黒字化の裏にある「万博倒産」の悲劇、未払いで業者も憤怒「責任は万博協会や行政にも」 無策の果て-万博未払い問題㊦

200人以上の支援者らが集まった万博工事未払い追及全国集会=8月23日、大阪市浪速区

今年4月に開幕した2025年大阪・関西万博の会期は、残り約1カ月となった。華やかさの裏で運営に大きな影を落とす形となった海外パビリオンの建設費未払い問題。産経新聞は、未払い問題が起きた経緯やそれぞれの事情を多角的に取材しており、3回連載で検証する。1回目の㊤では、万博協会の運営から広告国内トップの電通が手を引いたことによる問題に切り込んだ。2回目の㊥では、新型コロナウイルス禍やウクライナ戦争などが現場に及ぼした影響に迫った。3回目の㊦では、万博にかかわったがために会社を閉じざるを得なくなった業者の無念さや、コンプライアンス意識が崩壊していた工事現場の実情を描く。

㊤ 万博協会、無策の果ての海外パビリオン未払い それはガリバー「電通」の撤退から始まった

㊥ 未払い背景にコロナ禍、ウクライナ戦争…誤算続きの万博運営「甘さのツケを末端が払う」

大阪・関西万博閉幕まで、残すところ50日余りとなった8月23日の「万博工事未払い追及全国集会」。日本国際博覧会協会(万博協会)が収支の黒字化ラインとするチケット販売枚数が1800万枚を超える中、大阪市の浪速区民センター内には、建設費の未払い被害を主張する関西の建設業者の男性社長の悲痛な叫びがこだました。

「いつ会社が倒産するかわからない。すでに車も売却しており残るのは命しかない」

この業者は、地中海に浮かぶ島国、マルタのパビリオン建設工事を、元請けの外資系イベント会社「GLイベンツ」の日本法人から受注。4月13日の開幕直前に完成させたのに、計約1億2千万円の建設費がいまだ支払われていないと訴える。

海外館の建設費の未払い問題は、5月中旬の産経新聞報道を機に広く知られるようになり、複数のパビリオンで明らかとなった。経営体力が限界を迎え、〝万博倒産〟に追い込まれる会社も出始めた。

「大変遺憾だ」では済まぬ

万博協会の発表によると、9月1日までに、アンゴラ▽インド▽ウズベキスタン▽セルビア▽タイ▽中国▽ドイツ▽米国▽ポーランド▽マルタ▽ルーマニア-の11カ国の海外館で、下請け業者などから未払いの相談が寄せられている。

こうした事態に万博協会幹部は「法令順守を訴えてきた中、問題が大きくなり大変遺憾だ」と言及。大阪府は、建設業の許可がないのにアンゴラ館の内装工事などを請け負ったとして、下請けへの未払いを起こした業者に行政処分を科すなどの対応をしたが、税金での立て替えといった直接的な救済は難しいとの立場を崩さない。

万博工事に携わる業者や職人らに工具や建設資材を販売したが、未払い問題の余波で数百万円の債権を回収できず、8月末で事実上倒産した資材会社の元役員は「責任は行政や万博協会側にもある。『遺憾』などという言葉では済まされない」と語気を強める。

有効な手打てず

そもそも海外館の建設は、前回ドバイ万博の延期や資材価格の高騰などが影響し大幅に遅れた。

大手、中堅が参入を渋ったために元請けの選定も進まず、万博協会は2023(令和5)年9月下旬、「海外パビリオン建設にかかるご協力のお願い」と題する文書を建設業界向けに発出。こうした要請に「国家プロジェクトのため」という思いで多くの関西の中小業者が応じたが、過重な負担を強いられた現場では、違法性が疑われる事態も起きていた。

ある海外館建設に下請けとして参入し、未払いトラブルを抱える業者の男性は「開幕が近づくにつれて工事を急ぐようにとの圧力が強まり、海外館の建設現場では違法な長時間労働が珍しくなかった」と証言する。

24年4月に時間外労働の規制が厳格化されるのを控え、万博協会側は関連工事を規制対象から外すよう打診したが、国側は認めなかった。

この下請け業者は「疲労困憊(こんぱい)の現場監督が意識もうろうの状態で仕事を続けたり、外国人の労働者が息抜きで酒盛りをしたりしたこともあった。法令順守の意識やコンプライアンスが崩壊するというめちゃくちゃな現場で頑張ったのに、お金をもらうことができない。あまりにも理不尽だ」と憤りつつ、こう述べる。

「本当は家族と一緒に万博会場を訪れ、完成したパビリオンを自慢したかった。そんな気持ちになれないのが悔しい」(岡嶋大城、黒川信雄)

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