米セクター別関税を各国が警戒、トランプ政権との交渉で合意の障害に

トランプ米政権と各国・地域の関税交渉が難航している。日本、インド、欧州連合(EU)を含む交渉相手が、半導体、医薬品、鉄鋼などセクター別関税の影響が不透明なままでは合意できないとの立場を取っているためだ。

  米商務省は国家安全保障上、重要とされる分野に関する調査結果を向こう数週間に公表する予定だ。これには半導体、医薬品、重要鉱物が含まれる。同調査の結果を受けて、対象セクターの外国製品には通商拡大法232条に基づき新たな関税が課されると広く予想されている。

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  トランプ大統領は4月2日に国・地域別の上乗せ関税を発表したが、7月9日まで適用を延期。これらの上乗せ関税の低減や撤廃を求める各国・地域の政府にとっては、セクター別の関税がどのように適用されるか見通せない点が、交渉の大きな障害となっている。貿易相手国・地域の多くにとって、セクター別関税は上乗せ関税よりも打撃が大きい可能性がある。

  ヒンリッヒ財団の通商政策責任者、デボラ・エルムズ氏は「ベトナムや日本、韓国の立場に立って考えてほしい。上乗せ関税で痛みを伴う譲歩を余儀なくされてようやく合意にこぎ着けた翌日に、通商拡大法232条に基づく新たな関税が導入されたらどうなるか」とした上で、「合意直後に別の関税を発動されるような状況は誰も望んでいない」と述べた。

英の事例は教訓

  英国が受け入れた部分的な合意は、交渉を進める他の国・地域に教訓を提供する。英米の取り決めでは両国の鉄鋼貿易について、割り当て制度や原産地規則の強化など、詳細の詰めはさらなる交渉に委ねられた。現時点で英国産鉄鋼に対する25%の米関税は維持されており、英政府が目指していた撤廃は実現していない。

  「これらすべての関税措置がどう相互に作用するのか全く見通せず、それが各国・地域の大きな懸念となっている」と、かつて通商代表部(USTR)次席代表を務め、現在はアジア・ソサエティー政策研究所に所属するウェンディ・カトラー氏は指摘する。

  ある米政権関係者は、英国の合意枠組みは米国が課すセクター別関税の柔軟性を示す一方で、他の国・地域が交渉のひな形とすべきではないと話す。232条関税は国家安全保障上、重要な製品の国内生産回帰(リショアリング)を目的としており、4月2日に発表された上乗せ関税とは目的が異なるという。

関税が取引の材料に

  さらに、トランプ政権がこれらの関税を時に取引材料として扱う恐れがあることもネックだ。

  ラトニック商務長官は今月初めに行った上院での証言で、232条に基づく関税が貿易を促す交渉手段として利用され得る例を挙げた。英国との合意では、米国による航空宇宙製品への関税適用除外が含まれており、これは現在進行中の232条調査の対象だ。

  ラトニック氏は、関税をゼロとする見返りとして、英ブリティッシュ・エアウェイズ(BA)から100億ドル(1兆4440億円)相当のボーイング機購入契約をトランプ氏が取り付けた点に言及。競合するエアバスから契約を勝ち取ったとの認識を示した。

日本は自動車関税が争点  

  日本は上乗せ関税から自動車や鉄鋼向けのセクター関税まで、すべての米国の関税措置を一括で解決したい意向だ。しかし、25%の自動車および部品への関税が交渉の大きな争点となっている。

  米政府が自動車関税に焦点を置くのは、対日貿易赤字の大半を占めるためだ。一方、日本は自動車産業を経済の柱と位置づけている。自動車は国内総生産(GDP)の約10%を占めるほか、労働人口の約8.3%に相当するなど、雇用の裾野も大きい。

  石破茂首相は今月初め、主要7カ国首脳会議(G7サミット)出席のため訪れていたカナダで行った会見で、自動車は大きな国益であり、これを守るために最善の努力を重ねるとの認識を表明した。これに先立ち、G7会合に合わせて行われたトランプ大統領との首脳会談では、両国は合意に至らなかった。

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原題:Fear of Sectoral Tariffs Proving Roadblock for Trump Trade Deals(抜粋)

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