【番記者の視点】5連勝で2位浮上の立役者 浦和FW松尾佑介の「普通の1トップ」と違う武器とは
◆明治安田 J1リーグ▽第14節 浦和2―0東京V(3日・埼玉)
【浦和担当・金川誉】5連勝を飾って表情も明るい浦和の選手たちの中で、松尾佑介は最後にミックスゾーンにやってきた。勝利に大きく貢献した先制ゴールについて問われると、まずこんなことを口にした。
「今日、本当になんか朝起きた時からすごい気分がよかったので。それが試合に出たかなと思います。(理由は)わかんないんすけど、たまにあるんすよね。去年も鳥栖戦の前に、なんかトレーナーと、今日は気分いいわ、って言っていたら、なんかゴール決めたし」。想定外の回答に、取材陣の空気が和らいだ。
しかしプレーの解説となると、理路整然と自身の考えを言葉にできるのも松尾の魅力。前半6分。左サイドの裏に走ってボールを引き出すと、相手DFと駆け引きしながら前を向いた。元々は左ウィングの彼にとっては、慣れ親しんだシチュエーションだ。中へのカットインを選択し、そのまま右足でねじ込んだ。パスを受けた瞬間からシュートのイメージを強く持っていたように見えたが、松尾は違った。
「最初からシュートのイメージ? そんな気持ちはなかった。いろんな選択肢を持ちながらプレーするというのを、個人的には改善点として持っているので。その中でチョイスしていけたのがよかったです」
一連のプレーでは、まず縦への突破をにおわせて中に仕掛けると、左サイドバックのDF長沼が内側を走ってできたスペースにボールを運んだ。さらに後方からゴール前に侵入したMFサビオと一瞬重なりそうになったが、うまくその“渋滞”も生かした。
「(相手を)ずらしたほうが絶対いいなと思っていました。サビオが走ってくれたので、そこに人(相手選手)がつられて、さらにもう一個奥のスペースが見えましたし、そこに行った方がシュートスポットとしてはいいかなと」
ドリブルでやや斜め後方に進みながらのシュートは、トレーニングから意識してきた形。「横(へのドリブル)だと(腰を)ひねれないんで。あまり強いシュートが打てなかったりしますし、相手からしたらブロックしやすい。色々な選手のカットインの映像を見て、ちょっと斜め後ろにカットインするのは、シュートスペースをつくる上で有効だと思いますし、選択肢を広げる上では大事だと思います」
一見、後ろへのドリブルはゴールから遠ざかる動作にも見えるが、相手から離れることでシュートの空間を作り出した。今回は左サイドの突破から見せたが、ボックス内でのプレーがより多い1トップでは、より使用頻度も高いはずだ。
今季4月12日の町田戦で1トップに起用されて以来、3得点とフィニッシャーのしての役割に加え、相手DFラインを下げる役割、さらに自チームの陣形をしっかり確認した上でのプレスの先鋒役もこなす。決して持ち味のスピードやドリブルに固執するわけではなく、必要に応じてマルチタスクをこなす姿には、1トップとしての適正も感じさせる。
「普通の1トップの選手だと、背負ったプレーをすると思う。そこで前を向けて、かつ怖いところに入っていけるのが、僕が1トップをやっているメリットだと思います。シンプルにプレーするところ、仕掛けるところの使い分けがバランスよくできていると思います」
左サイドに流れたプレーから生んだ先制点を、こう振り返った松尾。ウィングとワントップの“ハイブリッド型”としての能力は、左サイドから縦横無尽にどんどんポジションを変えるMFマテウスサビオともマッチし、今や浦和の武器に。している。ウィングからセンターFWへと主戦場を移して飛躍した選手は、Cロナウドを筆頭に数々いる。浦和のスピードスターは今、その道を歩み始めている。