「プーチン大統領が攻撃をやめないから」ではない…ウクライナ戦争が永遠に終結しない"黒い理由" 戦争が続いてもらわなくては困る人々がいる

ロシアがウクライナに侵攻して3年半が経つ。なぜ、ここまで長期化したのか。ドイツ在住作家の川口マーンさんは「その裏には、戦争が続いてもらわなくては困る人たちの存在がある」という――。

ドイツの軍需・防衛産業の雄であるラインメタル社は、今年の前半期の売り上げが47億ユーロで、記録的な絶好調とのこと。

同社は、戦車、軍用車両、航空システム、弾薬まで、高性能の武器を幅広く生産しているが、この半年の利益は4億7500万ユーロに達している。

写真=iStock.com/Markus Volk

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現在、ノルトライン=ヴェストファーレン州で航空機工場の設立に膨大な投資をしているにもかかわらず、である。

片や同社は自動車関連部品のメーカーでもあるが、周知の通り、ドイツの自動車産業はCO2削減で首を絞められた状態で、青息吐息。その点、戦車なら化石燃料でガンガン走っても誰も文句は言わない。

それどころか、西側の戦車砲はラインメタル社のものに統一されており、独り勝ちの状態だとか。

それもあって現在、世界中から630億ユーロ分の注文が殺到しており、車部門の落ち込みなどすっ飛んでしまったらしい。

しかも9月15日には、同社が北海沿岸の4カ所の造船所を買収し、軍用艦の製造に乗り出すというニュースまで流れた。

CEOのパッペルガー氏曰く、「将来、我々は、陸、水、空、そして宇宙を舞台に活躍する」とのこと。

写真提供=DPA/共同通信イメージズ

独防衛大手・ラインメタル社アルミン・パッペルガーCEO(2020年3月18日、独ノルトライン=ヴェストファーレン州、ラインメタル本社前)

とにかく強気なのだ。

「軍需産業への投資=タブー」から一転…

この軍拡ブームの原因の一つがウクライナ戦争であることは言うまでもないが、しかし、それだけではない。

ドイツの投資企業の組合であるBVI(Bundesverband Investment und Asset Management)の説明によれば、昨年12月より投資の基準が変更され、投資先としての軍需産業の位置付けが変わったことも大きいという。

これまでは、投資ファンドが、売上の10%以上を武器の製造や取引によって得ている産業に投資することはタブーだった。

しかし、「地政学上の条件が変わったので」、昨年の12月以来、その制限が外され、軍需産業は完全なグリーンとまではいかなくても、限りなくグリーンに近いグレーとなった。

欧米人が自分たちの都合でルールを変えるのは毎度のことだ。

いまだに投資がタブーなのは、国際法で禁止された武器の製造メーカーのみ。

つまり、化学兵器、生物兵器、および、とりわけ残酷であったり、民間人に甚大な被害を及ぼすなどといった武器である。

ただ、そういう国際法に反する武器が民間企業によって公然と作られ、投資ファンドが堂々と投資するはずもない。だから、現在は事実上、軍需産業への投資が解禁になったに等しい。


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ピストリウス氏の計画では、国防軍の兵士を、現在の18万人強から26万に増やす。そして、2030年までに5000人の部隊を7つ新設する。

氏によれば、「軍拡は戦争をしないで済むためにするもの」であり、当然、徴兵制の復活も現実味を帯びてきた。普段は何も変わらないドイツの政治だが、なぜか国防に関しては、国民不在のままどんどん話が進んでいく。

ただ、すっかり平和ボケしてしまっている国民の脳みそに、どのようにして士気を芽生えさせるのかは不明。

さらに、ビルト紙によれば、ピストリウス氏は、レオパルド2型の戦車1000台と、GTK ボクサー装甲車2500台を、ラインメタル社とKNDS社に発注する計画だという(発注額は250億ユーロ)。

KNDSというのは2015年にできた独KMWと仏Nexterの合弁会社で、オランダが本社。次世代戦車の共同開発を目指している。

23年には、航空宇宙防衛に特化した伊レオナルド社とも戦略的アライアンスを締結。また、24年10月には、独仏両政府のイニシアティブに基づき、ウクライナに子会社を開設した。

同地で西側が供与した戦車の保全や修理を行えるようにし、交換部品や155ミリ砲弾の現地生産も行う予定だという。

さらに今年の2月には、ドイツ東部のゲルリッツ市にあるフランスの重電大手アルストムの保有する工場も買収。KNDSは現在、ウクライナ軍のもっとも重要なパートナーだという(2024年10月1日付ディ・ツァイト紙)。

つまり、軍拡の波はEU全体に及んでいる。

現在、米国にAI分野で大きく水を開けられているEUだが、そのAIの先端技術を用いて、優れた武器を作れるのはEUであり、これにより将来、劣勢を挽回できるというような希望的観測もある。

ここら辺が、「ドイツを軍事大国にする」などと言っているメルツ首相の自信の元かもしれない。

ただ、国民は果たしてそれを望んでいるのか?

