映画「マインクラフト」の大ヒットが示す、ゲーム映画の爆発力(徳力基彦)
日本でも4月下旬に公開された映画「マインクラフト/ザ・ムービー」が世界中で大きな話題になっています。
日本でも公開初週末の興行収入がおよそ5.9億円と、海外映画としては良いスタートを切りましたが、なんといっても凄いのは海外での実績。
4月4日に公開されるやいなや、北米の公開初週末の3日間で1億5700万ドルと「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」の記録を更新し、2週連続の1位を達成してしまったのです。
その後、さすがにペースは落ちたようですが、現時点で世界の興行収入はなんと8億7千万ドル(約1250億円)を超えて、世界の歴代映画興行収入で88位まで上がってきています。
なにしろマインクラフトは、毎月のアクティブユーザーが世界で1.7億人以上いると言われているオバケゲームソフトですから、ある意味そのヒットは当然と言えるのかもしれません。
挿入歌もビルボードホット100に入る大ヒット
さらに、その話題は映画の中だけに留まりません。
実は映画の劇中に出てくるスティーブを演じるジャック・ブラックさんが歌う「Steve's Lava Chiken」という34秒の短い楽曲が大バズり。
なんと米国の「ビルボードホット100」の78位にランクインし、これまでにランクインした一番短い曲という記録を更新してしまったのです。
参考:映画『マインクラフト』の34秒の挿入歌がビルボードHot 100入り
なにしろ、このYouTubeにアップされた動画は、YouTubeのMVの米国のランキングで週間9位まで上り詰めていたようで、現時点で再生回数は3400万回を超えていますから、その話題の大きさが分かると思います。
ちなみに、このジャック・ブラックさんは、実は「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」でも、クッパ役で歌った「Peaches」という楽曲をヒットさせた実績があります。
ある意味、ジャック・ブラックさんは、ゲーム映画における挿入歌のヒット請負人的なキャラクターになりつつあるようです。
ゲーム映画だからヒットする時代
ちなみに、つい7〜8年ぐらい前までは、ゲームを題材にした映画がハリウッドで大ヒットになるのは難しいというのが業界の定説だったようですが、この数年そのイメージは大きく逆転しようとしています。
特に大きかったのは何といっても2023年に公開された映画「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」の大ヒットです。
参考:映画「スーパーマリオ」の大ヒットが予感させる、ゲーム映画の黄金時代
この映画は世界の興行収入が最終的に13.6億ドルを超え、世界の歴代映画興行収入で19位に入る快挙を成し遂げ、ゲーム映画の社会的位置づけを大きく変えました。
さらに昨年末に公開された「ソニック × シャドウ TOKYO MISSION」も4.9億ドルとシリーズ最大のヒットを記録し、次回作が2027年春に公開されることが決定しています。
参考:ソニックの実写映画最新作は「シリーズ最高の興収」、次回作も決定
また、映画ではありませんが、HBOが同名のゲームをドラマ化した「The Last of Us」は、2023年に公開されたシーズン1はHBO最高視聴率を獲得し、エミー賞の8部門受賞の大ヒットとなり、今年公開されたシーズン2も世界中で大きな話題になっています。
そこに来て、この映画「マインクラフト/ザ・ムービー」の大ヒットですから、もはやゲーム映画の大ヒットは難しいという常識は逆転し、ゲーム映画だからこそ爆発的に大ヒットする時代になっていると言ってもいいかもしれません。
ゲーム映画ならではの低評価?
ちなみに、興味深いのは大ヒット映画となった「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」も「マインクラフト/ザ・ムービー」も、共に映画の批評家からは厳しい評価を受けていた点です。
(出典:Rotten Tomatoes)「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」は、アメリカの映画クチコミサイト「ロッテントマト」のトマトメーターという映画批評家の評価では59%という腐ったトマト扱いの評価になっている一方で、観客の評価は95%と非常に高かったことが非常に印象的な映画でした。
参考:絶賛vs酷評!マリオ映画、観客と批評家で賛否真っ二つの背景
実はこの傾向は「マインクラフト/ザ・ムービー」も同じです。
(出典:Rotten Tomatoes)こちらは映画批評家の評価では47%とさらに低い評価がついていますが、観客の評価は86%と高くなっています。
そして、どちらの映画も、そうした映画批評家の酷評をよそに、映画の歴史トップ100に残る爆発的な大ヒットとなっているわけです。
ゲーム映画を安定してヒットさせ続けることはできるか
おそらく、ここに大ヒットするゲーム映画ならではのポイントがあります。
実際に映画を観て頂いた方ならおわかりだと思いますが、どちらの映画も、ゲームをプレイしている人ならニヤリとしたり、嬉しくなったりするような小ネタが満載の映画です。
おそらく映画評論家は、映画を映画単体として評価する関係で、そうしたゲームに関連する小ネタや、ゲームプレイに似た爽快感のあるシーンを評価していなかったり、そもそもゲームをプレイしていなくて知らなかったりするのでしょう。
一方で、ゲーム映画を見に来る観客の多くは、ゲームを実際にプレイしているからこそ、こうした小ネタや、ゲームプレイに似たシーンを喜んで楽しむため、高い評価になると考えられるわけです。
そう考えると、実はゲーム映画には従来の映画とは少し異なるヒットの方程式が存在していると考えるべきなのかもしれません。
ゲーム映画と言えば、2026年4月には「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」の続編の公開が予定されていますし、2027年3月には「ゼルダの伝説」の公開が予定されています。
これから公開されるゲーム映画も、そうしたゲーム映画ならではのポイントを抑えて映画作りできるかどうかが、ヒットするかどうかの分岐点になると言えるかもしれません。
まずは「マインクラフト/ザ・ムービー」が、どこまで記録を伸ばすのか楽しみにしたいと思います。