「喘息が治らない」理由をご存じですか? 原因の“気道のリモデリング”を医師が解説
公開日:2025/09/27
「いったん喘息になると、気道が元に戻らなくなる」と聞いたことはありませんか? それは「気道のリモデリング」のことを意味しているそうです。果たして、リモデリングとは? 一体どのようなことなのか、田中クリニックの田中先生にメディカルドック編集部が聞きました。
監修医師:田中 佐和子(田中クリニック)
プロフィールをもっと見る
東京女子医科大学卒業。東京女子医科大学呼吸器内科医局にて臨床医を務めながら医学博士号を取得。東京女子医科大学呼吸器内科、聖隷浜松病院、八戸平和病院、東京都多摩老人医療センター(現・東京都立多摩北部医療センター)呼吸器科などに勤務。2000年 オーストラリア パースのSir Charles Gairdner HospitalのDr.Hilmanの下で睡眠時無呼吸症候群の研究をおこなう。帰国後、複数の病院勤務を経た後、東京都保健医療公社多摩北部医療センター 呼吸器科医長。2008年2月 田中クリニックを開業し院長となる。 現在、東京女子医科大学 呼吸器内科非常勤講師も務める。
目次 -INDEX-
編集部
一度喘息を発症すると治らないと聞きました。本当ですか?
田中先生
はい。喘息は慢性の炎症であるため、現在の医療では根治することが困難とされています。そのため喘息の治療は完治を目指すのではなく、症状をコントロールすることを目指すのが一般的です。
田中先生
そもそも喘息とは気道に慢性的な炎症が起きる病気。喘息の患者さんの場合、発作が起きていないときでも気道では炎症が起きていて、とても敏感な状態になっています。そして、わずかな刺激でも反応し、発作を引き起こしてしまいます。そのため喘息は治らないとされているのです。
田中先生
喘息の原因はさまざまです。たとえばハウスダストやホコリ、カビなどのアレルギー物質が原因になることもありますし、風邪やインフルエンザなどのウイルス感染がきっかけとなって発症することもあります。そのほか、運動不足や肥満、ストレスなども関係しています。
田中先生
アレルギー体質は遺伝するため、喘息になりやすい体質は遺伝すると考えられます。しかし、親が喘息だから子どもも喘息になるかというと、必ずしもそうとは限りません。遺伝的な因子だけでなく、ダニやホコリ、カビなどのアレルギー物質やウイルス・細菌などの微生物、大気汚染物質など、さまざまな環境因子も相互に作用して喘息が発症するとされています。
編集部
喘息の患者さんの気道は、どのような状態になっているのですか?
田中先生
喘息の慢性炎症が長期間続いていることにより、気道のリモデリングが起きています。リモデリングとは、日本語に訳せば「再構築」という意味。簡単にいえば、気道の壁が厚くなり、元に戻らなくなったことを意味します。
田中先生
主に、発作が起きているときだけ薬を使って治療をして、そのほかのときは薬を使わないという生活習慣が原因です。先述のように、喘息の患者さんでは気道が慢性的に炎症を起こしています。しかし、激しい咳き込みなどの発作が出たときだけ薬を使用して、それ以外は使用しないという生活を続けていると、気道がどんどん分厚く、硬くなってきます。そしてその結果、元の軟らかな状態には戻らなくなってしまいます。これを気道のリモデリングといい、喘息が治らない原因になっているのです。
編集部
リモデリングが起きると、どのような影響が出るのですか?
田中先生
ちょっとした刺激にも敏感に反応するようになり、喘息発作が起こりやすくなります。また、治療薬を使用しても効き目が悪くなりますし、呼吸機能が低下して在宅酸素療法が必要になる重症例もあります。
田中先生
いったんリモデリングが起きると、リモデリング自体を治療することは困難です。気管支サーモプラスティ(BT)といって、気管支鏡を使って専用のカテーテルを気管支へ送り込み、高周波によって気管支の筋肉を温めることで喘息発作を予防する治療もありますが、これも、根治目的ではなく対症療法の一種。薬物療法だけでは対応しきれない重症患者に、薬物療法を効きやすくするためにおこなう治療法です。いったんリモデリングが起きるとそれを根治することは困難なので、喘息の治療はリモデリングを起こさないようにすることが目的となるのです。
田中先生
なにより症状がないときでも、治療を続けることが肝心です。喘息の治療は症状がなくても毎日使用する「長期管理薬(コントローラー)」と、発作が起きたときだけ使用する「発作治療薬(リリーバー)」の2種類があります。なかには、「症状があるときだけ発作治療薬を使い、長期管理薬は面倒なので使うのをやめてしまった」という人もいるようですが、そうなるとリモデリングが進みやすくなります。症状がなくても、必ず長期管理薬を使うようにしましょう。
田中先生
喘息治療の目的は、日常生活を支障なく送れるようにすること。たとえ喘息があっても、健康な人と同じような生活を送れるようになることが目標です。そのため「喘息の発作が起きるといけないから趣味活動ができない」といって、やりたいことを諦めないで済むよう、積極的に治療に臨むことが大事。やりたいことやライフスタイルは、ライフステージによっても変わってきますから、自分のライフステージにあった治療をおこなうことを考えましょう。また、インフルエンザなどのワクチンを接種することも、広い意味でいえば喘息の予防につながります。喘息薬を使うことだけでなく、生活全般を見直してみることも良いかもしれません。
編集部
最後に、メディカルドック読者へのメッセージがあれば。
田中先生
私自身、喘息の治療を続けて40年近くになりますが、その間さまざまな治療法や治療薬が開発されてきました。昔は喘息治療として、乾布摩擦をしたり、肉体を鍛えたりすることを熱心におこなった時代もありましたが、今は効果のある薬もたくさん開発されています。また、アレルギーに関する研究が進んだことにより、気管支を拡張させる薬からアレルギーを抑える薬へと、治療の目的も変わってきました。「喘息は治らない」といっても、治療法はめざましく進化しています。諦めることなく、信頼できる専門医のもとで、積極敵に治療に臨んでほしいと思います。
編集部まとめ
「喘息は治らない」と聞いて治療を投げ出してしまう人も多いと聞きます。しかし、喘息があっても発作が起きなければ健康な人と同じような生活を送ることはできるはず。やりたいことをあきらめなくても済むように、ぜひ、積極的に治療に臨んでみましょう。