試験を実施した。

なお、ACFT参加の48時間前からカフェインやアルコールの摂取と激しい運動を禁止した。研究期間中の起床から就寝までのスケジュールは、食事の摂取タイミングも含めて規定されていた。また、支給したもの以外の食品の摂取を禁止した。

支給した戦闘糧食(MRE)について

戦闘糧食(MRE)のメニュー開発には、管理栄養士、および栄養トレーニングを受けた研究者とシェフがあたった。植物性タンパク質中心のMREのタンパク源は、大豆、テンペ、レンズ豆、エンドウ豆、小麦ベースのタンパク質などを用いて、豚肉を用いたMREとエネルギー量や主要栄養素量が等しく、味や外観、食感から区別がつかないように調理された。それらをシェフがラベル付けしたうえで、研究参加者と研究者の双方がどちらのMREか区別できない状態として支給された。

2種類のMREの1日分のエネルギー量は、豚肉の場合3,772kcal、植物性タンパク質の場合3,763kcalで、主な栄養素は以下のとおり。豚肉を使ったMRE/植物性タンパク質のMREの順に、炭水化物は490/510g、タンパク質126/128g、脂質159/155g、必須アミノ酸22.9/15.2g、ロイシン4.3/2.6g、イソロイシン2.3/1.4g、バリン2.8/1.7g、クレアチン1.817/0.215g。

筋肉痛や炎症、睡眠、食欲などは豚肉を使ったMREで良好な結果

解析対象者23人は、年齢が20.0±2.1歳、BMI24.9±2.6、安静時心拍数63.3±11.5bpmだった。論文では評価したさまざまな指標の時間効果や食事条件間の差の検討結果が示されており、それらの中から主要なポイントのみをピックアップして紹介する。

戦闘適合試験(ACFT)後のパフォーマンスの回復は、食事条件にかかわらず3日で十分

戦闘適合試験(ACFT)に含まれているハンドリリースプッシュアップ、プランクテスト、2マイル走は、ACFTの実施により有意に低下した。ただし、72時間後にはベースライン値よりも有意に良好な結果を示し、食事条件による差も認められなかった。

これにより、本研究の参加者のような若年で高強度トレーニングを行っている集団では、ACFTという高い運動負荷を課しても、それによるパフォーマンスの低下は3日後に回復可能であると考えられた。

植物性食品中心の食事スタイルなら、EAAとクレアチンの追加摂取が必要

上記のように、パフォーマンス指標に関しては回復の程度に条件間の差がなかったものの、筋肉痛や炎症マーカー、抑うつレベル、食欲、睡眠の質などの点では有意差が認められ、豚肉を使ったMREのほうが好ましい結果が示された。

一方、血清脂質に関しては、植物性タンパク質ベースのMREのほうが健康的な変化を示した。例えば総コレステロールやLDL-コレステロール、non-HDL-コレステロールが有意に低下し、条件間に有意差が認められた。

これらの結果に基づき論文の結論には、「植物性食品中心の食事を摂取している人は、必須アミノ酸(EAA)やクレアチン含有量が多い豚肉ベースのタンパク質源を摂取する人に比べて、たとえタンパク質の摂取推奨量を満たしていたとしても、軍隊で行われるような激しい運動の後の回復が遅延する可能性がある。そのような食事スタイルの場合、EAAを6~10g/日、およびクレアチン一水和物を2~3g/日の追加摂取を考慮すべきではないか」と記されている。

文献情報

原題のタイトルは、「Effects of Pork Protein Ingestion Prior to and Following Performing the Army Combat Fitness Test on Markers of Catabolism, Inflammation, and Recovery」。〔Nutrients. 2025 Jun 13;17(12):1995〕 原文はこちら(MDPI)

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スポーツ栄養Web編集部


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地域住民の健康増進の拠点として位置付けられている「地域の薬局」が、住民の栄養改善を積極的に担っていくために必要な事柄が報告された。昭和医科大学薬学部社会健康薬学講座の熊木良太氏らが、薬剤師や管理栄養士、計15名にインタビュー調査を行った結果であり、「Journal of Health, Population and Nutrition」に論文が掲載された。低栄養や生活習慣病リスクのある住民に対する介入のポイントとして5項目、薬局での栄養介入という仕組みそのものを改善するためのポイントとして4項目が特定されたという。

地域の薬局を拠点とした地域住民の栄養改善に必要な方策を探る研究

地域の薬局には地域住民の健康全般をサポートする機能が求められていて、栄養改善も重要な役割の一つ。そのため、管理栄養士を配置している薬局も徐々に増加してきている。しかし現状では、配置された管理栄養士が十分に活用されていない実態も報告されており、薬局が住民の栄養改善に役立つ存在となるために改善の余地がある。これを背景として熊木氏らは、薬局における栄養介入機能の強化方法を探ることを目的に、薬剤師、管理栄養士へのインタビュー調査を行った。

インタビューの対象と方法

インタビューの対象は、健康サポート薬局に関する研修を受けた調剤薬局の薬剤師5人(女性3人)、調剤薬局で管理栄養士と連携して勤務している薬剤師5人(女性3人)、調剤薬局に勤務している管理栄養士5人(すべて女性)の計15人。なお、健康サポート薬局とは、かかりつけ薬局の機能を有し、かつ、介護や食事・栄養摂取に関する相談もできる薬局として、厚生労働大臣が定める基準を満たしている薬局のこと。

インタビューとその分析には、国内で開発された質的研究手法であるPAC分析(Personal Attitude Construct analysis)が用いられた。PAC分析は、インタビューを通じて対象者自身が認識していない内面的な態度や価値観などを抽出できる手法とされている。

本研究ではまず、薬局訪問者の中で低栄養や生活習慣病のリスクのある人に接した場合を想定し、連想するキーワードをカードに記入してもらった。連想を励起するために、研究者によって作成された文(低栄養状態への栄養介入に際して対象者にどんなことを理解してもらいたいか?/生活習慣病患者への栄養介入に際して薬剤師や管理栄養士が身につけておくべき知識は?など)を提示した。

次に、それらのキーワードの互いの関連性を7段階のリッカートスケールで評価してもらい、その結果を基に研究者がデンドログラム(樹形図)を作成。それを対象者に提示して、解釈を求めた。これら一連のインタビューの所要時間は約1時間だった。

最後に、それらのインタビューをすべて文字起こししたうえでラベル化と分類を行い、栄養介入におけるポイントを特定した。

なお、インタビュアーは薬剤師であり、結果の分析も薬剤師が行った。

低栄養や生活習慣病リスクのある住民に対する介入のポイント

低栄養リスクのある住民に対する介入

低栄養リスクのある住民に対する介入が必要なポイントは、合計37種類のラベルに分類された。細かくみると、介入を必要とする患者像に関するラベルが8種類、アセスメントに必要な情報関連で10種類、患者意識の是正関連で5種類、実行可能な方法の提案が8種類、介入時に考慮すべきことが6種類だった。

薬剤師、管理栄養士と連携している薬剤師、管理栄養士の三者で共通するラベルとして、患者像関連では「高齢者」と「食事に関する誤解や知識不足している者」、アセスメント関連では「食事の摂取量・質・栄養バランス」と「体重、BMI」、患者意識の是正関連では「食事に関する誤解の修正」、実行可能な方法の提案では「栄養バランスのとれた食事指導」、「タンパク質を意識したアドバイス」、「嚥下機能にあわせた食事の提案」、「体重管理」が挙げられた。

一方、薬剤師および管理栄養士と連携している薬剤師でラベル化され、管理栄養士でラベル化されなかった項目として、アセスメント関連で「摂食・嚥下機能」と「環境(例えば家族)のサポート状況」が特定された。この点について著者らは、「薬剤師は患者の服薬状況を日常的にモニタリングしており、患者だけでなく家族や介護者にも服薬指導を行っているためではないか」と考察している。

