ロシア、WHOに「ペスト感染例なし」と報告 専門家から生物兵器めぐる懸念

一時200人を隔離する事態となったロシア、イルクーツクのペスト対策研究所(2025年5月8日撮影) via REUTERS

ロシア当局はWHOに対し、「イルクーツクではペストの感染例は記録されていない」と伝えた。WHOが10月6日に明らかにしたもので、ペスト対策を研究していたダリア・シピロワが肺ペストの疑いで死亡したとの報道をめぐり、新たな疑問が浮上している。

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生物兵器が関与したことを示す証拠はない。一方、バイオセキュリティーの専門家からは、報道されているロシア当局の対応は通常のペスト調査としては異例の規模だったとの指摘が出ており、公表されていない別の感染性病原体を調べていた可能性を問う声も上がっている。「ロシア当局はWHOに対し、この女性の症状は当初、典型的な急性呼吸器ウイルス感染症のように見えたと説明し、イルクーツクではペストの感染例は記録されていないと伝えた」と、WHOの広報担当者は10月6日、本誌へのメールで明らかにした。この事案が国際的な注目を集めたのは、10月2日、イルクーツクのペスト対策研究所に勤務していた女性が肺ペストの疑いで死亡し、接触した約200人が医学的な経過観察と検査の対象になっているとメディアが報じたことがきっかけだった。「旧ソ連には数十年にわたる大規模な攻撃用生物兵器計画があり、ペスト対策研究所の一部もその計画に関わっていた」と、ジョンズ・ホプキンス健康安全保障センターの上級研究員、アメシュ・A・アダルジャは本誌に語った。「『ペスト』を掲げているからといって、そこで扱っているのがペストだけとは限らない。そうした施設では、さまざまな生物因子を扱っている」

WHOによると、同機関は10月3日、公衆衛生上の緊急事態となり得る事案の報告について定めた国際保健規則(IHR)に基づき、ロシア当局に情報提供を求めた。


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「ロシアはきょう、イルクーツクではペストの感染例は記録されていないとWHOに通知した」とアダルジャは語った。「接触者への対応や病院での措置、防護服の使用、ロシア版CDCに相当する機関のトップが現地に飛んだことなど、対応の仕方はペストへの通常の対応とは釣り合わないものだった」アダルジャによると、現在ではペストの症例は一般的に治療可能であり、ペストを扱う施設の研究者には通常、確立された安全対策が適用されている。「ペストという言葉は関心を集めやすいのかもしれない。人々は非常に強く反応するが、21世紀の現在では治療可能な病気だ」とアダルジャは述べた。「たとえ薬剤耐性型だったとしても、それにしては非常に大がかりな対応だったように見える」研究施設でペスト菌に感染した可能性がある場合、通常は発症を防ぐための予防的な抗菌薬投与を受けることができると指摘した。「ロシアがイギリスで新型の神経剤を使った襲撃を行ったことは分かっている」とアダルジャは述べた。「そしてロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、遺伝子兵器や異なる特性を持つ兵器の使用について発言している。真相は分からない。重要なのは、実際に何が起きていたのかという点だが、メディアはペストという部分に気を取られすぎた」アダルジャは一方、イルクーツクの事案に生物兵器が関与していたことや、ロシア当局がそのような事案について捜査していることを示す公的な証拠はないと強調した。ただし、今回の状況については、より詳しく検証する必要があるとの見方を示した。

アダルジャはまた、患者がどこを訪れていたのかは分かっていないと指摘。研究のために動物を捕獲していたのであれば、後に感染症を引き起こす病原体に接触した可能性もあると述べた。


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薬剤耐性株だったとしても、メディアが報じたような大規模な対応を完全には説明できないとも指摘した。感染者を特定し、接触した人を追跡して、感染した可能性がある人に必要な措置を取るための手順はすでに確立されている。危険な病原体を日常的に扱う研究施設では特にそうだ。こうした見方から、一部のバイオセキュリティー専門家は、防護服を着た要員の投入、病院への厳しい出入り制限、公衆衛生当局の幹部による現地入りなど、大規模な政府対応が取られたとの報道に疑問を呈している。イルクーツクではペストの感染例は記録されていないとロシアがWHOに通知したことで、最大の未解決問題は、どの病原体がシピロワの病気を引き起こしたのかという点になっている。WHOは、女性が発症した肺炎の原因となった病原体について、ロシア当局に追加情報を求めていると明らかにした。アダルジャは、「原因不明」の肺炎という表現は非常に幅広く、特定の病気を示すものではないと指摘した。「肺炎はあらゆるものが原因になり得る」考えられる原因には、インフルエンザ、RSウイルス(RSV)、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のほか、レジオネラ症や肺炎球菌性肺炎などの細菌感染症がある。アダルジャによると、原因不明の肺炎を調べる場合、医師は通常、血液培養、喀痰培養、画像検査に加え、幅広い呼吸器病原体を対象としたPCR検査を行う。「どこまで幅広く検査したのか、何を検査し、何を検査しなかったのかを知る必要がある」とアダルジャは述べた。現時点では、公衆衛生当局はさらなる情報を待っている。ロシアはイルクーツクでペストの感染例は記録されていないとWHOに伝えたが、シピロワの病気を引き起こした病原体はまだ公表されていない。

ホリー・シルバーマン

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