写真=iStock.com/vasile voicu

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政治家も投資家も「和平」を望んでいない

一方、8月18日(月曜日)、ハプニングがあった。

今年の初め以来、150%から200%も上がっていたラインメタル、レンク(戦車の部品などを製造)などといった軍需企業の株価が、一瞬、5%も下がったのだ。

原因は、「ウクライナの一部がロシアの制御下に入るのもやむを得ない」というNATOのルッテ事務総長の発言と、トランプ・プーチン両大統領の米アラスカでの会談だったと言われる。

つまり、和平の可能性がちょっと匂った途端、投資家がブレーキを踏んだらしい。

これを見れば、メルツ首相やマクロン大統領が、口では「殺戮をやめよ」、「1日も早い和平を」と言いつつ、ウクライナへの軍事支援を絶対にやめない理由が呑み込める。

戦争が続いてこそ、軍需産業は儲かる。

つまり、政治家も投資家も和平など望んでいないのだ。

「国際法違反のロシアを勝たせるわけにはいかない」とか、「ウクライナにとって不利な和平交渉は認められない」などという彼らの言葉は実は方便で、訳せば、「戦争は続いてもらわなければ困る」となるのではないか。

しかも、メルツ氏もマクロン氏も、自国内での足元が危うくなるにつれ、さらに熱心に軍拡を煽り始めた。

ちなみに、メルツ氏は首相になる前は、世界最大の資産運用会社ブラックロックのドイツ支社の重職にあった。一方、マクロン大統領はロスチャイルド銀行の投資部門出身。

2人とも、お金の流れについては誰よりも詳しい。


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軍需産業に活気をもたらした要素は他にもある。

中でも大きいのがEUの補助金だ。

ウクライナ戦争で明らかになったのは、「実は、EUには国防能力がない」という事実だった。

弾薬は、ウクライナに供与しようにも、圧倒的に不足していた。

そこでEUは2023年、弾薬の生産を高めることを目的としたASAPという法律を作った。そして、これに基づき24年3月、最初の補助金である5億ユーロ、日本円にして約800億円(1ユーロ=160円で換算、2024年3月当時)が、15の加盟国で31の弾薬製造プロジェクトに注ぎ込まれた。

写真=iStock.com/DmyTo

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これによって軍需産業全体が活気づき、フィナンシャルタイムズによれば、現在、ヨーロッパ全土の700万平米をこえる土地で、防衛関係の工場建設が進んでいるという。

弾薬の生産は今年中にほぼ7倍になるだろうと、EUの防衛委員。

中でも、ラインメタル社の勢いは目覚ましい。

同社は23年の末、ハンガリーの国営軍需企業N7社との間に共同開発の契約を締結し、24年の7月には、すでにハンガリー西部に巨大な弾薬工場を完成させている。27年には年間110万発の155ミリ砲弾を生産する予定だという。また、それとは別に、共同で次世代戦車の開発も目指している。

“ロシアの脅威”が防衛費拡張に使われた

なお、これらの軍需ブームを陰に日向に応援しているのが現在のドイツ政府だ。

冷戦終了後30年余、国防が疎かにされ続けてきたドイツだったが、今年の3月、憲法の改正までして新規借入の制限枠を外し、防衛費の拡張を達成した。そして、この時、政府が大いに利用したのが、“ロシアの脅威”だった。

「ロシア軍の最終目的はヨーロッパの征服」 「このままでは1945年と同じく、ロシアの戦車が一直線にベルリンに雪崩れ込んでくる」

「白旗を掲げたくないなら、当然、軍拡が必要である」

――このような論法が大手を振り、国民の恐怖を煽った。

真面目な顔で、「ロシア軍がブランデンブルク門(ベルリンの中心)に迫ろうとしているのに、借金枠を守って何になる?」と問うた議員までいた。

また、公共テレビも、大病院が前線から送られてくる負傷兵で機能不全になるといった予想を流して、せっせと政府の意向の後押しに励んだ。

その結果、“ロシアの脅威”は急速に定着し、今ではメルツ首相が「ドイツをヨーロッパ一の軍事大国にする」と言っても誰も驚かなくなった(周辺国は眉を顰めているが)。

ピストリウス国防相(社民党)も決然と、「ドイツを戦闘能力のある国にする」と豪語している。


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EUは現在、迫り来る“ロシアの脅威”からヨーロッパを守るため、ASAPに続く新しいプログラムを策定中で、まもなく軍需産業に15億ユーロの補助金が注ぎ込まれるという。

当然、投資家は軍需産業にすでに熱い眼差しを送っている。

現在、ドイツは不況で、フランスは内乱のような騒ぎ。そして、政治家は、国民とはおそらく違う方向を見て、“ロシアの脅威”を振り回しているというのが、私の印象だ。

なお、昨今、ドイツの軍事評論家のあいだでは、「中国による脅威はないのだから、インド太平洋に兵力を割くのはやめて、ヨーロッパの防衛に専念すべき」といった意見も台頭し始めている。

たしかに中国はヨーロッパにとっては遠い国だが、日本にとっては大いなる脅威だ。

遠いウクライナのためにと、膨大なコストを負担している日本。しかし、そんな我が国の防衛については、誰も考えてくれていないことは火を見るよりも明らかだ。

今後、日本が同盟国のアメリカから、型落ちの武器を大金を叩いて買い続けても、それが国防に繋がるとも思えない。それどころか、日本有事となったら、ヨーロッパ勢も援助という名で、日本に最新の武器を売りつけようとするかもしれない。

日本には、国防の在り方について真剣に考えるべき時が迫っていると、ドイツの軍拡ブームを見ながら、今、強く感じる。

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