それに対して管理栄養士のみでラベル化された項目として、患者像関連で「若い女性」や「食生活改善を諦めている」などが特定された。この点については「管理栄養士は個々の患者の状況にあわせたきめ細やかな対応が可能であることが示唆される」と考察されている。

生活習慣病リスクのある住民に対する介入

生活習慣病リスクのある住民に対する介入が必要なポイントは、合計29種類のラベルに分類された。細かくみると、介入を必要とする患者像に関するラベルが5種類、アセスメントに必要な情報関連で11種類、患者意識の是正関連で3種類、実行可能な方法の提案が4種類、介入時に考慮すべきことが6種類だった。

薬剤師、管理栄養士と連携している薬剤師、管理栄養士の三者で共通するラベルとして、患者像関連では「生活習慣の乱れ(不規則な食事、偏食、運動不足)ている者」と「食事に関する誤解や知識不足な者」、アセスメント関連では「食事の摂取量・質・栄養バランス」、実行可能な方法の提案では「目標とする具体的な数値(摂取カロリー、体重、検査値など)」、「レシピなど具体的な方法の提案」が挙げられた。また、「薬物療法、食事療法、運動療法の併用」、「成功体験を増やす」、「多職種(医師、看護師、薬剤師、管理栄養士)との連携」も、三者に共通するラベルだった。

一方、薬剤師および管理栄養士と連携している薬剤師でラベル化され、管理栄養士でラベル化されなかった項目として、アセスメント関連で「家族などの周囲のサポート状況」、実行可能な方法の提案として「患者の嗜好や状態に合わせた栄養補助食品の提案」、介入時の留意点として「家族など周囲の支援者への働きかけ」などが挙げられた。著者らは、「薬剤師は生活習慣の改善を服薬アドヒアランス向上と同様に捉えている」と述べている。

それに対して管理栄養士のみでラベル化された項目として、患者像関連で「食生活改善を諦めている」、アセスメント関連で「患者の食事に対する意識」、「体重、BMI」、「食品の入手しやすさ」、「経済状態(暮らし向き)」などが挙げられた。

薬局での栄養介入という仕組みそのものを改善するためのポイント

薬局での栄養介入という仕組みそのものを改善するための課題は、13種類のラベルに分類された。細かくみると、栄養介入フローの確立が6種類、医療者の教育が4種類、患者への制度の周知が1種類、制度改革の必要性が2種類だった。

薬剤師、管理栄養士と連携している薬剤師、管理栄養士の三者で共通するラベルとして、「管理栄養士による栄養指導の提供フローの確立」、「早期発見および早期介入」、「患者情報(疾患名や検査値など)を医療機関(医師)と共有する」、「薬剤師の栄養知識の教育と向上」、「低栄養に関する指導は管理栄養士に依頼する」が挙げられた。

一方、管理栄養士と連携している薬剤師のみでラベル化された項目として、医療提供者の教育関連で「栄養介入が投薬量の削減につながることの認識」が挙げられた。そのほかにも「患者への制度の告知」の必要性、および、「制度改革の必要性」(栄養介入の時間確保、有償化の検討)は、いずれも管理栄養士と連携している薬剤師のみでラベル化された。

栄養指導提供プロセスの確立と、薬剤師のスキルアップが課題

本研究の限界点として著者らは、インタビューの対象者数が十分とは言えないこと、調剤薬局の勤務者のみを対象としたため、処方箋を持たない、より広範な一般住民が訪れるドラックストアー等での傾向を把握できていないことなどを挙げている。そのうえで、「薬局での栄養介入の質を高めるために必要なこととして、薬剤師と管理栄養士の双方が、スクリーニング、評価、そして教育という一連の流れが重要であると認識していることが指摘された。と同時に、この流れを実践するには、管理栄養士による栄養指導提供プロセスの確立と、薬剤師の栄養指導に関する知識不足が課題であることが明らかになった」と総括。また、「とくに薬剤師はリスクの高い患者のスクリーニングと評価に重点を置き、管理栄養士との連携に向けた知識の向上を図る必要がある」と付け加えている。

文献情報

原題のタイトルは、「Toward enhanced nutritional interventions in community pharmacies: personal attitude construct analysis」。〔J Health Popul Nutr. 2025 Aug 11;44(1):287〕 原文はこちら(Springer Nature)

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スポーツ栄養Web編集部


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アスリートの食事・栄養素摂取状況と位相角との関連を横断的に検討した結果が報告された。複数の交絡因子を調整後、タンパク質の摂取量が有意な正の関連を示したという。ブラジルからの報告。

アスリートの位相角(PhA)は食事・栄養と関連があるのか?

位相角(phase angle;PhA)は生体電気インピーダンス法(bioelectrical impedance analysis;BIA)で測定でき、筋肉の質や細胞の栄養状態などの指標とされており、アスリートの体組成の評価指標としても注目されている。これまでに、アスリートのPhAは一般人口よりも高いこと、筋力トレーニングは持久力トレーニングよりもPhA上昇につながりやすいこと、位相角が競技レベルと関連がある可能性のあることなどが報告されてきている。また、疾患有病者では、位相角が肉類の摂取量と相関することも示されている。

これらの知見が蓄積されてきているにもかかわらず、アスリートの食習慣や栄養素摂取量とPhAとの関連は、これまで十分に調査されていない。今回紹介する論文の著者によると、本研究はアスリートのPhAと食事摂取量との関連を調査した初の研究だという。

ブラジルのアスリート153人を対象にPhAと食習慣を調査

この研究は、ブラジルのアスリート153人を対象とする横断研究として実施された。適格基準として、週に6時間、6日以上トレーニングを行っていること、地域大会以上の競技会への参加歴があることで、除外条件としてパラアスリート、体内にペースメーカー等が埋め込まれているアスリートなどが設定されていた。

対象者の年齢は21.3±6.9歳(範囲14~48歳)、男性80.4%、BMI23.0±3.0、体脂肪率13.9±6.9%であり、位相角(PhA)は6.4±0.7°だった。行っている競技は、陸上、トライアスロン、バレーボール、フットボール、サッカー、自転車、テニス、水泳、ビーチバレー、ボディービル、ブラジリアン柔術、総合格闘技など17種類だった。

性別で比較した場合、女性のほうが若年(22.1±7.3 vs 18.1±4.45歳)で、BMIは男性(23.4±3.0 vs 20.8±1.9)、体脂肪率は女性(12.2±5.8 vs 21.7±6.1%)のほうが高いという有意差があった。位相角も、男性が6.6±0.6°、女性は5.5±0.6°で、男性のほうが高いという有意差がみられた。

なお、PhAは48時間前からカフェイン、アルコールの摂取を禁止し、4時間前から飲食を禁止した状態で測定した。

交絡因子調整後にもタンパク質摂取量や肉・卵の摂取量が有意な関連

非連続の2日(水曜日と土曜日)の食事内容を、対面式の24時間回想インタビューで評価。摂取エネルギー量、主要栄養素摂取量は以下のように推定された。

摂取エネルギー量は39.5±19.2kcal/kg/日、炭水化物50.6±11.1%、タンパク質18.6±6.8%、脂質30.2±9.2%。主要栄養素の体重あたり摂取量を性別で比較すると、タンパク質は男性アスリートのほうが有意に高値だった(1.8±1.0 vs 1.5±0.6g/kg/日、p<0.01)。炭水化物と脂質は有意差がなかった。<>

また、食品群については、穀物、果物、肉・卵、乳製品、添加糖の摂取量に有意差があり、いずれも男性のほうが多かった。野菜、豆・種実、油脂については有意差がなかった。

タンパク質摂取量が多いアスリートはPhAが高値

位相角(PhA)と栄養素および食品群の摂取量との関連は、調整する交絡因子のパターンによって5種類のモデルで解析された。

まず、栄養素摂取量との関連をみると、交絡因子未調整のモデル1では、タンパク質の摂取量はPhAと正の関連(β=0.42)、脂質の摂取量はPhAと負の関連(β=-0.27)が認められた。年齢を調整したモデル2、性別も調整したモデル3でも同様の関連が認められた。

