宇都宮LRT、社長交代へ 当初は社員4人、開業までと今後の展望
次世代型路面電車(LRT)を運行する宇都宮ライトレール社を設立時から指揮してきた高井徹社長(70)が6日の株主総会で退任し、酒井典久副社長にバトンタッチする。これまでの道のりと、今後の展望について聞いた。【松沢真美、有田浩子】
――指揮をとられて10年。今のお気持ちは。
◆LRT事業はベンチャー(創業)です。振り返ると、会社経営と行政のマネジメントは似ていると感じます。役所で部課長、副市長として積み重ねた判断力や分析力、ビジョンを持つ力は、業界が違っても共通している。6割はマネジメント、2割は知識・経験でやってきました。最後の2割は運です。
Advertisement――「運が2割」というのは。
◆人との出会いもそうですが、時機もあります。当初開業予定は2019年12月でした。コロナのパンデミックの直前です。22年の開業もずれて、23年8月26日に開業しました。コロナの5類移行がその年の5月。まさに「天恵」だと思いました。
――開業してから印象に残っていることはありますか?
◆週に1、2回LRT通勤をしていますが、ある時、運転席脇でランドセル姿の小学生を見かけました。便利で、安心で、遅刻しないから親がLRTでの通学を許してくれたんだなと思いました。
それと、車両基地のある平石電停(停留場)から自転車で宇都宮東中・高校へ通っている学生がいるのですが、想定していませんでした。インフラ(鉄道)をどう使うか、お客さん自身が発見したり開発したりしてくれていることを実感しました。
――ポリシーとしてきたことはありますか。
◆「千客万雷(来)」「笑門雷(来)福」を合言葉に、地道に安全運行・安定運行を積み重ねていくことが西側延伸にもつながると思っています。
全国軌道事業者連絡協議会に加入した当初は全社員4人でした。新設の路面電車は75年ぶりですから、運転士も技術職もあちこちの軌道事業者にお世話になり、次世代型の路面電車をつくることに同業他社が関心と共感を寄せてくれ、ぜひ私たちの未来の姿を示してほしいと言われました。
今回、怒濤(どとう)の時期をかいくぐり、一区切りした節目で退任しますが、お礼を言いたい思いが強いです。
――未来の姿は示せていますか。
◆持続可能な公設型上下分離方式で、自治体のまちづくり(ネットワーク型コンパクトシティ)と連動しています。市が交通系ICカード「totra」を小中学生に配布するなど運賃負担軽減策を実施してくれましたし、駐車場・駐輪場のあるトランジットセンターがこれほど整備されている自治体はありません。先駆的な試みです。
――JR宇都宮駅西側延伸が本格化します。
◆基軸のインフラができると魅力的なまちづくりへと民間の力が必ず起こってくる。LRT整備は起爆剤となるでしょう。
これまでは新卒者をとったことがありませんでしたが、いよいよその時期がきました。地域の公共交通を支える、誇りとやりがいのある仕事という面ではこたえられると思います。
■人物略歴
高井徹(たかい・とおる)氏
宇都宮市出身。1978年、宇都宮市役所入庁。同市総合政策部長などを経て2012年に副市長(17年3月まで)。15年11月から宇都宮ライトレール株式会社社長に就任。