大富豪に学ぶ、36ヵ月後の生存戦略|なぜ、AIが進化するほど「直接会うこと」が最強の武器になるのか?

マーク・キューバン氏は、有名起業家として知られる大富豪です。

NBAチームのオーナー、オンライン薬局で医薬品業界に風穴を開けた革命児、そして人気投資リアリティ番組『シャークタンク』の元出演者でもある彼は、イノベーションを語るにふさわしい人物です。

そのキューバン氏が2025年6月6日SNS「Bluesky(ブルースカイ)」にて、AIについてこんな大胆な予測をしました。

今から3年以内に、AIは世の中にあふれるようになるだろう。

特にAIが生成する動画では、見えるもの、聞こえるものが本物なのかどうか、区別がつかなくなる。

だから、イベントにしても仕事にしても、実際に会う対面式が爆発的に増えるはずだ。

オフィスで行われていたことは、オフィスの外で行われるようになるだろう。

これを「ミリ・ヴァニリ効果」と呼ぼう(訳注:ミリ・ヴァニリは2人組ダンス・ユニット。デビューから4曲の大ヒットを放ち1990年にグラミー賞を受賞したが、後に別人が歌っていたことが発覚し賞を剥奪された)。

AIがもたらす「ミリ・ヴァニリ効果」とは

これは注目すべき意見です。

キューバン氏は事実上「AIは人間の仕事を奪うのかという複雑な論争は終わりを迎えた」と述べています。

その論争の答えは、おおむね「イエス」です。

少なくともキューバン氏は、今後36カ月の間にAIが社会をどう変えていくかについて、大胆なイメージを描きました。

そこでは、新しい仕事が創出される場所が大きく変わることも示唆されています。

キューバン氏の主張はシンプル。

「今後はAIが世間にあふれてAIの技術も格段に進歩し続けるため、抗うことはできないだろう」というものです。

AIシステムがつくり出すコンテンツも、非常に説得力があり、役に立つため、本物かそうでないかを見極めようとすることを、私たちは事実上「諦めてしまう」かもしれません。

そのため、私たちの社会は一歩後退し、娯楽でも仕事でも、実際に相手に会って(face-to-face)人間同士がつながること、つまり「AIに置き換えられないこと」を頼りにするだろうというのです。

「ミリ・ヴァニリ」とは、1980年代から1990年代にかけて一世を風靡したファブ・モーヴァンとロブ・ピラトゥスのR&Bデュオです。シングルは世界で3000万枚を売り上げました。

ところが、その後2人のマネージャーが「2人の歌は実は口パクで、どれもまともに歌っていなかった」という事実を暴露。これによって、ファンたちは大きなショックを受け、1990年に受賞したグラミー賞最優秀新人賞が取り消しとなりました。

キューバン氏は、この音楽界のスキャンダルを引き合いに出しながら「AIが同じようなことになる」と示唆しました。

本当は人工的なAIでありながら、まるで実在しているかのように振る舞うだろう」というのです。しかも、ほぼすべての分野で。

「オフィスでの仕事」がなくなる未来

これによって、働き方を含めた私たちの生活の従来型モデルは、多くが覆されることになるでしょう。

「オフィスで行われていたことは、オフィスの外で行われるようになるだろう」という部分には、特にハッとさせられます。

これは「オフィスで行う従来の仕事がほぼなくなるだろう」と予言しているように思えます。

現在、企業のリーダーたちが「オフィス復帰」を厳しくルール化していますが、そうしたあらゆるマイクロマネジメントにとって、これは痛烈な一撃ですね。

キューバン氏の考えでは「AIは本物と見分けがつかなくなるほど向上し、私たちは電話やテキストメッセージ、メールやビデオ通話に頼らずに仕事するようになるだろう」というのです。

そして、外に出ていろいろな場所に赴き、実際にクライアントや顧客、契約相手、同僚と直接会わなければならなくなるだろうというわけです。

新たな仕事が生まれる?

キューバン氏は、こうした変容がたくさんの新しい仕事を生むと考えています。

職場にデスクトップPCが登場したときと同じような変革が、21世紀の今、起こると考えてください。

デスクトップPCは、旧式のタイピング部門を廃止に追いやり、多くの秘書の職などを奪った革命的な機械です。

その一方で、プログラマーやExcelエキスパート、エンジニアなど、企業のIT部門に数多くの職も創出しました。

キューバン氏の投稿に対して「まったくその通り。デジタルは信用できなくなる。私たちはみな、直接会う対面式に戻らなければならないだろう」「前途有望なミュージシャンやパフォーマーや役者には、いつも『唯一無二の存在になれ』と伝えている。なぜなら、唯一無二で本物の経験やつながりは、かつてないほど貴重なものになるだろうから」など、キューバン氏の意見に納得するコメントが寄せられていました。

一方で、「AIは怖いけれど、会社が人間をAIに置き換え始めたら暴動になるだろうから、それは起きないだろう」「人間のふりをするあらゆるAIアカウント(ボット)を違法とする法案がぜひとも必要。すぐにでもだ」と言った懐疑的な意見も。

AI革命にどう備えるべきか?

こうした問題に、なぜ留意すべきなのでしょうか。

理由の1つは、AIが世の中に及ぼす影響に関する数々の厳しい予測のなかで、キューバン氏の楽観主義は突出しているからです。

たとえば、マサチューセッツ工科大学のある教授は先日、このような厳しい警告を発しました。

AIが人間の仕事を奪うのを止めることはできる。ただしそれは、AIがすべてを押しつぶすのを防ぐために、私たちが迅速に行動した場合に限られる

キューバン氏の楽観論の一部を職場に取り入れることができれば、社員がAIに関して抱く懸念は軽減されるかもしれません。

一方で、キューバン氏の警告を心に留め、彼が予測する「対面の未来」に備えるため、職場のリスキリングやアップスキリングを真剣に計画すべきです。

そうすれば、AI革命から恩恵を受けやすくなるかもしれません。

Source: ALL Music, Blue Sky(1, 2, 3

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