ただし、交絡因子として年齢、性別に除脂肪体重を加えたモデル4では脂質との有意な関連が消失した。一方、さらに摂取エネルギー量も交絡因子として調整したモデル5においても、タンパク質の摂取量とPhAとの正の関連は、引き続き有意だった(β=0.25、p=0.02)。

肉・卵の摂取量が多いアスリートはPhAが高値

次に、食品群の摂取量との関連をみると、交絡因子未調整のモデル1では、肉・卵の摂取量(β=0.33)、および、果物の摂取量(β=0.16)が、PhAと正の関連を有していた。ただし、交絡因子として年齢を調整したモデル2では、果物との有意な関連が消失した。

一方、すべての交絡因子を調整したモデル5においても、肉・卵の摂取量とPhAとの正の関連は、引き続き有意だった(β=0.26、p<0.01)。この点について著者らは、「肉と卵は主要なタンパク源であり必須アミノ酸の生物学的利用能が高いため、筋肉量に好ましい影響を与え、それがphaにも反映されるのではないか」と考察している。<>

結論は、「この横断研究で観察されたタンパク質摂取量とPhAの正の関連は、位相角の測定が、アスリートの栄養状態の変化をモニタリングするためのアプローチとして利用できる可能性を示唆している。ただし、この知見を検証し、アスリートのPhAを向上させるための栄養介入方法を確立するために、さらなる研究が必要」とまとめられている。

文献情報

原題のタイトルは、「Association between phase angle from bioelectrical impedance and dietary intake in athletes: a cross-sectional study」。〔J Nutr Sci. 2025 Jun 10:14:e38〕 原文はこちら(Cambridge University Press)

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スポーツ栄養Web編集部

0.01)。この点について著者らは、「肉と卵は主要なタンパク源であり必須アミノ酸の生物学的利用能が高いため、筋肉量に好ましい影響を与え、それがphaにも反映されるのではないか」と考察している。<>0.01)。炭水化物と脂質は有意差がなかった。<>

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我が国における小児生活習慣病等のスクリーニングの現状を総括し、今後に向けた課題を整理したレビュー論文が、「Journal of Atherosclerosis and Thrombosis」に掲載された。産業医科大学医学部の山本幸代氏によるもので、現状では自治体によってスクリーニングの実施状況が大きく異なること、肥満以外の慢性疾患や遺伝性疾患を検出するためには十分でないことなどが述べられている。要旨を紹介する。

1987年に28都道府県でスタートした「小児成人病予防検診」

日本における小児期の慢性疾患のスクリーニングは、1987年に28都道府県で導入された「小児成人病予防検診」に始まる。その後、生活習慣病の増加とともにスクリーニングの重要性はより高まっているが、未だ学校保健安全法による義務化はされておらず、全国レベルで統一された検診はなされていない。2019年の各地医師会対象の全国調査によると、小児を対象とするスクリーニングが実施されている地域は約25%であり、主に各地の教育委員会または市町村が主導している。

このような実施状況の地域格差の存在とともに、現状ではスクリーニングの目的が肥満に該当する子どもの検出に偏っていて、非肥満の2型糖尿病や家族性高コレステロール血症(familial hypercholesterolemia;FH)の検出の役割は果たせていない。

こうしたなか、福岡市、新潟市、熊本市、北九州市などのいくつかの地域では、スクリーニング項目の拡大、成長曲線の活用、学校と医療機関の連携といった工夫を採り入れ、有用性を示してきている。

例えば東京都杉並区は、2019年に従来の肥満に焦点を当てた方法を改め、より広範な生活習慣関連リスクに対処する包括的なスクリーニングシステムを導入した。具体的には、ウエスト周囲長、HDL-C、HbA1c、ALTなどを新たな項目として組み込み、糖・脂質代謝異常、代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)のリスク評価が可能になった。この変更後に、生徒(小学4年生)の9.7%が医師の診察、16.6%が保健指導を要すると判定されるなど、早期スクリーニング戦略の実現可能性と有効性が示されている。

小児生活習慣病予防検診の全国的な状況

前述のように2019年に、全国の814の地区医師会を対象として、小児生活習慣病予防検診の実施状況に関する調査が行われた。それによると、492の医師会から回答があり(回答率60.4%)、そのうちスクリーニングを実施しているのは25.8%(127医師会)と4分の1にすぎなかった。実施している地域の大半(85.4%)は自治体と教育委員会が主導していた。

実施対象については、62.6%が小学生と中学生の両方を対象としており、多くは小学校4年生と中学校1年生を対象に実施。また、約半数(50.4%)が対象集団の70%以上をカバーするユニバーサルスクリーニングを採用していたものの、17.1%は参加率が70%を下回る部分的な任意スクリーニングを採用していた。さらに、22.8%は対象の選択に肥満度を採用していて、肥満に該当する子どもに限定し実施していた。

小児生活習慣病予防検診における課題と展望

このように、我が国における小児生活習慣病予防検診は、スクリーニングの対象が限定的なものにとどまり、対象や項目にも大きなばらつきがある。また、現状では主に肥満に該当する子どもに焦点を当てたスクリーニングが行われているにもかかわらず、小児肥満の健康課題に関する保護者の理解やフォローアップ率は依然として低い。さらに、スクリーニング対象が肥満に該当する子ども限定されている場合は、家族性高コレステロール血症(FH)や非肥満2型糖尿病など、診断の遅延によって深刻な健康障害を来し得る疾患の早期発見の機会を逸することになる。

一方、これに対してユニバーサルスクリーニングは、種々の疾患を早期発見する重要な機会となる。しかしその導入には、多くの資源とスタッフおよび関連機関の調整が必要とされ、実施しようとする地域の学校や自治体に負担の増大を招く可能性がある。

これらのことから、全国的に標準化されたスクリーニング基準の確立が、喫緊の課題と言える。最近、子どもの年齢に応じたメタボリックシンドローム構成因子のカットオフ値が提案されており、そのような知見の採用も、小児生活習慣病スクリーニングの有用性の向上に資する可能性がある。また、生活習慣病リスクとともにFHの早期検出を目指した香川県、成長曲線を利用してハイリスクの子どもをより高精度に検出している北九州市のような、先進的なスクリーニング体制を開始した地域も存在する。

香川県:生活習慣病に加えFHも検出し、さらに家族のFHの診断につなげる

香川県は2012年に小児生活習慣病予防検診を開始し、2018年にはFHのスクリーニングも開始した。これらは県全体で標準化されたプロトコルで実施されている。

生活習慣病予防検診は小学4年生全員を対象としており、受診率は90~95%と高い水準を維持している。異常値が認められた子どもに対しては、香川県小児科学会が作成したガイドラインに基づき、かかりつけ医と連携した介入がなされる。

FHスクリーニングには、一次健診でLDL-C140mg/dL以上の子どもを拾い上げ、かかりつけ医の受診を経て、診断確定のため中核病院での遺伝子検査を行うという3段階のプロトコルが採用されている。2018~19年にスクリーニングを受けた子ども1万5,665人のうち約580人がLDL-C140mg/dL以上であり、67人が遺伝子検査を受け、41人がFH関連遺伝子変異を有すると診断されている。

さらに、FHと診断された子どもの家族から未診断のFHを検出するという、逆カスケードスクリーニングも導入され、その結果、成人FH診断率は約10%に達し、全国平均の約10倍となっている。このような取り組みは全国展開のモデルとなると言えよう。

