F1分析|6位入賞角田裕毅に課された大事なお仕事……マクラーレンからポイントを奪え! ピットストップのタイミングもこの視点で決められた?

 F1アゼルバイジャンGPの決勝レースで、角田裕毅(レッドブル)は6位入賞。レッドブル昇格後、最高順位でのフィニッシュを達成した。

 今回のレースの角田のペースを分析してみると、本来ならば4位も狙うことができるだけのパフォーマンスを持っていたように思う。しかしある1台のマシンの動きにより、それは叶わなかった。それを分析してみよう。

 角田は決勝レースを6番グリッドからスタート。そして決勝結果も6位。しかも後方にマクラーレンのランド・ノリスや、フェラーリのシャルル・ルクレールらを押さえ込んでの6位というのは、賞賛に値すると言えよう。

 今回のレースで角田は、ハードタイヤを履いてのスタート。チームメイトのマックス・フェルスタッペンとは同じ戦略だったが、グリッド上の大半のマシンはミディアムタイヤを履いており、それとは異なる戦略を採った格好だ。

 フェルスタッペン曰くこの”ハードタイヤを履く”という戦略は、レース中にセーフティカーが出た時に対処するためのものだったという。もしセーフティカーが入ることがあれば、そのタイミングにタイヤ交換を行なってしまえばいいからだ。なかなかセーフティカーが出なくても、ハードタイヤならそれまで走り続けることもできる。

 ハードタイヤを履いてスタートした角田は、メルセデスのジョージ・ラッセルとのバトルには敗れたものの、6番手を安定して走っていた。そんな中、ミディアムタイヤを履いてスタートしたマシンが、20周目前後にピットストップを済ませた。

 通常ならば先にタイヤ交換を済ませたマシンは、新しいタイヤのパフォーマンスを活かして、後にピットストップするマシンよりも速く走ってポジションを奪う、もしくは差を広げることになる……というのが常だ。いわゆる”アンダーカット”である。今回も角田の前後を走っていたアンドレア・キミ・アントネッリ(メルセデス)、リアム・ローソン(レーシングブルズ)、ルクレールらがこの20周目付近にピットストップしたため、角田はこれらのマシンに大きく先行されると思われた。

 しかしそうはならなかった。

F1アゼルバイジャンGPレースペース推移分析

 このグラフは、決勝レース中の上位8台のレースペース推移をグラフ化したものである。一見すると、誰がどこでピットインしたのか分からないくらい、各車のペースはいずれも同じように、周回を重ねるごとに速くなっていった。

 ここで言えることはふたつだ。

 ひとつは、ミディアムタイヤもハードタイヤも、性能劣化(デグラデーション)がほぼゼロであったということ。前述の通り通常ならば、走れば走るほどタイヤの性能が劣化するわけだが今回はそれがなく、燃料を消費することによってどんどんペースが上がっていったのだった。つまり性能劣化がほとんどなかったため、新しいタイヤに履き替えたことによるペース面での恩恵がほとんどなかった。

 グラフ上の赤丸で囲んだ部分をご覧いただけるとわかりやすいと思うが、タイヤを換えていない角田(紺色の点線)とタイヤを交換したローソン(水色の実線)のペースは、ほぼ同じだったのだ。

 そのため、ふたりの間隔は広がることも、縮まることもなかった。

 ただアントネッリ(緑色の点線)に関しては、タイヤを交換したことにより、若干ペースを上げることに成功したわけだが……。

F1アゼルバイジャンGPレースギャップ推移分析

 一方でこちらのグラフは、4位を争ったドライバーたちのポジション/差の推移をグラフ化したものである。このグラフを見ると、角田とローソンの位置関係がよく分かる。

 20周目から38周目まで、ここに示した5台の中で先頭を走っていたのが角田である。そのすぐ後ろのノリスは、近づく瞬間もあるが決定的ではない。一方で先にタイヤを換えたアントネッリが、角田との差を詰めつつあるのが分かる(グラフ赤丸の部分)。

 一方で水色実線のローソンは、より新しいタイヤを履いているのに、角田との差を縮められないばかりか、徐々に遅れていっている。当初19秒ほどだったふたりの差は、34周目には20秒以上に広がり、さらに広がっていくような傾向にあった(グラフ緑丸の部分)。

