1日数分これをするだけで誤嚥性肺炎の予防に…高齢者が最も恐れる
10/23 16:15 配信
誤嚥性肺炎による死亡者が年々増加している。どうすれば防げるのか。大阪がん循環器病予防センターの伊藤壽記所長は「飲み込む力が落ちていることを原因と考える人が多いが、実は沢山の要因が絡み合って誤嚥は起きている」という――。(第4回) ※本稿は、伊藤壽記『自然治癒力を引き出す』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。■なぜ高齢者の誤嚥性肺炎が増えているのか 多死社会の今、死因の6位にあるのが「誤嚥性肺炎」です。2016年までは誤嚥性肺炎は肺炎(9.1%)として集計されていました。しかし、2017年からは肺炎と誤嚥性肺炎を分けて集計するようになりました。 ちなみに、2023年の統計では、肺炎は全体の4.8%で第5位、誤嚥性肺炎は3.8%で第6位です。高齢化に伴って、今後は誤嚥性肺炎の増加が見込まれます。 誤嚥性肺炎とは、書いて字のごとく誤った「嚥下」による肺炎のこと。食べ物を飲み下す(=嚥下)時に、食べ物や液体が間違って(食道ではなく)気管や肺に入ってしまうことで呼吸器系に炎症を起こす疾患です。 通常、健康な人は誤って肺に食べ物や液体が入っても、かなり激しい咳やむせによって、肺から出すことができます。これを咳嗽(がいそう)反射と言います。
しかし、高齢者になるとその反射力が低下するために咳が弱かったり、あるいは、咳が出なかったり(咳嗽反射が生じない)します。
■問題は筋力低下だけではない 誤嚥をしても何も起きない(これを「不顕性誤嚥」と言います)こともあります。特に喫煙者ではこうした反射が起きにくいとされています。 不顕性誤嚥は、高齢者だけでなく中年の方にも起こることがあります。睡眠中に口腔内で繁殖した細菌を含んだ唾液が垂れ込んだり、胃食道逆流症で胃内容物が逆流したりすることによって起こります。食道裂孔ヘルニアなどがあれば起こりやすくなります。 加齢、過食や高脂肪食や就寝前の食事や過度のアルコール摂取などの悪い食習慣、肥満による腹圧の上昇、ストレスなどでも起きます。高齢でなくても、誤嚥は生じます。 また、喫煙者は誤嚥した時の咳嗽反射が低下していることが指摘されていますので、禁煙が勧められます。 話を高齢者の誤嚥性肺炎に戻します。 なぜ、高齢者は「誤嚥」するのか、ご存じですか? おそらく「飲み込む力が落ちているからでしょう、喉の筋肉低下が原因でしょう」と考える方が多いと思います。 問題は筋肉だけでしょうか。■高齢者の食事に時間がかかるワケ 実は沢山の要因が絡み合って、「誤嚥」は起きています。 高齢者が食事をする様子を見てみると、時間がかかっていることに気づく方がいらっしゃると思います。咀嚼をして飲み込むまでにとても時間がかかっています。 実は私たちはあまり意識していませんが、水や食べ物を「ゴックン」と飲み込む時、その一瞬に息を止めています。 嚥下時には喉頭(喉ぼとけ)が前上方へ引き上がって、喉頭蓋(こうとうがい)という“フタ”が閉まって、「こちらには行ってはいけませんよ」と、気道が塞(ふさ)がれます。 その瞬間、息を止めているのです。 それと同時に食道入口部が開き、食べ物や液体が、咽頭から食道へ移送されます。これが正しいルートです。 このように意識しないところで、安全機能が働いているのです。 さらに喉頭の入り口にある声帯も閉じて二重の防御機構があります。 誤嚥はこれら二重防備を破って、一瞬のスキを見つけて入り込むようなものです。この「フタ」さえ、機能していれば気道に誤って物が入ることはなくなります。