北九州市:成長曲線モニタリングによる早期発見

北九州市は市全体で、学校検診において成長曲線と肥満曲線を活用する取り組みを2016年度にスタートした。それ以降、高度肥満(肥満指数50%以上)だけでなく、肥満が急速に進行している子ども(最低記録値から20%以上増加)も二次検査の対象となり、指定医療機関に紹介されている。

山本氏が所属する産業医科大学病院小児科には、2016~18年に206人の子どもが紹介受診した。そのデータ解析の結果、高度肥満は全学年で認められた一方で、急速な肥満の進行は小学3~5年生で多いという傾向が明らかになった。これは、この年齢層での早期スクリーニングおよび介入が、高度肥満の予防に重要であることを示唆している。

また、介入1年後の追跡調査では、約3分の2の子どもに肥満の改善が認められ、とくに10歳未満では改善率が高いことが明らかになった。肥満の改善に伴い、各種臨床検査値も改善していた。しかしながら約35%の子どもはフォローアップの自己中断となっていた。北九州市では現在、この問題に対処するため、関係機関が継続的なサポート体制の確立を模索している。

結論と今後の方向性

小児生活習慣病予防検診は、日本の子どもの健康管理に大きく貢献してきた。しかし依然として課題が残っている。

保護者の意識向上、プライマリケアとの連携の強化、専門医療へのアクセスの拡大などと並び、肥満、脂質異常症、2型糖尿病といった小児生活習慣病、およびFHなどに関する国レベルのスクリーニング基準の策定が、次の重要なステップと言える。全国の子どもたちの健やかな成長と長期的な健康を促進するためには、地域に根ざした協調的なアプローチが不可欠である。

文献情報

原題のタイトルは、「The Role of Pediatric Screening in Preventing Lifestyle-related Diseases in Japan: Current Practices and Future Directions」。〔J Atheroscler Thromb. 2025 Aug 13〕 原文はこちら(J-STAGE)

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スポーツ栄養Web編集部


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藍藻類に属し光合成を行う微生物であり、豊富な栄養素を含むスピルリナが、体重や体脂肪率を低下させることが、これまでに行われた17件のRCTのメタ解析の結果として示された。イランの研究者らの報告。

スピルリナの体重や体組成に対する有用性をメタ解析で検討

スピルリナはシアノバクテリアの一種で抗酸化作用などの健康効果が報告されている。また予備的研究では脂質改善、抗炎症、肥満改善などにも有効な可能性が示されている。ただし肥満に対する影響については結果に一貫性がないため、この論文の著者らは、過去の研究報告のデータを統合して解析する用量反応メタアナリシスによる検討を行った。

文献検索にはPubMed、Scopus、Web of Scienceを用いて、各データベースのスタートから2024年12月までに収載された論文を対象とし、システマティックレビューとメタ解析の推奨報告項目(PRISMA)ガイドラインに準拠して検索を実施した。検索キーワードはスピルリナ、体脂肪、体組成、体重、BMI、ウエスト周囲長などを用いた。

一次検索で1,458報がヒットし、重複削除後の1,127報を2名の研究者が独立して、タイトルと要約に基づきスクリーニングを実施。包括基準は、成人を対象に無作為化された並行群間試験またはクロスオーバー試験であり、スピルリナ以外の追加投与なしで4週間以上の介入を行った研究とした。研究参加者の性別、年齢、基礎疾患の有無は制限しなかった。除外条件は、基礎研究、観察研究、横断研究、コホート研究、症例対照研究、対照群のない介入研究、非無作為化研究、未成年者対象の研究、レビュー論文、メタ解析、レターなど。

抽出された研究の特徴

スクリーニング後に27報が残され、全文精査のうえ17件の研究の報告を適格と判断した。

17件の研究は、イラン、ポーランド、メキシコ、インドから報告されていた。サンプルサイズは20~80人、介入期間は4~12週間、スピルリナの摂取量は1.5~6g/日であり、4件は疾患有病者を対象に実施されていて、また運動介入を並行して行った研究が4件含まれていた。

合計参加者数は888人で、介入群が447人、対照群が441人だった。

ウエスト周囲長以外の指標に好ましい影響

体重への影響

体重への影響は、649人(介入群327人、対照群322人)を対象とした11件の試験(16の効果サイズ)で検討されていた。メタ解析により、スピルリナは体重を有意に低下させることが示された(加重平均差〈WMD〉=-1.07kg〈95%CI;-1.94~-0.21〉、p=0.004)。研究間の異質性は高くなかった(I2=39.5%)。

サブグループ解析では、年齢40歳以上、介入前BMIが30以上、介入期間が12週間以上、投与量2g/日以上の場合に、有意な減量が認められた。

BMIへの影響

BMIへの影響は、748人(介入群377人、対照群371人)を対象とし、16の効果サイズで検討されていた。メタ解析により、スピルリナはBMIを有意に低下させることが示された(WMD=-0.40〈-0.76~-0.05〉、p=0.025)。研究間の異質性は中程度だった(I2=54.0%)。

サブグループ解析では、年齢40歳以上、介入前BMIが30以上の場合に、有意なBMI低下が認められた。

体脂肪率への影響

8件の研究報告のメタ解析により、スピルリナは体脂肪率を有意に低下させることが示された(WMD=-0.84%〈-1.38~-0.31〉、p=0.002)。研究間の異質性は認めなかった(I2=0.0%)。

サブグループ解析では、男性、介入期間が12週間未満、投与量2g/日未満の場合に、有意な体脂肪率低下が認められた。

ウエスト周囲長への影響

6件の研究、計312人対象の研究報告のメタ解析により、スピルリナはウエスト周囲長に有意な影響を及ぼしていなかった(WMD=-0.46cm〈-1.30~0.37〉、p=0.280)。研究間の異質性は認めなかった(I2=0.0%)。

ただし、サブグループ解析では、年齢40歳以上、介入前BMIが30以上、介入期間が12週間以上、投与量2g/日以上の場合にはウエスト周囲長の有意な減少が認められた。

肥満管理に有用なサプリメントとなる可能性

以上一連の結果を基に論文は、「本メタ解析はスピルリナサプリメントが体組成改善のための実践的なアプローチとなる可能性を示唆している。スピルリナは体重、BMI、体脂肪率を有意に減少させ、とくに肥満または高齢者において、高用量(2g/日以上)かつ長期(12週間以上)投与した場合に、最も顕著な影響が認められた。ウエスト周囲長には有意な変化は認められなかったが、サブグループ解析では特定のグループにおいて減少していた。これらの知見は、適切な用量、期間、および人口統計学的要因を考慮した場合、スピルリナが肥満管理のための有益なサプリメントとなる可能性を示唆している」と総括されている。

ただし、「スピルリナがウエスト周囲長に及ぼす影響を明らかにし、サプリメントの摂取プロトコルの最適化のため、さらなる研究が必要」と付け加えられている。

文献情報

原題のタイトルは、「Effects of spirulina supplementation on body composition in adults: a GRADE-assessed and dose–response meta-analysis of RCTs」。〔Nutr Metab (Lond). 2025 Jun 17;22(1):61〕 原文はこちら(Springer Nature)

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スポーツ栄養Web編集部


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自営業者や無職の人が加入している国民健康保険制度でのメタボ健診が、生活習慣病の診断の減少、住民の健康的な行動の増加、医療費の削減につながっていることを示すデータが報告された。早稲田大学教育・総合科学学術院の及川雅斗氏らの研究結果であり、論文が「Journal of Health Economics」に掲載された。

国民健康保険制度でのメタボ健診の有効性を推測する研究

日本では2008年に、メタボリックシンドロームのリスクを早期発見し予防介入することを主眼とした、特定健診・特定保健指導(メタボ健診)がスタートした。このメタボ健診によって健診コストは増大するものの、将来的には心血管代謝疾患や腎疾患等の増加が抑制され、それに伴い医療費の上昇も緩和されると期待されていた。既にその効果を示唆するデータも報告されているが、一方でそれを否定する報告もあり、メタボ健診のような予防的介入に力点を置いた国家的な健診制度の有効性は、未だコンセンサスが得られていない。

