意思決定時の「脳全体」の活動示す脳地図の作成に初めて成功 新研究

色付きの点は意志決定プロセスにおいて発火したニューロンを示している/Daniel Birman/International Brain Laboratory

(CNN) 22の研究室に所属する神経科学者らが国際的に連携し、意思決定中の脳全体の活動を示す神経地図を作成することに成功した。

139匹のマウスから収集されたデータは、脳の279領域、つまりマウスの脳の約95%に及ぶ60万個以上のニューロンの活動を網羅している。今回作成された地図は、意思決定時に脳全体で起きていることの全体像を初めて示すものだ。

ニューヨーク大学グロスマン医学部神経科学・生理学部長のポール・W・グリムシャー氏は、「彼らは、誰も想像できなかったほど大規模なデータセットを作成した」と語り、神経科学分野において「これは重要な出来事として歴史に残るだろう」とたたえた。同氏はこの研究に関与していない。

地図の作成にあたり、研究者らは研究室間で共有できる標準化した手順を作成。マウスが視覚的な刺激に反応する際の神経活動を追跡し、各研究室で収集されたすべてのデータを統合した。7年の歳月を要した研究は2本の論文にまとめられ、3日にネイチャー誌に掲載された。

一つ目の研究では、意思決定に関連する電気活動の広範な分布を概説し、もう一つの研究では、そのデータを用いて、期待が選択をどのように形成するかを評価した。

これまでの研究では、意思決定中には主に感覚入力と認知に関連する脳の一部の領域でニューロンの小さなクラスターが発火することが示唆されていたが、今回の地図は、神経活動がはるかに広範囲に及んでいることを明らかにした。意思決定のさまざまな段階で、マウスの脳のほぼ全体に電気信号が伝わっているのだ。

単一のニューロンから数千のニューロンまで一度に

数十年にわたり、科学者らは単一のニューロンからの電気パルスを記録する電極を用いて、特定のタスクを処理する脳の活動を研究してきた。しかし、一度に一つのニューロンを記録する作業は困難で時間がかかり、100個ほどのニューロンから結果を得るには数カ月に及ぶ作業が必要だった。

過去10年で神経科学は「ニューロピクセルズ」と呼ばれるデジタル神経プローブの開発によって飛躍的な進歩を遂げた。ニューロピクセルズを使えば、一度に数千個のニューロンを監視できる。今回の地図を作成するには不可欠なツールだった。

実験では、マウスに電極ヘルメットを装着し、小さなハンドルを回して画面上の白黒のしま模様の円の動きを制御させた。画面の左側または右側に一瞬現れる円を中央にうまく誘導できたマウスには砂糖水が報酬として与えられる。マウスが見たものに反応すると、ニューロピクセルズによって脳内の電気信号が記録された。

地図によると、活動はまず脳の後部、視覚入力を処理する領域で急増した。その後、活動は脳全体に広がり、マウスの意思決定が動きにつながると、運動制御領域が活性化。マウスが報酬の砂糖を得ると、脳の活動が広範囲に及んだ。

Daniel Birman/International Brain Laboratory

「これに関与しているのはわずかな領域ではなく、非常に大規模な領域のネットワークが連携している」とアレクサンドル・プージェ氏は語る。プージェ氏はジュネーブ大学基礎神経科学の正教授で、一つ目の研究の共著者と二つ目の研究の上席著者を務める。

研究著者らは、脳の領域のどの程度が意思決定に関与しているかを把握することで、より複雑な行動を対象とした研究が可能になると報告している。

マウスには追加の課題も設定された。画面上の円を時折薄く、ほとんど見えない状態にしたのだ。報酬を得るためにホイールをどちらに回すかを決めるには、マウスは以前に見たものを思い出す必要があった。

プージェ氏によると、これは事前知識と呼ばれるもので、すべての決定はこうした形で行われるという。

神経科学者らは、脳が意思決定の早い段階で事前知識にアクセスするという仮説を立てており、プージェ氏は、脳地図はこの予測が正しいことを証明したと指摘した。

関連記事: