AI銘柄に急ブレーキ、ハイテク一極集中の脆さ露呈-アジア株に冷や水

アジア株式市場で先週、ハイテク株が急落した。人工知能(AI)関連銘柄や半導体株が主導してきた上昇相場がピークに差し掛かっているとの見方が広がり、投資家心理に冷や水を浴びせた。

  4月以来となるアジア株の大幅下落は、米株式市場でのハイテク主導の売りが引き金となった。これを機に、市場に潜む「亀裂」が改めて意識されている。上昇銘柄の裾野の狭さや個人投資家への過度な依存、米利下げ時期をめぐる不透明感の高まりが懸念材料だ。

  サクソ・マーケッツのチーフ投資ストラテジスト、チャル・チャナナ氏は「先週の下落はアジア市場の構造がより脆弱であることを思い起こさせた」と指摘。「今後も調整は続くだろう。根本的な要因は行き過ぎた株価水準であり、それはまだ是正されていない。アジアの半導体関連株は当面、変動の大きい展開が続くとみている」と語った。

  アジアのハイテク株は今年、米国勢を上回る上昇を見せている。相対的な割安感に加え、ディープシーク(DeepSeek)の躍進など、中国でのAI開発進展が材料視された。MSCIアジア太平洋指数は年初来で24%上昇。S&P500種株価指数の上昇率との差は過去16年で最大となる見通しだ。

  しかし、過熱感を懸念する声も出ている。 韓国のSKハイニックスの株価が年初来で240%上昇したことを受け、韓国取引所は投資家に異例の注意喚起を行った。

  そうした急伸の反動が、先週の相場下落につながった。MSCIアジア太平洋テクノロジー指数は5日に一時4.2%下落し、日中ベースではトランプ関税ショック以来となる大幅安となった。同日は韓国総合株価指数は一時6.2%下落し、日経平均株価も一時4.7%安と売られた。

構造的な問題

  アナリストらは、アジア株の大幅な下落は構造的な問題も反映していると指摘する。株価指数が一部のハイテク大手に極端に偏っている点だ。台湾積体電路製造(TSMC)は現在、加権指数の40%超を占め、10年前の構成比率の約3倍となっている。韓国では、サムスン電子とSKハイニックスの2社で総合株価指数の約3割を占める。

  日本も例外ではない。日経平均株価では上位5銘柄で指数全体の約38%を占める。フィリップ証券の増沢丈彦株式部トレーディング・ヘッドは、AIや半導体ブームに何か異変が生じれば、日経平均はすぐに大きく下げるだろうと指摘。今後も調整局面が続き、相場の変動が一段と激しくなる可能性があるとの見方を示した。

  アジア株市場では、個人投資家の売買が値動きを一段と増幅させているとアナリストはみている。

  KB証券のマネジングディレクター、ピーター・キム氏は「外国勢がなお様子見姿勢を続けるなか、個人や国内投資家の参加が拡大し、アジア市場全体でボラティリティー上昇やセクター間ローテーションにつながっている」と分析。「流動性や機関投資家の参加が限られるなか、値動きの大きさが特にAI関連銘柄で際立っている」と語った。

相対的には割安

  もっとも、先週の下落警戒すべき兆しとみる向きばかりではない。

  NHインベストメント・アンド・セキュリティーズの株式トレーダー、ショーン・オー氏は「今回の動きは利益確定の売りにすぎない。それ以上でも以下でもない」と指摘。「今回はファンダメンタルズよりも投資家心理が大きく作用した。一度くらいは調整が入るだろうと考えていた投資家も多かったはずだ」と述べた。

  アジア半導体セクターの株価は引き続き、相対的には割安な水準にある。ブルームバーグが算出するアジア太平洋地域の半導体株指数は、予想PER(株価収益率)がおよそ18倍と、フィラデルフィア半導体株指数の同28倍を大きく下回っている。

  一方でアジアのハイテク株売りを受けて、投資家の間では慎重姿勢を強める動きもある。その背景には、ゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーの最高経営責任者(CEO)が株式市場が世界的に調整局面に入る可能性を警告したこともある。

  M&Aインベストメンツでアジア株式ポートフォリオマネジャーを務めるビカス・パーシャド氏は「われわれは将来のリターン見通しに焦点を当てており、先月はその観点からアジアのテクノロジー関連株で利益を確定した。現在の水準では、これらの分野への投資比率を積極的に高める段階にはないと考えている」と語った。

原題:Plunge in Asia’s AI Shares Sows Doubts Over World-Beating Rally(抜粋)

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