海外において、このような健診制度の有効性を検討する際の一つのハードルとして、自営業者や無職の人への健診コストと疾患抑制効果を把握するためのデータの入手が困難であることが挙げられる。これに対して日本は国民皆保険制度により、被雇用者は社会保険、自営業者や無職の人は国民健康保険と住み分けられていることから、両者を区別したデータを比較的容易に入手可能。それにもかかわらず従来、メタボ健診の有効性は主として社会保険加入者のデータを利用して検証されてきている。

以上を背景として及川氏らは、国民健康保険加入者におけるメタボ健診の有効性を検討した。解析のための資料として、国民健康・栄養調査、国民生活基礎調査、社会医療診療行為別統計などのデータを用いた。

解析対象者と解析対象自治体について

この研究ではまず、解析対象を国民健康保険に加入している40~59歳の成人とした。年齢範囲の下限はメタボ健診の対象となる年齢に基づき設定した。一方、メタボ健診の年齢の上限は64歳だが、以下の理由により本研究では59歳を上限とした。即ち、現在の企業従業員の定年は60歳であるものの本人が希望する場合は65歳まで雇用機会を提供する義務があるところ、60~64歳の間に国民健康保険に加入した人の中には、健康状態が不良のために退職した人が含まれると考えられ、それによる医療費等の解析結果に影響が生じる潜在的な可能性があるため。

解析対象の自治体は、以下の3条件を満たす自治体に絞り込んだ。(1)比較的人口が多いこと(人口規模が小さい自治体では、住民が周辺の他の自治体にある医療機関を受診することが多いことから、発生した医療費の把握精度が低下するため)、(2)2008年以前の住民1人あたりの公衆衛生コストの変動が少ないこと(メタボ健診開始以外の因子による影響が大きくなると予想されるため)、および、(3)2008年以前の住民1人あたりの健診コストが全体の下位50パーセンタイル(pt)以下に該当すること(メタボ健診開始に伴う健診コスト増大の費用対効果の検証を目的とするため)。

現在、国内の自治体の総数は1,741だが、上記の3条件を満たす366の自治体を解析対象とした。

2008年以前の健診コストが下位25pt以下と、25~50ptの自治体を比較

解析対象者の平均年齢は50.62歳、女性53%、配偶者ありが67%で、71%が持ち家に居住していた。疾患罹患状況は、メタボ健診が焦点を当てている疾患(肥満、高血圧、糖尿病、脂質異常症、脳血管疾患、心血管疾患)のいずれかが1種類を診断されている割合が13%、複数の疾患を診断されている割合は3%であり、1人あたりの疾患該当数は0.16だった。

メタボ健診の有効性の検討は、解析対象とした自治体を、2008年以前の住民1人あたりの健診コストが全体の下位25pt以下の自治体と、25~50ptの自治体の2群に分け、差分の差に基づき効果量を推定するという統計学的な手法(dosing difference-in-differences;dosing-DID)を用いた。

前者の群は2008年以前の1人あたり健診コストが2,422.1円、2008年以降は4,488.7円で、メタボ健診により85.3%上昇していた。後者の群は同順に2,939.1円、4,454.6円で51.6%の上昇であり、メタボ健診開始後のコストはほぼ同額だった。なお、この両群間で、人口規模には有意差が認められたが、住民の年齢分布、人口あたりの医療機関の件数・病床数、財政力指数などには有意差がなかった。解析に際しては人口規模を統計学的に調整した。

メタボ健診導入後に生活習慣病の新規診断が減少し、住民の健康的な行動が増加

解析の結果、メタボ健診開始により健診コストが大きく上昇した自治体において、新たに生活習慣病と診断される患者が有意に減少したことが示された。具体的には、開始8年後の2016年に診断件数が28.9%減少し、とくに2種類以上の生活習慣病の併存の診断は42.6%減少していた。また、喫煙者の禁煙、1日に8,000歩以上歩く習慣のある人の割合は有意に上昇し、飲酒者の飲酒量が有意に減少していた。ただし、サブグループ解析からは、自営業の人と自宅が持ち家の人では、メタボ健診開始後に健康状態の有意な改善が認められたのに対して、無職の人と自宅が賃貸の人では、有意な改善が認められなかった。

このほか、メタボ健診の費用対効果の試算も行われた。その結果、メタボ健診導入による生活習慣病関連の外来医療費の抑制額は、メタボ健診導入で増大した健診コストの約9倍に当たると推計された。

著者らは本研究について、健診受診の自己負担額の差異を考慮していないことを含め、いくつかの限界点を挙げ、「他の手法による検討も必要」としたうえで、「簡易な手法による推計の結果ではあるが、国民健康保険でのメタボ健診は費用対効果の高い健診ではないか」と総括している。

文献情報

原題のタイトルは、「Impacts of health checkup programs standardization on working-age self-employed and unemployed: Insights from Japan’s local government response to national policy」。〔J Health Econ. 2025 Aug 8:103:103046〕 原文はこちら(Elsevier)

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スポーツ栄養Web編集部


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窒素出納法に基づき窒素必要量を検討した報告を対象とするシステマティックレビューとメタ解析の結果、健康成人でのその値は104.2mgN/kg/日であるとする論文が発表された。順天堂大学スポーツ健康科学部の鈴木良雄氏ら7大学の研究者の研究によるもので、「Nutrients」に掲載された。著者らは、「窒素出納法による検討は今後ますます困難になると考えられ、本研究のために作成されたデータセットは、今後のタンパク摂取量に関する研究の基盤となる」としている。

古くからタンパク質の必要量の設定に使われてきている窒素出納法

タンパク質の必要量は、古くから窒素出納法に基づき設定されている。近年では、指標アミノ酸酸化法なども注目されているが、いまだエビデンスが十分でなく、「日本人の食事摂取基準(2025年版)」でも窒素出納法の研究報告に基づき、推奨量などを設定している。

しかし、窒素出納法による研究では、尿や便などの排泄物をすべて収集する必要があること、摂取量を高く見積もり排泄量を低く見積もるため、出納がプラスに傾いた結果を導きやすいこと、さらに、研究参加者のタンパク質摂取量を少なくとも5日間にわたって操作しなければならないという倫理的な課題があることから、今後の研究の実施は極めて困難になってきている。

この状況に対応し、これまでに実施された窒素出納法の研究報告のデータから、できるだけ信頼性の高い窒素必要量を求めるメタ解析の試みがなされるようになった。その代表的なものとして2003年、および2014年の報告がある。ただし、それらのメタ解析ではいずれも解析対象としたデータセットが公開されていない。

これを背景として鈴木氏らは上記2報のメタ解析等の対象論文を基に個人レベルのデータを取得し、さらに、それら2報以降に新たに報告された窒素出納法の研究の有無を検索して追加し、現時点で最新のデータセットを作成した。つまり本研究は、新たな知見を得るというよりも、これまでの窒素出納法による研究の総括としての意義が大きい。

2件のメタ解析と1件のタンパク質摂取量基準値の報告に加え、新たな報告を追加し解析

この研究で参照した窒素出納法のメタ解析の2報の論文とは、2003年の米国の研究者らによる報告(DOI: 10.1093/ajcn/77.1.109)、2014年の中国の研究者らによる報告(DOI: 10.3967/bes2014.093)。この2報に、欧州3カ国(ドイツ、オーストリア、スイス)の栄養学会が2017年に改訂した、タンパク質摂取量の基準値に関する報告(DOI: 10.1159/000499374)を加え、計3報の論文が参照している原著論文を統合し重複を除外したところ、28件の研究報告が特定された。