とはいえ、加齢とともに、筋肉が弱って喉頭が十分に上げられないためフタの役割をする「喉頭蓋」がうまく閉まらず、隙間が生じます。ですから、誤嚥防止に、喉周りの筋肉を鍛えるのが良いとされています。
■3つの筋トレを伝授 とりわけこの「フタ」の動きを支える筋肉の強化が有効です。その筋肉を鍛える方法を紹介しますね。 ①仰向けに寝た状態で頭を持ち上げて、視線を前方のつま先に。この姿勢を数秒間キープしその後ゆっくりと頭を下ろします。この動作を5〜10回繰り返します。 ②「エ」と声を出しながら、喉を意識的に閉じるイメージ。この動作を数回繰り返します。徐々に声の強さや持続時間を増やしていきます。声帯の強化に繋がります。 ③座った状態(あるいは立った状態)で姿勢を正し、意図的に大きな力で飲み込む動作を行います。何も含まなくてOK。大きな力で飲み込むことを意識しましょう。これを5〜10回繰り返します。喉の筋肉が鍛えられます。 息を止めたり吸ったり、噛み砕いたり(咀嚼)、飲み込んだり(嚥下)、食事をするというのは、高齢者にとっては実は大変なエネルギーを使う作業なのです。 ほとんど筋肉でできている舌の動きも弱くなり、口の中に入れたものがなかなか塊にならず、口の中でもごもごとする。舌の筋肉が弱くなり、咽頭の方への送り込みも時間がかかってしまう。飲み込もうとしてもなかなか進まないし、誤ったコース(肺)に入ってしまう。本当にエネルギーを使う大変な作業なのです。■誤嚥と二足歩行の関係 このような口や喉の運動機能の低下を「オーラルフレイル」と言います。 運動機能の問題だけではありません。集中力が低下したり、認知機能が低下すると、摂食嚥下の5段階のうちの「先行期(認知期)」という最初の段階からつまずいてしまいます。 テーブルの上に置かれたご飯やおかずを「食べ物だ」と認識できなかったり、箸やスプーンの使い方がわからなくなったりして、食事ができなくなってしまいます。 普通に食べることができる、というのは実はものすごく素晴らしいことなのです。 最後に「人間の進化」の面からも。誤嚥がなぜ起きるのかについては、ヒトが直立二足歩行したことが原因だとする説があります。 イヌやウシなどの四つ足動物には誤嚥はありません。ハイハイの赤ん坊は母乳を息を止めずに飲み続けることができ、また決して誤嚥することはありません(げっぷを出す時に逆流してきたミルクを吸いこんでむせることはありますが)。 赤ん坊はなぜ誤嚥しないのでしょう? これは類人猿が四つ足で歩いていた古(いにしえ)より、直立二足歩行へと進化してきた過程を再現しているのかもしれません。 赤ん坊が立って歩き出すようになると、重力の影響を受け、咽頭の位置が下がって伸びるとともに横にも広がることによって、気道(呼吸の通り道)と食道(食事の通り道)が立体交差から平面で交差することになります。 これが、誤嚥のリスクに繋がる構造です。進化とともに生じたものだと考えられています。----------伊藤 壽記(いとう・としのり)大阪がん循環器病予防センター所長・理事長大阪大学医学部医学科卒業。大阪大学大学院医学系研究科特任教授、千里金蘭大学看護学部教授を歴任。専門領域は消化器(肝胆膵)外科で、特に膵臓外科、膵臓移植。臓器の移植に関する法律(1997年)施行後、2000年に本邦一例目の膵腎同時移植を大阪大学病院で実施し、これまでに70例の膵臓移植を経験。また、2013年には遺伝性膵炎に対して、慢性膵炎による膵臓摘出術後の残膵から膵島を分離・移植した、同疾患に対する本邦初の自家膵島移植を実施した。2005年から現行医療に補完代替医療の各種手法・手技を併用して、QOL(生活の質)のさらなる向上を目指す統合医療にも臨床試験を通じて取り組んでいる。
----------
プレジデントオンライン
最終更新:10/23(木) 16:15