 これは角田にとって大きなチャンスであった。今回のアゼルバイジャンGPで、ピットストップを行なうことで失うタイムは、20秒前後と見積もられていた。つまり角田としては、あと数周も走れば、余裕を持ってローソンの前でコースに復帰できる、それだけの差を広げることができそうな状況だったのだ。

 しかしまさにそんなタイミングで、ひとりの男が動いた。それがノリスだった。

 ノリスは37周目にピットイン(グラフ青丸の部分)し、タイヤを交換。この交換作業に手間取り、ルクレールの後ろまでポジションを落とした。この結果角田は、自身もすぐピットに飛び込まねばならないという危機的状況に陥ることは避けられたが、それでもノリスのコース復帰後のペースを見ればアンダーカットされてしまいかねない……そんな状況であった。

 そのため角田は、39周を走り切ったところでピットイン。タイヤを交換した。コースに復帰した時にはローソンとノリスの前にいたが、まだ角田のタイヤが完全には温まり切ってはおらず、すぐローソンにオーバーテイクされてしまった。

 もし角田があと1周でも2周でもピットストップのタイミングを遅らせることができていたら、それまでのペースの差を考えれば、より確実にローソンの前でコースに復帰し、もしかしたらその前を行くアントネッリと4番手を争う……そんなレース終盤になったかもしれない。しかしノリスが37周目に動いた(ピットストップをした)ことでその可能性は潰され、ローソンの前に立つことができなかった。逆を言えば、ローソンを攻略することよりも、ノリスを抑えることを重視したようにも見える。

 そしてチェッカーまでローソンを攻略できず、さらには後続のノリスを抑え切ることに終始し、6位フィニッシュとなった。

 レース後に角田は、「レッドブルファミリーにとって最も重要だったのはマクラーレンの前に2台でいることです」と語った。レース終盤、無理にローソンを抜きに行き、その隙を突かれることでノリスに先行されることを懸念していたということだ。

 ただ本稿で分析したピットストップのタイミングも、ノリスをカバーしに行ったということの現れであろう。もちろん、本当ならばローソンの前に出たかった。陣営からも、それを狙っていたとの発言がある。しかしそれを逃したとしても、確実にノリスは抑えておかなければならなかったのだ。

 一方でマクラーレン側を見れば、ノリスのピットストップのタイミングは、レッドブル陣営に対して「君たちはローソンと我々のどちらをカバーするんだい?」という問いを投げかけたようにも見える。

 しかしノリス、そしてそのチームメイトであるオスカー・ピアストリを抑え込むことの重要性は、今後ますます大きくなっていくことだろう。現在フェルスタッペンは、ランキング首位のピアストリから69ポイントの遅れをとっている。今季残りは7戦と3回のスプリント。フェルスタッペンが自力で削ることのできるポイント数は最大で52ポイントであるため、現時点では自力チャンピオンの可能性は既に消滅している状況だ。しかしもしフェルスタッペンが優勝を続け、角田がたとえば2位に入り続けることができれば、76ポイント縮めることができる計算となる。つまり、フェルスタッペンが逆転でチャンピオンに輝くことができるということだ。

 今の角田に求められている仕事は、フェルスタッペンがチャンピオンを取るため、そしてチームがコンストラクターズランキング2位を取るために、ライバル勢を抑えること……特に重要なのは、フェルスタッペンとマクラーレン勢の間でフィニッシュし、マクラーレンからポイントを奪うことだ。

 そういう意味で今回の角田は、自分に課された仕事を十分に、そして冷静にこなした。しかしこれが、角田がしなければいけない最低限の仕事だということになろう。

 レッドブルをはじめとしたトップチームのドライバーを務めるというのは、それだけ重大な仕事を毎戦確実にこなさねばならないということ。自分がポイントを獲得することだけに集中するだけでは、合格点は与えられない。かえすがえすも厳しい仕事だと、改めて思い知らされた1戦だったと言える。

 しかしF1にデビューしたとしても、そういう立場に立てるドライバーは限られている。今後はその役目をしっかりと安定して果たし、そしていつかはフェルスタッペンを凌駕する……そんな未来を期待したい。

 
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