また、2014年の報告に記載されている手法に準拠して新たにシステマティックレビューを実施(同一のキーワード、包括条件、除外条件を用いてPubMedで検索)。その結果、3報の研究報告が見いだされた。この3件と前記の28件とをあわせて計31件の研究を基に、個別データを抽出してデータセットを作成するとともにメタ解析を行った。

なお、包括基準は、1. 健康な成人を対象として、2. 窒素(タンパク質)の摂取量を3種類以上設定し出納を評価し、その中に出納がゼロバランス(摂取量と排泄量が等しい)条件が含まれていて、3. 摂取量と排泄量の双方、または回帰式のいずれかが明記されており、4. 糞便および尿中以外への窒素損失について言及されていること。

除外条件は、1. 小児、疾患有病者、およびアスリート対象の研究、2. 窒素出納量測定前の適応期間が5日未満の研究。

395人のデータセットが完成

これらの報告から、合計405人のデータを取得できた。そのうち窒素需要が極端なケース(50mgN/kg/日または200mgN/kg/日以上)を除外して、395人のデータを解析対象とした。

この対象の平均年齢は29.9±15.6歳だった。ただし、多くの研究は30歳以下または60歳以上の集団で行われており、中年成人のデータが少なかった。性別の内訳は男性285、女性96、不明14だった。

研究に用いられたタンパク質は動物性が116、植物性が130、両者混合が149だった。また、276人のデータは温暖な環境、119人は熱帯環境で取得されており、便中・尿中以外への損失量が直接測定されていない場合、前者は4.8mgN/kg/日、後者は11mgN/kg/日が基本とされていた。

平均窒素必要量は104.2mgN/kg/日。性別、年齢、タンパク質源による差は認められない

解析の結果、平均窒素必要量は104.2mgN/kg/日と計算された。

性別で比較したところ、有意差は認められなかった(p=0.058)。ただし、性別が不明の14人を男性として解析すると、男性のほうが高値となった(p=0.035)。

気候環境での比較では有意差はなかった(p=0.176)。また、タンパク質源別での比較でも有意差はなかった(p=0.259)。年齢60未満/以上で比較しても非有意だった(p=0.275)。つまり、窒素必要量に影響を及ぼす明らかな因子は特定されなかった。

サブグループ解析からも性別、年齢、タンパク質源の影響は認められず

続いて、性別が不明の研究、および研究参加者が1人のみの研究を除外し、380人(男性285人、女性95人)のデータを用いて、性別にメタ解析を実施した。

性別×タンパク質源での検討

男性の窒素必要量は109.1mgN/kg/日と計算された。

タンパク質源によるサブグループ解析を行うと、動物性タンパク質では103.3mgN/kg/日、、植物性タンパク質では108.9mgN/kg/日であり、後者の方が高値だったが有意差はなかった。なお、両者混合では116.0mgN/kg/日だった。

一方、女性の窒素必要量は102.4mgN/kg/日と計算された。

タンパク質源別のサブグループ解析では、動物性タンパク質では105.8mgN/kg/日、植物性タンパク質では109.0mgN/kg/日であり、男性同様に後者の方が高値だったが有意差はなかった。両者混合では93.7mgN/kg/日だった。

性別×気候環境での検討

次に、気候環境の影響を性別に検討した。

その結果、男性は温暖な環境では107.7mgN/kg/日、熱帯環境では112.5mgN/kg/日と後者が高値であったが、女性では同順に106.0、98.2mgN/kg/日と前者のほうが高値だった。ただし、男性・女性ともに有意差は認められなかった。なお、女性の熱帯環境での研究はI2=99%と異質性が極めて高かった。

性別×年齢での検討

続いて、年齢層の違いの影響を性別に検討した。この検討には、窒素必要量の実測値とともに、年齢の分布が幅広いため対数変換した値でも検討した。その結果、男性・女性ともに対数変換の有無にかかわらず、年齢は窒素必要量に有意な影響を及ぼしていなかった。

また、各研究の参加者の年齢中央値に基づきフォレストプロットを作成した検討も行ったが、やはり窒素必要量への年齢への影響は認められなかった。なお、タンパク質源や気候環境に関しても同様にフォレストプロットを作成して検討し、いずれも有意な影響は観察されなかった。

窒素出納法のデータが今後報告されないとしても、将来の研究の基盤となる研究成果

本研究では、メタ解析対象全体のI2統計量は90%以上であり、研究間に高い異質性が認められた。著者らはその一因として、窒素出納に影響を及ぼし得るエネルギー摂取量を未調整であるためではないかと考察している。また、体重換算の窒素必要量は、体脂肪率の低い男性のほうが高いと考えられるにもかかわらず、本研究では有意差がなかったことも、研究間の異質性に起因する可能性があるという。ただし、本研究の主目的は、これまでの窒素出納法に関する研究参加者のデータセットを作成するということであり、「作成されたデータセットを用いて今後の解析が可能」と述べられている。なお、データセットは論文の補足情報として公開されている(ダウンロードはこちら)。

結論は、「本研究の成果は、個人レベルの窒素出納データをこれまでで最も広範に集積したことにある。平均窒素必要量は過去の推定値と一致していたが、高い異質性のため、明確な結論を出すことは困難。とはいえ作成されたこのデータセットは、今後、新たに窒素出納法を用いた研究が実施されないとしても、タンパク質摂取量の推奨値の改訂等、将来の研究のための貴重な基盤となるだろう」と総括されている。

文献情報

原題のタイトルは、「Nitrogen Requirements in Healthy Adults: A Systematic Review and Meta-Analysis of Nitrogen Balance Studies」。〔Nutrients. 2025 Aug 12;17(16):2615〕 原文はこちら(MDPI)

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スポーツ栄養Web編集部


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運動による認知機能への影響をシステマティックレビューとメタ解析で検討した研究結果が報告された。実行機能や注意機能、ワーキングメモリなどが運動介入による有意に改善すること、とくに有酸素運動の影響が大きいことなどが明らかにされている。中国の研究者の報告。

成長期に行う運動は認知機能に有意な影響を及ぼすのか?

論文に述べられている研究背景によると、運動は認知機能にプラスの影響を及ぼすとする報告が多いものの、依然として一貫性が欠如しているという。このことから著者らは、とくに認知機能の成長段階にある未成年に焦点をあて、システマティックレビューとメタ解析により運動の有効性を検討した。

システマティックレビューとメタ解析の推奨報告項目(PRISMA)ガイドラインに準拠し、Web of Science、Embase、PubMed、Cochrane Central Register of Controlled Trials、CBMなどの文献データベースを利用して、それぞれの開始から2024年11月までに収載された論文を対象に、18歳未満の未成年に対する運動加入の認知機能への影響を無作為化比較試験(RCT)で検討した、査読システムのあるジャーナルに掲載された論文を検索。ヒットした論文の参考文献や灰色文献(学術的なジャーナルに正式に発表されていない文献)のハンドサーチも行った。コホート研究、症例対照研究、レビュー論文、学会発表、および、英語または中国語以外の言語の論文などは除外した。

一次検索で2,909報がヒットし、ハンドサーチにより1報を追加。重複削除後の2,560報を3名の研究者が独立してタイトルと要約に基づきスクリーニングを行い51報に絞り込み、全文精査を実施。最終的に、21件のRCTの報告を適格と判断した。

抽出されたRCTの参加者数は合計3,544人(運動介入群1,730人、対照群1,814人)、介入期間は2~39週間だった。

運動介入は未成年の認知機能を向上させ得る

評価されていた認知機能は、実行機能、注意機能、認知的柔軟性(状況の変化に応じて思考や行動を切り替える能力)、抑制制御(不適切な反応や衝動を抑えて行動をコントロールする能力)、ワーキングメモリ(一時的に保持できる情報の量とその処理能力)であり、それら評価項目ごとにメタ解析が行われた。

