有名なピンク色の湖が青色に、何が起きている? オーストラリア

2020年、西オーストラリア州、ハット・ラグーン(ハット潟)のピンク湖。(PHOTOGRAPH BY DANIELA TOMMASI)

 西オーストラリア州の黄褐色の渓谷と真っ青な海岸のすぐそばには、目が覚めるようなピンク色をした塩湖がある。数千年前からよく知られ、先住民族アボリジニの神話にも登場する。最近では人気の撮影スポットとして、ソーシャルメディアで取り上げられたり、ファッションの広告やミュージックビデオのロケ地になったりしている。

 ところがここ20年間で、州を代表する2つの塩湖でその特徴的な色が失われてしまった。専門家は、的を絞った介入と自然のなりゆきに任せることによって、以前のようなピンク色を取り戻すことは可能だと考えているが、はたして復活させられるのだろうか。(参考記事:「西オーストラリア州と先住民が海洋公園設立 「歴史に残る出来事」」

驚きの生物多様性

 オーストラリアには、長い年月の間に起きた地質学的な現象によって、さまざまな色の塩湖が点在している。かつて大陸を網の目のように走っていた川はおよそ1500万年前に流れを止めたが、その跡は今も上空から確認できる。川の跡に巨大な湖がいくつも形成された。それらが時とともに少しずつ縮小し、小さな水たまりとなり、そこに塩が蓄積されて塩湖になった。

 今も湖は残り、降水や塩分濃度が変わるなかで現れたり消えたりと、常に変化を繰り返している。10年以上干上がっていた塩湖が、豪雨の後ひょっこりと現れたりすることもある。

「塩湖は、人間には理解しがたいものです」と、西オーストラリア州パースにあるカーティン大学の保全生物学者であるアンガス・ローリー博士は言う。

「私たちが理解できるような時間枠で変化しているのではありませんから、そこに重要な生態系があることはしばしば見落とされがちです。しかし、きちんと理解されれば、生産的で生物学的に多様な環境として大きな可能性があるのです」

 さらに、塩湖はムネアカセイタカシギやアカガシラソリハシセイタカシギといった渡り鳥の餌場としての役割を果たし、小型甲殻類のアルテミアや、好塩性の腹足類(巻貝)コクシエラ属といったさまざまな無脊椎動物のすみかにもなっていると、ローリー氏は指摘する。

 西オーストラリア州の塩湖は、火星に存在するかもしれない生命を理解するための研究対象になったこともある。「厳しい塩湖の環境は、地球上で最もたくましい生命を生み出します。しかし、いくらたくましくても脅威にさらされていることに変わりはありません」(参考記事:「火星の地下では微生物が今も休眠中? 可能性示唆する研究相次ぐ」

 その最大の脅威は、「ほかの多くの場合と同様、人間です」

ギャラリー:オーストラリアの名所、ピンク色の塩湖 写真4点(写真クリックでギャラリーページへ)

2025年3月のハット・ラグーンのピンク湖。(PHOTOGRAPH BY DANIELA TOMMASI)

なぜピンクなのか

 オーストラリアの塩湖は、万華鏡のように色鮮やかだ。レモンのような黄色、柿のようなオレンジ色、そして最も極端な環境になると、蛍光ピンクになる。

 その色は、微細藻類の一種であるドナリエラ・サリナ(Dunaliella salina、シオヒゲムシ)と好塩性細菌のサリニバクター・ルバー(Salinibacter ruber)という2つの極限環境微生物によって引き起こされる。日光にさらされると、これらの有機体はベータカロテンを作り出す。ニンジンやザリガニ、フラミンゴの鮮やかな色も、このベータカロテンによるものだ。(参考記事:「フラミンゴ、ピンク色が濃いほど攻撃的、最新研究」

 ベータカロテンは、オーストラリアの太陽による強い紫外線から微生物を守り、カロテノイド生合成というプロセスを通してエネルギーを生み出す。これによって、湖にある限られた栄養をめぐる競争で、光合成を行う緑の生物を打ち負かすことができる。

 極限環境微生物であるドナリエラ・サリナとサリニバクター・ルバーは、ほかのほとんどの生物が生きられない環境で生存できる。塩分濃度が極端に高く、色鮮やかで温かい西オーストラリア州の湖で繁殖できるのはそのためだ。(参考記事:「【動画】中国の塩湖が虹色に! その理由は?」

 しかし、大量の淡水や栄養など、ほかの生物にとっては好ましいものが入ってくると、極限環境微生物は激減する。結果として、湖の鮮やかなピンク色も失われてしまう。

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