【元虎番キャップ・稲見誠の話】阪神8人目の40発へー「1番・佐藤輝明」は愚策か奥の手か?残り6戦2発…
22日ヤクルト戦(神宮)を含めて、阪神の残り試合は「6」。本塁打王のタイトルを、ほぼ手中に収めている佐藤輝明にとって、何本で初戴冠に到達できるか、が注目の的。現状、15日中日戦(甲子園)での自身2度目の2打席連続弾の38号が最後。疲労蓄積のコンディション不良による2度のベンチ外を含めると、5試合に渡ってアーチから遠ざかっている。しかも左翼席に放り込んだ一発後は12打数1安打5三振1四球…。21日のヤクルト戦の八回の右前打が13打席ぶりの快音だった。球団8人目の大台まで、あと2本で下降線の気配。与えられた時間は6試合。個人的には「1番・佐藤輝」はアリ、だ。入団5年間の〝最上位打順〟は2022年の「2番」。だから余計に見てみたい。打席を増やすことで、バックアップをしてほしいと思っている。
「40本を打つと、そこは別世界。ホームランバッターにとって、40本は一つの勲章」
掛布雅之OB会長はテレビ解説で、こう語っていた。大台に到達した実績が己へのプレッシャーともなり、次の成長につながるとも力説していた。2度も〝別世界〟を経験した人間にしか言えない重みのある言葉だった。
本塁打のタイトルを争う選手に打席数を与えるために1番に抜擢するー。感覚的には昔はよくあった気がする。厳密に言えば、今回のケースは争ってはいない。しかも定位置とする近本光司には差が開いたとは言え、最多安打のタイトルがかかっている。世の流れ。チーム事情を考えれば、愚策かもしれない。しかし、妨げる強固な理由があるとも思えない。
状況は異なるが2023年、日本ハム・新庄剛志監督がキングを争っていた万波中正を1番に21試合、2番に1試合、起用した。計22試合で5本を加え、最終的には25発。ロッテのグレゴリー・ポランコ、ソフトバンク・近藤健介、楽天・浅村栄斗がタイトルを分け合い、1差で敗れた。
大山悠輔が28本塁打を記録した20年は残り2試合で1番に入ったものの、巨人・岡本和真の31本には追いつけなかった。03年は9月15日にリーグ優勝が決まり、17日に「1番ジョージ・アリアス」が誕生した。そして〝デビュー戦〟で、初回先頭打者アーチの離れ業!パワーあふれる斬り込み隊長は計3本塁打を加えた。ヤクルトのアレックス・ラミレス、中日タイロン・ウッズが40本でタイトルを獲得し、アリアスは38本だった。万波とアリアスを見てみると、無駄ではない。やってみる価値はあると思うのだが…。
球団創設90周年を迎える阪神で年間40発以上の選手を本塁打数順に並べるとー。
★54本塁打=85年ランディ・バース
★48本塁打=79年掛布雅之
★47本塁打=86年バース、10年クレイグ・ブラゼル
★46本塁打=49年藤村冨美男
★45本塁打=74年田淵幸一
★43本塁打=75年田淵
★40本塁打=76年ハル・ブリーデン、85年掛布、05年金本知憲
過去7人が10度、大台に乗せている。8人目になる可能性が佐藤輝の目の前にある。最初で最後の…とは言えないが、このチャンスを逃すのはもったいない。1番で2本加えても、誰も文句は言わない。今季、新人指揮官ながら、らしさ全開で数々の妙手を披露した藤川球児監督にとって、「1番・佐藤輝明」は、許容範囲なのか。それとも論外なのか。個人的には奥の手と思えるが…。3月28日の広島との開幕戦(マツダ)の一回の第1打席の2ランから、今季の快進撃は始まった。いずれにしても、残りはわずか6試合。ひと握りの選手にだけ与えられた「飛ばす素質」を持った佐藤輝明は、〝カケフ流勲章〟をも手にすることができるのだろうか。(敬称略)
■稲見 誠(いなみ まこと) 1963年、大阪・東大阪市生まれ。89年に大阪サンスポに入社。大相撲などアマチュアスポーツを担当し、2001年から阪神キャップ。03年には18年ぶりのリーグ優勝を経験した。現在は大阪サンケイスポーツ企画委員。