実行機能については7件のRCTのデータがメタ解析の対象となった。いずれの研究も、標準化平均差(SMD)は0を上回っていたが95%信頼区間が0をまたぎ、それぞれ単独では実行機能に対する運動介入の有意な影響を示していなかった。しかしメタ解析からは、SMD=0.21(95%CI;0.06~0.37)で研究間の異質性はなく(I2=0%)、運動介入により実行機能が向上することが示された。

注意機能については9件のRCTのデータがメタ解析の対象となった。いずれの研究もSMDが0を上回っており、かつ、6件の研究は95%信頼区間の下限が0を超え、単独でも運動介入の有意な影響を示していた。メタ解析の結果はSMD=0.56(0.34~1.22)で、運動介入により注意機能が向上することが示された。ただし研究間の異質性が高かった(I2=71%)。

認知的柔軟性については5件のRCTのデータがメタ解析の対象となった。4件の研究はSMDが0を上回っており、かつ、3件の研究は95%信頼区間の下限が0を超え、単独でも運動介入の有意な影響を示していた。ただし1件の研究はSMDが0を下回っていた(信頼区間の上限は0超)。メタ解析の結果はSMD=0.53(0.04~1.02)で、運動介入により認知的柔軟性が向上することが示された。ただし研究間の異質性が高かった(I2=83%)。

抑制制御については10件のRCTのデータがメタ解析の対象となった。いずれの研究もSMDが0を上回っており、かつ、3件の研究は95%信頼区間の下限が0を超え、単独でも運動介入の有意な影響を示していた。メタ解析の結果はSMD=0.58(0.22~0.86)で、運動介入により抑制制御が向上することが示された。ただし研究間の異質性が高かった(I2=78%)。

ワーキングメモリについては3件のRCTのデータがメタ解析の対象となった。いずれの研究も、標準化平均差(SMD)は0を上回っていたが95%信頼区間が0をまたぎ、それぞれ単独では実行機能に対する運動介入の有意な影響を示していなかった。しかしメタ解析からは、SMD=0.54(0.16~0.91)で研究間の異質性はなく(I2=0%)、運動介入によりワーキングメモリが向上することが示された。

有酸素運動で効果量が大きい傾向があるものの、運動のタイプによらず有意

介入に用いた運動のタイプ別のサブグループ解析も実施された。その結果、有酸素運動でより高いSMDが示される傾向にあったが、サブグループ間での有意差はなく(p=0.562)、全体解析の結果はSMD=0.47(0.35~0.60)、I2=66.5%であり、運動介入はそのタイプによらず未成年の認知機能を向上させ得ると考えられた。サブグループごとの解析結果は以下のとおり。

有酸素運動による介入を行ったRCTは20件だった。19件の研究はSMDが0を上回っており、かつ、7件の研究は95%信頼区間の下限が0を超え、単独でも有意な影響を示していた。1件の研究はSMDが0を下回っていたが、信頼区間の上限は0を超えていた。メタ解析の結果はSMD=0.53(0.32~0.73)、I2=74.2%だった。

高強度インターバルトレーニングによる介入を行ったRCTは4件だった。いずれの研究もSMDは0を上回っていたが95%信頼区間が0をまたぎ、それぞれ単独では有意な影響を示していなかった。しかしメタ解析の結果は、SMD=0.30(0.05~0.56)と有意であり、研究間の異質性を認めなかった(I2=0%)。

抵抗力トレーニングによる介入を行ったRCTは2件だった。いずれの研究もSMDは0を上回っていたが95%信頼区間が0をまたぎ、それぞれ単独では有意な影響を示していなかった。しかしメタ解析の結果は、SMD=0.46(0.10~0.83)と有意であり、研究間の異質性を認めなかった(I2=0%)。

複合運動よる介入を行ったRCTは8件だった。いずれの研究もSMDが0を上回っており、かつ、5件の研究は95%信頼区間の下限が0を超え、単独でも運動介入の有意な影響を示していた。メタ解析の結果はSMD=0.51(0.29~0.73)、I2=67.4%だった。

文献情報

原題のタイトルは、「The effects of physical exercise on cognitive function in adolescents: a systematic review and meta-analysis」。〔Front Psychol. 2025 Jul 28:16:1556721〕 原文はこちら(Frontiers Media)

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スポーツ栄養Web編集部


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コーヒーや紅茶、エナジードリンクなどに含まれるカフェインのうち、実際に体内に吸収される割合(バイオアベイラビリティー〈生体利用能〉)を、消化管を模した実験系で検討した研究結果が報告された。検討した飲料の中では、コーヒーの生体利用能は最も低かったが、カフェイン含有量そのものが高いため、吸収されるカフェインの量としては多くなりやすいことなどが示されている。

「カフェインの含有量×摂取量=体内で利用されるカフェイン量」ではない

カフェインはコーヒーや紅茶などの植物成分に含まれている天然化合物で、その作用は古くから研究されてきている。また、炭酸飲料、エナジードリンク、サプリメントなどに用いられ、精神的な刺激作用を有する食品として世界中で広く摂取されている。加えて、反応時間の短縮や身体機能の刺激作用があるため、アスリートの間ではとくに多く利用されている。

その一方、よく知られているように、カフェインには、心拍数増加、不安、不眠などの悪影響があるため、多くの国や組織が摂取上限量を示している。例えば欧州食品安全機関(European Food Safety Authority;EFSA)は、1機会につき200mg以上または1日につき400mgを超えるカフェインは悪影響を来し得ると警告している。ただし、EFSAの推奨は、飲食物中の成分のバイオアクセシビリティーやバイオアベイラビリティーが考慮されていないため、カフェインを含む飲料の摂取量の情報のみでは、実際の曝露量の推定が不確かなものになってしまう可能性がある。つまり、バイオアクセシビリティーやバイオアベイラビリティーが低い飲料と高い飲料では、カフェインの量が同等になる容量を摂取したとしても、実際に体内で利用されるカフェインの量が異なる。

このような未解決のギャップに対応するため、本論文の著者らは、ヒトの消化管を模したin vitro実験系で、カフェインのバイオアクセシビリティーとバイオアベイラビリティーを製品ごとに検討した。なお、バイオアクセシビリティーとは摂取した成分のうち消化過程で吸収可能な状態になる割合のことで、バイオアベイラビリティーとは実際に体内に吸収・利用される割合のことであり、後者については日本語で「生体利用能」と呼ばれている。

ヒト消化管を模したin vitro実験系で、さまざまな飲料のカフェイン生体利用能を評価

この研究では、スペインのマドリードのスーパーマーケットで販売されている、さまざまなブランドのソフトドリンク、エナジードリンク、コーヒー、紅茶、緑茶などのカフェイン摂取後の動態が、ヒトの消化管を模したin vitroのモデルで分析された。このモデルは、口腔・胃・小腸に相当する酵素やpH環境を再現したもので、吸収可能な状態に消化されるカフェインの割合(バイオアクセシビリティー)を評価。また、腸管での吸収を模倣した分子量12kDaの透析膜を用いて、透過したカフェイン量から、バイオアベイラビリティー(生体利用能)を推定した。

カフェイン含有量はコーヒーが顕著に高い

まず、各飲料に含まれているカフェインの量を測定し、製品ラベルに記されている値とよく一致することを確認した。 測定された含有量はコーヒーが最も高く、2,333mg/Lだった。コーヒー以外では、エナジードリンクが242~330mg/L、紅茶は約170mg/L、緑茶は約100mg/L、ソフトドリンクは100mg/L未満だった。

バイオアクセシビリティーは、カテゴリーによらず、どれもほぼ100%

次に、摂取したカフェインのうち吸収可能な状態になる割合をみると、83~112%の範囲に分布し、総じて高いバイオアクセシビリティーが認められた。示されたこのように高いバイオアクセシビリティーについて論文中では、「カフェインの溶解性が高いため消化管内での消化過程でほとんど分解されないことを示唆していると考えられる」と考察されている。

