日本のハイテク決算、AIが明暗分ける-半導体好調、車載向け苦戦

人工知能(AI)の普及が追い風となり、日本のハイテク企業の決算は市場予想を上回る好調さだ。データセンター向け需要の急増を背景に半導体メーカーや製造装置メーカーが業績予想を相次ぎ引き上げている。

  MSCIジャパン情報技術指数の構成銘柄は大半が決算を発表し、4分の3超がアナリスト予想を上回った。これはMSCIジャパン指数全体の中でも高い比率だ。ブルームバーグのデータによれば同指数全体の利益は前年比35%増加し、アドバンテストが大きく寄与した。

  主要サプライヤーからの上向きなガイダンスと政府による新たな支援が日本の半導体復権に勢いをつける一方、今回の決算は世界の半導体業界における二極化も浮き彫りにした。AI関連需要が引き続き収益を押し上げる半面、自動車業界向けサプライヤーの苦戦は続いている。

  東京エレクトロンは通期の営業利益見通しを引き上げた。半導体メーカーの旺盛な設備投資を受け、半導体製造装置の強い需要が来年まで続くとアナリストはみる。ベレンベルクのアナリスト、タミー・キュー氏は2026年の見通しも改善したと指摘。DRAMやNANDへの投資加速を背景に、ウエハー製造装置への投資は過去最高に達すると同社が予想しているという。

  ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)のアナリスト、若杉政寬氏と岡野拓洋氏は、半導体の高性能化に伴い、同社製装置への需要も一段と高まると予想。データセンターの拡張を背景に韓国のSKハイニックスサムスン電子などDRAMやNANDの製造を手掛ける顧客からの需要が来年度に増加する見通しだという。東京エレクトロンはフォトレジスト塗布・現像装置で世界シェア約9割を握る。

  アドバンテストは通期の営業利益見通しを25%引き上げ3740億円とした。高帯域幅メモリー(HBM)の需要拡大を背景に高性能半導体テスタの需要が堅調に推移している。4月の発表資料によれば、エヌビディア向けサプライヤーである同社のメモリ・テスタ市場(総額19億ドル)における世界シェアは前年度比7ポイント上昇し63%に達した。

  アドバンテストのダグラス・ラフィーバ最高経営責任者(CEO)は決算説明会で、上方修正は「堅調なAI関連需要、供給能力の強化、市場シェア拡大」を反映したものだと述べた。

  岩井コスモ証券のシニアアナリスト、斎藤和嘉氏は、アドバンテストの経営陣が来期の売上高について、1兆円を超える確度が高いと強気の見通しを示した点をポジティブに評価した。

  AIの波はHBMにとどまらず、汎用(はんよう)DRAMやNANDにも広がり、関連素材や装置の需要を押し上げている。BIの若杉氏はインタビューで、AI向け画像処理半導体(GPU)需要は引き続き堅調で、2026年にかけてさらに高まる可能性があると述べた。

  東京エレクトロンの河合利樹CEOは決算説明会で「まさにAI時代の到来だ」とし、「旺盛なAIサーバー需要と、それに必要な半導体の技術革新がドライバーとなり、今後も先端半導体向けの投資は飛躍的な拡大が見込まれる」と強調。「来年以降も2桁成長が期待される」と見込んだ。

  アドバンテストの株価は決算発表後に22%急騰し、過去最大の上昇率を記録した。東京エレクトロンも一時8.9%上昇した。両社とも通期見通しを上方修正している。

政府支援

  政府の支援と持続的なAI投資が、日本のハイテク分野全体の楽観論を支えている。経済産業省によると、日本政府は2021年以降、半導体産業の再興に約5兆7000億円を割り当てた。自民党は国内の半導体やAI分野を支援するため、年間1兆円程度の予算確保を目指す考えだ。

  野村アセットマネジメントの日本株投資信託「情報エレクトロニクスファンド」を運用する福田泰之チーフ・ポートフォリオマネジャーは、足元のAI相場は「バブルという段階ではない」と分析。一部AI銘柄の動きに警戒はしているが、AI相場自体は「第2幕が始まったばかり」との認識を示した。

  一方、自動車・産業向け半導体の需要回復は遅れている。

  ルネサスエレクトロニクスの株価は、回復の鈍さや低価格のパワー半導体との競争激化が嫌気され、一時8%安と4カ月ぶりの大幅な日中下落率を記録した。ロームも通期営業利益見通しを50億円と市場予想の半分以下にとどまり、下期は赤字転落を示唆する内容だったことで株価が下落。レゾナックホールディングスは自動車市場の低迷を受け、2023年以来初の四半期営業赤字を計上した。

  ロームの東克己社長は先週7日の記者会見で、期末にかけ自動車関連の売上高が減少する見通しを示した。ただ、来期には自動車関連市場が回復に向かうと見込んだ。

原題:Japanese Chip Sector’s Earnings Show AI Appetite, Auto Slump(抜粋)

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