東急不動産ホールディングス【3289】株価好調、累進配当も 実は再エネで国内有数、さらなる成長目指す新計画のカギGXの見通しは

東急不動産ホールディングスの株価は最高値圏にあります。2024年3月に日本銀行がマイナス金利や長短金利の調整、ETF買い入れといった金融緩和策の廃止を決定したものの、当面は緩和的な政策を継続する方針が示されました。市場には安心感が広がり、不動産株には買いが集まります。東急不動産ホールディングスも同月に1266.5円まで買われ、設立の13年10月につけた高値1081円を約12年ぶりに更新しました。

その後は調整局面となっていました。24年8月には日本株式市場の急落で一時822.9円まで下落し、以降はおおむね1000円前後の取引が続きました。 しかし、株価は25年7月に再び強く上昇します。同月初に公表された路線価で地価の上昇が確認されたことや、サッポロホールディングスが売却を検討中の不動産事業に東急不動産ホールディングスが応札を準備しているとの報道があり、期待感から買いが向かったと考えられます。9月には上場来高値となる1277円まで買われました。 東急不動産ホールディングスは25年5月に新しい中期経営計画を発表し、株主還元の強化を決定しました。従来は配当性向で30%以上としていましたが、28年3月期までは同35%以上へと引き上げます。さらに、累進配当を実践するとも明記しました。今期(26年3月期)の1株あたり配当金は前期比5.5円増配となる42円、予想配当利回りは3.41%です。 【東急不動産ホールディングスの予想配当利回り(26年3月期)】 ・予想配当金:42円 ・予想配当利回り:3.41% 出所:東急不動産ホールディングス 決算短信 東急不動産ホールディングスは構造改革を進め、足元で利益が大きく改善しています。そして、先述の中期経営計画ではさらなる利益成長を目指す姿勢が示されました。同社の成長戦略に迫りましょう。

まずは前回の中期経営計画を振り返ります。 東急不動産ホールディングスは長期の経営方針「グループビジョン2030」を21年5月に公表しました。その実現に向け、事業の再構築フェーズとして策定したものが前中期経営計画です。 期間中は、東急ハンズをホームセンター運営のカインズへ22年3月に譲渡したほか、フィットネスクラブの東急スポーツオアシスも24年3月に手放しました。保有資産の見直しも進め、東急プラザ銀座やゴルフ場およびスキー施設といった収益性の低い物件を相次いで整理します。 この効果もあり、利益率は大幅に改善しました。営業利益率は25年3月期に12.24%に達し、21年3月期(同6.22%)から約2倍に向上します。そのほか、ROE(自己資本利益率)やROA(総資産利益率)といった財務目標のすべてを達成し、計画を上回る好調な着地となりました。


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そして25年5月、東急不動産ホールディングスは新しい中期経営計画を公表します。グループビジョン2030の最終段階の位置付けで、さらに利益を成長させる内容です。 新中期経営計画では3つの重点領域を設定しました。うち中核となるのが「広域渋谷圏戦略の推進」です。「渋谷サクラステージ」や東急プラザ原宿「ハラカド」など、新たに開発した物件を中核に、ホームタウンの渋谷エリアでさらなる成長を目指します。 新規の投資も積み増します。31年3月期までの5年間で3000億円を投じ、広域渋谷圏利益(※)で300億円を稼ぎ出す計画です(25年3月期:同190億円)。 ※広域渋谷圏利益…広域渋谷圏に関連するグループ全体の収入から、原価およびエリア固有の経費を差し引いた数値(マンション分譲益および投資家向け売却益等を除く)

広域渋谷圏戦略と並ぶ重点領域が「GXビジネスモデルの確立」です。GXとは「グリーントランスフォーメーション」の略で、脱炭素社会を目指す取り組みを指します。東急不動産ホールディングスは、再生可能エネルギー事業の拡大を目指しています。新中期経営計画の5年間ではグロスで3兆8000億円を投じる方針ですが、うち再生可能エネルギー事業には5300億円を振り向けます。 実は、東急不動産ホールディングスは再生可能エネルギーの発電量で国内有数です。18年に本格進出し、一定の条件下で取り出せる定格容量は24年3月末で1342メガワット(持分換算前、以下同)に達していました。 さらに、東急不動産ホールディングスは25年1月、再生可能エネルギー大手のリニューアブル・ジャパンを子会社化します。これにより、グループの再生可能エネルギーの発電規模は25年3月末で1955メガワットに拡大しました。今後も開発を進め、31年3月期に4000メガワットまで拡張する計画です。

再生可能エネルギー事業は、固定買取のFIT(フィード・イン・タリフ)事業と、より高い価格での販売が見込める非FIT事業の双方に取り組み、収益力を高める計画です。また、開発から売電までの上流だけでなく、設備の管理や運用といった下流の領域も強化します。 これらの施策を通じ、再生可能エネルギー事業は31年3月期に営業利益300億円(26年3月期予想:50億円)まで拡大させます。営業利益300億円は、東急不動産ホールディングスの事業では比較的大きな数字です。現在は不動産関連が主な収益源ですが、今後は再生可能エネルギーも利益の柱になりそうです。


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最後に業績の見通しを確認しましょう。 今期(26年3月期)は増収増益を計画します。主力の渋谷エリアはオフィスの需要が強く、また商業施設もインバウンド需要からテナント売り上げが伸長する想定です。また、投資家向けの不動産売却も引き続き好調を見込んでおり、利益の押し上げを予想します。計画どおりなら、利益は前期に引き続き過去最高を更新します。 【東急不動産ホールディングスの業績予想(26年3月期)】 ・売上高:1兆2700億円(+10.4%) ・営業利益:1530億円(+8.7%) ・純利益:850億円(+9.6%) ※()は前期比 ※同第1四半期時点における同社の予想 出所:東急不動産ホールディングス 決算短信 第1四半期は順調な滑り出しとなりました。売上高は前年同期比で7.8%増、営業利益は同30.3%増です。不動産市場が堅調で、物件の仲介事業や投資家向け売却が好調でした。通期予想に対する進捗率は売上高が22.7%、営業利益が26.9%と、消化も比較的順調です。 決算の内容から、今期の見通しはおおむね明るいようです。6月末でオフィスおよび商業施設の空室率は0.3%と極めて低く、投資家向け売却も計画の5割が契約済みです。また、戦略投資セグメントの海外事業は、米国を中心に赤字が縮小しました。 まだ第1四半期を終えたところですが、今期も順調な成長が期待できそうです。中間決算は11月中旬に公表される予定です。

若山 卓也(金融ライター)

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