バイオアベイラビリティーは、コーヒーは低いが吸収量自体は多い

続いて評価したバイオアベイラビリティーは、52~79%の範囲に分布していた。製品カテゴリー別にみると、ソフトドリンクが65.6~79%、緑茶が76%、紅茶70~75%、エナジードリンク52~72%で、コーヒーは62%と低かった。著者らは、「コーヒーに含まれるカフェインのバイオアベイラビリティーは高くはないが、コーヒーはカフェイン含有量自体が多いため、吸収されるカフェインは多くなるだろう」としている。

摂取1機会あたりのカフェインの体内吸収量はエナジードリンクが多い

最後に、上記の各飲料のカフェインのバイオアベイラビリティーを基に、解析対象とした製品の容量(ボトル製品の場合)、または標準的な1杯あたりの容量(コーヒー、紅茶、緑茶)を摂取した場合に、生体に吸収されるカフェインの量を求めた。すると、エナジードリンクは1本で89~115mgとなり、製品カテゴリー別で最も多く、次いでコーヒーが43~86mgだった。そのほかの飲料は、紅茶が24~25mg、緑茶15mg、ソフトドリンク10~24mgとなった。

なお、この試算に基づくと、仮にコーヒー以外からカフェインを一切とらないと仮定した場合、エスプレッソコーヒーのシングルなら1日最大9杯、ダブルなら最大4杯まで摂取が許容されるという。ただし、カフェインはコーヒー以外の飲料や嗜好品、医薬品などにも含まれているため、実際にはこれより少量で推奨の上限に達する。

これらの結果に基づき論文の結論には、「製品のラベルにはカフェイン含有量が記載されているが、最終的に血液中に到達する量は、製品により大きく異なる可能性がある」とし、また健康リスクの評価のため、エナジードリンクに含まれているカフェインの上限量設定を検討する必要性に言及している。

文献情報

原題のタイトルは、「How much consumed caffeine is actually absorbed? Bioaccessibility and bioavailability in energy drinks, infusions and soft drinks」。〔Food Chem. 2025 Jul 21;492(Pt 3):145626〕 原文はこちら(Elsevier)

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スポーツ栄養Web編集部


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オリンピックに出場経験のあるアスリートの引退後の健康状態を、一般住民と比較検討した結果が英国から報告された。元アスリートは、肥満、糖尿病、狭心症、脳卒中などが少なく、また女性の元アスリートで骨粗鬆症の有病率の低下なども認められた。その一方で、メラノーマ(黒色腫)を含む皮膚癌と変形性関節症の有病率は一般人口よりも高いという。

高強度のトレーニングを続けていたアスリートの引退後の健康状態は?

運動が健康増進に有益であることは疑いないものの、トップアスリートが行う高強度・高負荷のトレーニングも、健康増進のための運動と同様の効果があるのかという点は興味深い疑問であり、死亡リスクからこの疑問について検討した研究結果がいくつか報告されている。しかし、疾患の有病率を一般住民と比較した研究の報告は限られている。

英国の元オリンピアンと一般住民の健康状態を比較

この研究では、英国の元オリンピアンと一般住民の健康状態が、横断的に比較された。 英国オリンピック協会を通じて、過去の夏季および冬季オリンピックで国家代表選手となった経歴のあるアスリートのうち連絡先が明らかな2,742人に、郵送またはメールにてアプローチし、健康状態に関する質問への回答を依頼。743人(27.1%)から回答を得られ、引退していない選手および50歳未満の元選手を除外し、493人を解析対象とした。

一方、一般住民については、英国で実施されている50歳以上の地域住民対象の加齢に関する前向きコホート研究である「English Longitudinal Study of Ageing(ELSA)」の第6波の参加者10万601人から、元アスリート集団と比較する項目に含めた関節の状態などに関するデータに欠落のない8,024人を解析対象とした。

元アスリートは一般住民に比べて疾患を有する割合は低いが薬剤使用中の割合は高い

解析対象者は合計8,517人で、おもな特徴は、年齢67.1±9.7歳、女性54.0%、BMI28.1±5.2、何らかの疾患を有している割合76.5%、何らかの薬剤を使用している割合49.8%、多剤併用(5剤以上)中の割合1.0%だった。 これを元アスリートと一般住民とで比較すると、年齢には有意差がなく、女性の割合は一般住民のほうが高く(35.7 vs 55.2%)、BMIは元アスリートのほうが低かった(25.0±4.0 vs 28.3±5.3)。また、何らかの疾患を有している割合は一般住民のほうが高い一方で(66.1 vs 77.1%)、何らかの薬剤を使用している割合(56.0 vs 49.4%)や多剤併用中の割合(6.5 vs 0.7%)は、いずれも元アスリートのほうが高かった。

アスリートは引退後の皮膚癌リスクが高い可能性

疾患の有病率については、アスリートにおける有病率が1%以上の疾患について、一般住民と比較した。 年齢と性別を調整した標準化罹患率比(standardized morbidity ratios;SMR〈研究デザイン上は「有病率比」と解釈されるが論文に従い表記〉)を算出。その結果、主として心血管代謝疾患については元アスリートで少なく、皮膚癌と変形性関節症については元アスリートに多くみられた。詳細は以下のとおり。

なお、統計学的有意性は、一般的な95%信頼区間ではなく99%信頼区間により判定されている。

元アスリートのほうがSMRの低い疾患

肥満
SMR0.35(99%信頼区間0.23~0.50)。性別の解析ではいずれも有意。
糖尿病
SMR0.43(同0.22~0.74)。性別の解析ではいずれも有意。
脳卒中
SMR0.39(0.12~0.90)。性別の解析ではいずれも有意。
狭心症
SMR0.18(0.05~0.46)。性別にみると男性はSMR0.23(0.06~0.60)、女性は元アスリートでの発症がわずかであるため解析されていない。
不整脈
性別の解析で女性はSMR0.45(0.40~0.54)。全体解析および男性のみの解析では非有意。
喘息
SMR0.29(0.12~0.59)。性別の解析ではいずれも有意。
慢性閉塞性肺疾患
SMR0.29(0.06~0.81)。性別の解析では女性はSMR0.21(同0.13~0.36)、男性は非有意。
骨粗鬆症
性別の解析で女性はSMR0.46(0.42~0.51)。全体解析および男性のみの解析では非有意。
関節リウマチ
性別の解析で女性はSMR0.24(0.03~0.88)。全体解析および男性のみの解析では非有意。
緑内障
SMR0.06(0.01~0.18)。性別の解析ではいずれも有意。

元アスリートのほうがSMRの高い疾患

メラノーマを含む皮膚癌
SMR5.64(2.80~10.06)。性別の解析ではいずれも有意。
癌(皮膚癌、大腸癌・膀胱癌、前立腺癌、乳癌のいずれか)
SMR2.14(1.52~2.91)。性別の解析ではいずれも有意。
変形性関節症
SMR1.44(1.18~1.75)。性別の解析ではいずれも有意。

このほか、高血圧、心筋梗塞、大腸癌・膀胱癌、前立腺癌、乳癌、不安、うつに関しては、SMRの99%信頼区間が1をまたぎ、一般住民との有病率に有意差がなかった。著者らは、「引退後の元アスリートの皮膚癌と変形性関節症のリスクを抑制するために、的を絞った予防戦略の実施が望まれる」と総括している。

文献情報

原題のタイトルは、「Health among Retired Great Britain’s Olympic Athletes: A cross-sectional Study of Disease and Multimorbidity」。〔Sports Med Open. 2025 Aug 7;11(1):93〕 原文はこちら(Springer Nature)

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スポーツ栄養Web編集部

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