高級ソファに「龍」の彫刻 中国が繰り出す〝禁じ手〟

岡村善文・元OECD代表部大使

中国のアフリカ進出の実情について、岡村善文・元経済協力開発機構(OECD)代表部大使(現・立命館アジア太平洋大副学長)に話を聞いたことがある。

西アフリカの小国、トーゴとベナンの両大統領府を2008年に訪れたとき、中国がそれぞれの建物を建設し寄贈していて驚かされたという。

廊下の消火栓施設には、中国製であることを示す「消火栓」という3文字の漢字が書かれ、待合室に置かれた高級ソファの肘掛け部分には、中国風の龍の彫り物が施されていた。猛烈な中国アピールである。

「大統領府や巨大スタジアム、国会議事堂を建設するといった人気取りを『してはいけないよね』というのが、OECDに加盟する先進国の良識あるルール。ところが、OECD未加盟の中国はそんなものに縛られず、アフリカ各国でどんどん建設を進めている」。信じがたい話だ。

〝先進国基準〟をあざ笑うかのような中国の奔放な政策は、OECDが今月1日に公表した各国の政府補助金に関する報告書でも示された。

それによると、中国企業が自国政府から得た補助金(05~24年の20年間)は、日米欧中心のOECD加盟国(38カ国)に拠点を置く企業と比べ、3~8倍と突出していた。

調査対象は、鉄鋼や太陽光発電パネルなど製造業15業種の大手525社だ。「多額の補助金は市場をゆがめる」。OECDは中国を痛烈に批判する。

共通の土俵で〝良識ある相撲〟をとるというのが先進国の常識だ。世界2位の経済大国でありながら、市場を荒らし回る中国の行状は身勝手というほかない。

OECD加盟国は途上国で、道路や橋といったインフラを整備する際も、現地の環境や社会的影響を考慮し安全・開発基準面で互いを縛るルールを設けている。ところが中国には、〝どこ吹く風〟のようだ。

「たとえば、アフリカに道路を建設する際、10キロしか建設できない先進国基準があるとすれば、中国は100キロぐらい簡単に造ってしまう。アフリカ諸国にすれば、基準にとらわれずとにかく100キロの舗装道路ができた方がよっぽどいい」(岡村氏)。アフリカ諸国が一方的に中国になびいてしまうわけだ。

中国の影響力が圧倒的に強まるアフリカで、懸念すべき事態が進行している。中国製スマートフォンの大量流入だ。世界市場では、アップルとサムスンの2大巨頭が存在感を誇る。だがアフリカでは、ほぼ全てが中国製といわれる。

中国製の性能はそれほど高くない。ただ、技術的に工夫され、ツボを押さえた「アフリカ仕様」という。

先進国製品でアフリカ人の顔を撮影しても、真っ黒になってしまい、きちんと写らない。ところが、中国製スマホだと、鼻や口、目などが奇麗に写り、表情が浮き出る。色彩を考えた中国製の特別仕様はやはり、アフリカ市場では強みを持つ。

岡村氏は指摘する。「アフリカのスマホ市場を中国が支配するとは、どういうことか。ソフトも中国製であり、購買履歴やGPSの位置情報をはじめ、アフリカ人の行動の情報はみな中国に流れるということだ」

着々と進む中国のアフリカ支配。世界はこの現実に、もっと目を向けるべきだろう。(論説委員)

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