あなたのiPhoneから消える5つの機能。40年の信頼が生んだAppleの切実な警告(g.O.R.i)

40年以上にわたって日本で事業を展開し、現在100万以上の雇用を支援しているApple。同社が日本のスマートフォン新法に対して抱く思いは、一言で表現するなら「欧州の失敗を日本で繰り返さないでほしい」ということに尽きます。

なぜなら、この法律によってあなたのiPhoneから以下の5つが失われる可能性があるからです。

【1】便利なデバイス連携機能【2】画面共有・ミラーリング機能【3】安全なアプリ環境【4】新機能の迅速な提供【5】使いやすさの統一感

5月の原案発表からガイドライン策定まで、Appleは一貫してユーザーの安全と技術革新を守ることの重要性を訴え続けてきました。しかし果たして、その声は十分に届いたのでしょうか。

Appleが支える日本の開発者エコシステム

まず理解しておくべきは、Appleが日本に対して行っている貢献の規模です。同社によると、App Storeのエコシステムが2024年に日本国内だけで467億ドル(約7兆円)の開発者売上と商取引を促進したことが最新の調査で明らかになっています。

現在App Storeは195を超える国内の決済手段と44の通貨に対応しており、開発者には200種類以上のフレームワーク、25万点以上のソフトウェア構成要素という幅広いツールや技術を提供しています。

興味深いのは、ほとんどの開発者にとって、Appleへの手数料は一切発生していないことです。手数料を徴収しているのは有料アプリやアプリ内でデジタル商品・サービスを販売している場合に限られており、App Storeにあるアプリの約85%はAppleに手数料を支払っていません

部分的には改善されたが、根本問題は未解決

今回発表されたガイドラインを見ると、確かにAppleの声は部分的には届いていました。

  • 知的財産権について「権利行使と認められる場合は法違反にならない」と明記
  • 手数料について「技術価値を反映した手数料」の正当性を認める

表面的には、Appleの主要な心配事に一定の配慮が示されています。

しかし問題は、これらの改善では根本的な心配事が解決されていないことです。

手数料については「すぐに違反行為になるわけではない」との文言が追加されましたが、最終的な判断基準は相変わらず曖昧なまま。知的財産についても「正当な理由」への言及は加えられたものの、「無償でかつ制約なく」の文言は残っています。これは事実上、40年以上の研究開発投資に対する適切な対価を得る権利を制限するものです。

【失われるもの1・2】欧州で実際に起きている機能制限

最も深刻なのは、欧州で施行されたデジタル市場法で起きた「予想外の悪い結果」が日本でも起こる可能性が高いことです。

EU域内では既に以下の便利機能が使えなくなっています。

  • iPhoneミラーリング(iPhoneの画面をMacに映す機能)
  • SharePlay画面共有機能(友人と画面を共有する機能)
  • Macでのライブアクティビティ表示(iPhoneの通知をMacで見る機能)

これらは私たちが使っている便利な機能です。iPhoneミラーリングを使ってMacでiPhoneアプリを操作したり、SharePlayで友人と画面を共有したりする体験が、規制によって奪われているのです。

【失われるもの3】今の安全なアプリ環境が悪化する恐れ

Appleは「開発者にとって優れたApp Storeは、ユーザーにとっても安心で信頼できる場でなければならない」と考えています。現在のApp Store(アップストア)では、厳しいチェックが行われており、2024年には20億ドルを超える潜在的な不正取引からユーザーを守りました

また、2024年だけで危険な可能性がある116,105件のアプリを却下し、38,315件の悪質アプリを削除しています。重要なのは、iOSはこれまで、一般消費者を狙った大規模な悪質ソフト攻撃を許したことがないという実績です。

新しく認められる代替アプリストアでは、このような厳格なチェックが保証されません。結果として以下のリスクが生まれます。

  • 悪質ソフトの増加
  • 個人情報漏洩のリスク拡大
  • 子どもを守る機能の弱体化

特に影響を受けるのは、高齢者や技術に詳しくない方々です。今まで統一されていた購入履歴の管理、月額サービスの管理、セキュリティ設定などがバラバラになり、現在の「安全で使いやすい」環境が失われてしまう可能性があります。

【失われるもの4・5】新機能の提供遅延と使いにくさの増加

今回のガイドラインでセキュリティへの配慮は認められましたが、他社システムとの連携を強制する要件の根本的な問題は解決されていません

Appleは「日本における新しい製品や機能のリリース日を、法律への準拠を確保するために延期する必要が生じる恐れがあります」と警告していますが、この状況は実質的に変わっていないのです。

想像してみてください。今まで簡単だった操作が複雑になったら?新機能の提供が他国より大幅に遅れたら?

私たちの生活は確実に不便になります。そして「取り残された感」が強くなります。嫌ですよね、そんなの。

曖昧なルールが生む新たなリスク

Appleが獲得した「部分的な成果」は確かに評価できます。しかし、今回のガイドラインの多くが「個別に判断」「合理的な範囲」「必要十分な対応」といった曖昧な表現で書かれていることも大きな問題です。

これらの表現は現時点ではAppleに有利に解釈される可能性がありますが、将来的には公正取引委員会の判断によって解釈が変わるリスクを含んでいます。結果として、法的な不確実性がさらに拡大し、Appleが最も恐れる「ルールが予測できない」という問題が残っています。

「競争促進」の皮肉な結果

この法律の最大の問題は、最終的にユーザーが最大の被害を受ける仕組みが変わっていないことです。「競争促進」という聞こえの良い言葉に隠れて、実際にはユーザーの安全性と便利さが犠牲になっています。

欧州の例を見れば明らかです。期待された「新しい競争」や「革新的なアプリ」は生まれず、代わりにユーザーの安全性とプライバシーが損なわれ、最新機能へのアクセスが制限されています。これが「競争促進」の現実なのです。

私たちに求められること

日本のスマホ新法は、12月18日に全面施行される予定です。確かにAppleの一部の要求は反映されましたが、それでも現在の枠組みでは、日本のiPhoneユーザーがEUと同様のリスクに直面する可能性は十分にあります。

Appleは「こうしたリスクを適切にご理解いただけるよう、私たちは引き続き公正取引委員会との対話を重ねてまいります」とコメントしています。

私たちが求めるのは、安全で使いやすく、最新技術を享受できる環境であって、「選択肢」という名の混乱ではないはずです。部分的な配慮では不十分です。

日本国民として、EUの失敗例を教訓に、ユーザーの真の利益を最優先に考えた制度運用を強く求めたいと思います。表面的な「成果」に満足することなく、根本的な問題解決こそが必要です。Appleの40年にわたる日本への貢献と、私たちユーザーの安全で革新的な体験を守るために。

関連記事: