高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ 党内からも退陣要求...四面楚歌の石破首相、ささやかれる「大連立」の現実味

   参院選(2025年7月20日投開票)で自公が大敗した。一方、野党は大幅に議席を増やし、自公は衆院に続き、参院でも過半数を失った。

   24年10月の衆院選で与党過半数割れ、25年6月都議選で歴史的惨敗、今回参院選も大敗と3連敗だ。普通なら24年10月に退陣するが、普通でない石破茂首相はそう簡単にいかない。今回も首相の座に粘るという人も少なくない。

  • 石破茂首相。改めて続投を表明した(写真:ロイター/アフロ)

財務省にとって与党が弱体化するのは増税の大チャンス

   自公だけでは衆参院で少数与党で、そもそも政権運営は大変なので、野党を巻き込むのは当然ありだ。実はこのように与党が弱体化するのは増税の大チャンスであると財務省は考えている。

   このシナリオに乗るのは、今の石破首相を含め自民党左派・緊縮財政派だ。表向きのシナリオの大義名分は、対米関税交渉だ。基本形は石破首相が粘るが、粘れずポスト石破となって岸田文雄前首相の再登板という二段階構想だ。今「石破首相は粘る」という情報を流しているのは、このシナリオに載っている人たちだ。

   実は、民主党政権の野田佳彦政権で、大増税の方針が出た。財務省から見れば、野田政権は増税の大恩人である。今回、その大恩人である野田氏が立憲民主党代表であるので、財務省は再び政権トップに就かせたいと思うだろう。それは自公と立憲の増税大連立か、閣外協力関係だ。

   しかし、このシナリオでは自民党内の保守派・積極財政派は黙っていない。ポスト石破の政局になり、そこで高市早苗氏が首相に担がれるだろう。そうなれば、年内解散で衆院での少数与党の打破に動くだろう。一方、自民党外からは8月1日召集の臨時国会で内閣不信任が立憲から出されるかどうかも注目だ。

   こういうシナリオを考えていたら、参院選投開票日から3日後の23日朝、トランプ関税について、「15%で急転直下、日米の交渉が成立した」というニュースが入ってきた。これで事実上、石破政権の継続理由がなくなったので、15%関税を花道として石破首相の勇退が誰もが望む道だ。

   日経平均株価も一時1500円以上値上がりしたが、これは石破首相退陣の道筋ができたからだろう。関税による日本経済への打撃は0.5%程度の成長率ダウンに押さえられる。

   たしかに、自動車関税15%は朗報だ。しかし、農産物の市場開放には不透明な部分もある。80兆円の対米投資のうち90%がアメリカの取り分は酷い。70兆円くらいが贈与になってしまい、日米の貿易不均衡10兆円だからこれ不味い。いずれにせよ、時期は遅すぎたが、一応評価したい。

   ただし、首相の座に固執する石破首相は一筋縄ではいかない。マスコミ各紙は、石破首相退陣へという号外を出したが、石破首相は、自民党・麻生太郎最高顧問、菅義偉副総裁、岸田文雄前首相の3人の首相経験者と会談した午後になると、「私の出処進退につき一部に報道がございますが、私はそのような発言をした事は一度もございません」と言い出した。

   どうも石破首相には、これまでの常識が通じないらしい。

++ 高橋洋一プロフィール 高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣官房参与、元内閣参事官、現「政策工房」会長 1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。20年から内閣官房参与(経済・財政政策担当)。21年に辞職。著書に「さらば財務省!」(講談社)、「国民はこうして騙される」(徳間書店)、「マスコミと官僚の『無知』と『悪意』」(産経新聞出版)など。

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