「ウクライナは本来の国土の姿を取り戻せる」…急転換したトランプ発言の虚と実(ニューズウィーク日本版)

[ロンドン発]ドナルド・トランプ米大統領が9月23日、国連総会に合わせてウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談、ウクライナ戦争と和平交渉を巡る立場を急転換した。会談直後、自身が創設したSNS「トゥルース・ソーシャル」にこう投稿した。 【動画】プーチン映像に突っ込み殺到 「機械の使い方が間違ってると誰も言えない?」「こんな付け方は初めて見た」 「欧州連合(EU)の支援を受けたウクライナは本来の国土の姿を取り戻し、勝利を収める立場にある。時間と忍耐、欧州、特に北大西洋条約機構(NATO)からの資金的支援があれば、この戦争が始まった時点の国境を回復することは十分に可能だ」 交渉に応じるふりをしながらウクライナ市民への無差別攻撃を続けるウラジーミル・プーチン露大統領について「ロシアは3年半もの間、無意味に戦争を続けている。本物の軍事大国であれば1週間もかからなかったはずだ。ロシアは『張り子の虎』のように見える」となじった。 ■4月以降、米国政府のウクライナ支援はゼロ トランプ氏は「ガソリンを入れるのに長い行列ができ、手に入れるのはほとんど不可能だ。戦争経済の下で国の資金の大部分がウクライナとの戦争に費やされている。プーチンとロシアは深刻な経済危機に直面しており、今こそウクライナが行動を起こすべき時だ」と書き込んだ。 独キール世界経済研究所は「米国ではなく欧州がウクライナへの武器生産支援で主要国になった」と報告している。欧州から提供される武器の大半は既存の備蓄からではなく、防衛産業との直接契約による調達に切り替わった。今年4月以降、米国政府の支援はゼロだ。 5月、第2次トランプ政権発足以来初めて米国はウクライナへの主要な武器輸出を承認したが、キーウが自費で調達する枠組み。ドイツは50億ユーロの軍事支援を決定、ノルウェー15億ユーロ、ベルギー12億ユーロ、オランダ、英国、デンマークは各5億~6億ユーロを拠出した。 ■「平和プロセスへの参加を完全に放棄した宣言」 英誌スペクテイターのオーウェン・マシューズ氏は9月24日付コラムで「トランプ発言はキーウとウクライナの戦況にとって大変な悪材料。これはウクライナへの支援宣言ではなく、平和プロセスへの参加を完全に放棄した宣言だ」と解説する。 「最も注目すべきなのは、ウクライナ戦争はもはや欧州の責任で、NATOを米国とは別個の存在として明確に位置づけた点だ。トランプ氏は占領地維持を容認する停戦提案など大幅な譲歩を示したが、プーチンはNATO領空侵犯まで行った。トランプ氏は交渉に見切りをつけた」 戦争研究の第一人者、英キングス・カレッジ・ロンドンのローレンス・フリードマン名誉教授は自らの有料ブログ(9月23日付)で「戦争終結の見通しは立たない。双方とも消耗しつつ見込みのない勝利への投資の深みにはまり、決定的な勝ち筋は見えていない」と指摘する。 ■プーチン「ウクライナ東部ドンバスを2〜4カ月で取る」 プーチンは米国側に「ウクライナ東部ドンバスを2〜4カ月で取る」と豪語したと言われる。現在の激戦地は東部ドネツク州にある道路と鉄道の要衝ポクロフスク。ロシア軍はここを落とせば同州の要塞都市リマン、クラマトルスク、スラビャンスクへの道が開ける。 昨年冬以降、ロシア軍の損害は甚大で、得られた領土は小さい。しかし損耗が大きくても低所得地域への高額報酬で兵員を補充できる。前線の地形は遮蔽物が少なく、ロシア軍のドローン(無人航空機)部隊はウクライナ軍の補給ルートを攻撃し、「兵站潰し」を徹底する。 ロシア軍がポクロフスクを落とすことができればプーチンは年内方針の成果を強調でき、交渉に応じる可能性は低下する。逆に停滞または破綻すればクレムリンが作戦を再評価する可能性が出てくるものの、すぐに停戦に応じるとは限らないとフリードマン名誉教授は分析する。 戦争は言葉だけでは動かない。

ニューズウィーク日本版
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