<独自>PR会社が斎藤知事側に送付した見積書は3通あった 請求書にないSNS費用記載
昨年11月の兵庫県知事選で再選された斎藤元彦知事の選挙期間中のSNS運用を巡り、陣営から報酬を受け取ったとして公選法違反(被買収)罪で告発され、不起訴となった兵庫県西宮市のPR会社「merchu(メルチュ)」の女性代表側が知事選前に、SNS関連の対価を含む3通の見積書を、斎藤氏側に送付していたことが12日、捜査関係者への取材で分かった。
最高300万円近く、プロジェクト名に「広報」
見積金額はいずれも200万円台で、最高は300万円近く。料金の違いはオプションによるもので、全ての見積書にSNS関連の費用を記載。共通するプロジェクト名として《兵庫県知事選挙に向けたブランディング・広報》と記されていた。
いずれも公表されていない3通の見積書の存在は、兵庫県警の捜査で浮上。結果的に斎藤氏側はSNS関連の費用を一切含まないポスターデザイン制作などの費用として計71万5千円をメルチュ側に支払った。この支出について、神戸地検は選挙運動の報酬には当たらないとして、女性代表と斎藤氏のいずれも不起訴とした。
女性代表が注目を集めるようになったのは、斎藤氏が再選された昨年11月の知事選直後のことだった。斎藤陣営の選挙戦を振り返る形で「広報全般を任せていただいた」と、投稿プラットフォーム「note(ノート)」に長文の記事をアップ。記事にはX(旧ツイッター)やインスタグラム、ユーチューブなどのSNS運用の方針が詳細に書かれていた。
ノート投稿記事炎上
選挙におけるSNS運用や戦略的広報の重要性を知ってほしいという女性代表の投稿は、その意図とかけ離れたところで炎上した。対価を得て広報=選挙運動を行っていれば公選法違反(買収、被買収)に当たるのでは、と疑惑を指摘する声がネット上で相次いだ。
自身の疑惑告発文書問題で失職に追い込まれ、それでもSNS世論を味方につけて知事に返り咲いた斎藤氏は喜びもつかの間、女性代表の投稿により、再び守勢に立たされることになった。
斎藤氏は「法に抵触することはしていない」と強調。後日会見した代理人弁護士も、女性代表が選挙期間中に行った陣営のSNS運用は、斎藤氏を支持する選挙運動員の一人としてボランティア(無償)で行われたもので、違法性はないと主張した。
斎藤氏の後援会からPR会社に支払われた71万5千円について、斎藤氏側はチラシやポスターのデザイン制作費など、いずれも支払いが許される「政治活動、立候補の準備活動の費用」で、知事選期間中のSNS運用の対価は含まれていないと強調した。
このとき、公表された請求書は5項目の費用から成り、それぞれの単価はPR会社から後援会に送られた見積書の1通と同じだった。
大きな相違点は、見積書に記載されていたユーチューブ用の動画撮影やインスタグラム投稿デザインといったSNS関連の費用が、請求書では除外されていること。プロジェクト名からは《ブランディング・広報》の文字が消え、《デザイン制作》に置き換わっていた。
有償から無償に…〝心変わり〟なぜ
公選法に抵触するかどうかは別として、PR会社から提案のあったSNS関連のオプションについては、単純に契約合意に至らなかったとみることもできる。
ただ、女性代表は見積もり段階で有償としていたSNSで使える動画の撮影や編集を、選挙に入るともっぱらボランティアとして無償で行ったことになる。これまで女性代表側は取材に応じておらず、これらの経緯は明らかになっていない。
斎藤陣営から支払われた71万5千円に、本当にSNS運用の対価の趣旨は含まれていなかったのか-。県警や神戸地検の捜査ではこれが大きな焦点になったが、地検は最終的に不起訴処分を決めた。ある検察幹部は「(SNS運用の対価という)交換条件があるような支払いをした形跡は、捜査の結果認められなかった」とした。
斎藤氏はこの間、女性代表との具体的なやり取りについて、自らの口ではほとんど説明してこなかった。
文書問題を調べる県議会調査特別委員会(百条委員会)で委員長を務めた奥谷謙一県議は、今回の不起訴処分について「詳細は把握していないので、知事からの説明を聞きたい」と話した。
また斎藤氏は、告発文書を作成した元県幹部の私的情報漏洩問題に関与したとする地方公務員法違反罪でも告発され、地検の捜査は続いている。