家族をも壊す戦争トラウマ 臨床心理の視点から見る回復への道は
親から子、子から孫へ――。
元日本兵が苦しんだ戦争トラウマは、その子どもや孫たちの家族関係にも、時に暴力や虐待という形で影を落としてきた。
立命館大大学院の村本邦子教授は、1990年代から臨床心理士として家庭内暴力の被害者に向き合う中で、加害者やその父親が帰還兵であるというケースに遭遇してきた。
戦後世代の苦しみの背景にある戦争の影響、とりわけ加害の経験とどう向き合えばいいのか。
村本さんがそのヒントにたどり着いたのは、2007年に中国・南京大虐殺があった現場に赴いた時のことだった。
戦後世代が戦争の歴史に向き合うことにはどんな意味があるのか。村本さんに聞いた。
終戦から81年。日本はアジア諸国に資源や権益を求めて侵略しました。戦後世代は加害の歴史にどう向き合うべきか。連載「加害の記憶 戦後81年」を随時掲載します。 関連記事 中国で頭下げ…「父の罪背負う」 戦争トラウマ2世が抱えた後悔
――戦争トラウマは近年、元日本兵の2世、3世が語り始めたことで社会問題になりました。加害行為に及んだ兵士らの心の傷にはどんな特徴があるのでしょうか。
◆まずトラウマというと、個人の心のダメージという印象が強いと思います。
しかし私は「つながりや関係性が破壊されてしまうこと」だと捉えています。
先の大戦は総力戦であり、民間人も空襲や原爆、地上戦で大きな被害を受けました。むろんこうした被害も過酷な経験です。
しかし、人を殺すといった加害行為を行うには、私たちが持っているはずの共感や、倫理的な抑制を切り離さなければ難しい。
平時には到底できないような行為をし、生き延びるために、感情をも切り離したのだと思います。
戦争だったとしても簡単に受け入れられることではなく、自分の人生に意味づけすることは難しい経験です。
こうした経験は周囲に語られず、その後の生き方や人間関係に影響を及ぼすことがあります。場合によっては、アルコールへの依存、感情の遮断、身近な人への暴力として表れてしまいます。
戦争によって兵士たちの心や、人とのつながりが傷つきました。それは、戦後の家族関係にも持ち越された可能性があるのです。
<この後の内容は> ・戦争トラウマ タブー視の背景 ・孤立感癒やす「他者との対話」 ・戦争と向き合えなかった過去 ・南京大虐殺の現場で見たもの
・黒井さんの「謝罪」の意味は