深海4,000メートルで4,000体以上の深海生物発見、しかもその88%は新種

これだけ科学技術が進歩しているのに、未だに深海の海底の99.999%はまだ未知の世界。

今回、研究者による深海採鉱の試験中に、約4,000種の海洋生物を発見なんとその88%が新種だったことが明らかになりました。

欧州の海洋生物学者のチームと深海採鉱企業「The Metals Company」は、メキシコとハワイの間に位置する深海域「クラリオン・クリッパートン断裂帯(Clarion-Clipperton Zone)」を5年かけて調査していました。これまで前例のないコラボレーションの研究によって、水深約4,000メートルの深海から、独特な剛毛のゴカイ、骨みたいなクモ、ちっさいカタツムリ、ムール貝など、数千もの生き物を発見しました。

さらに新たな懸念も浮上、深海の採鉱車両が海洋生態系に悪影響を与えていたことを発見しました。このプロジェクトに関する論文は、「Nature Ecology & Evolution」に掲載されています。

深海に眠る資源

この研究の当初の目的は、深海採鉱技術が海洋環境に与える影響を評価することでした。深海採鉱とは、深い海の奥からリチウム、コバルト、ニッケルといった重要鉱物を採取する技術です。これらの鉱物は、太陽光パネル、風力発電設備、電気自動車などの再生可能エネルギー技術にとって欠かせない資源です。

しかしこれらの鉱物は希少で、常に供給不足の状態なため、さまざまな利害関係者が、これまで未知とされていた深海域を含む新たな重要鉱物の資源元を模索しています。その一方、深海採鉱が生態系にどの程度被害を与えるのかについては、まだ把握されていません。その結果、国際水域における人間活動を監督する「国際海底機構(ISA)」は、これまでに商業目的の深海採鉱を一件も承認していないんですね。

海洋生物の玉手箱

調査中に発見されたウミグモsource:University of Gothenburg

この研究は、深海採鉱の影響を予備的に評価するために、ISAが承認した複数の調査のうちのひとつとして実施されました。研究者たちはBBC Newsに対し、研究データは独立したものと説明しています。ただ、The Metals Companyは「論文の公開前に結果を見ることはできたが、内容を変更することは許されなかった」とのこと。

深海採鉱試験の前後、クラリオン・クリッパートン断裂帯の堆積物を複数回採取し、この地域の生物多様性が変化したのか、またどのように変化したかを評価しました。採取できた80サンプルから、なんと4,350個体の深海生物が確認され、その88%は約800種に及ぶ異なる生物種でした。

source: Natural History Museum/University of Gothenburg

今までは、深海の生態系は海面上から非常に離れているため、時間が経っても非常に安定していて、ほとんど変化しないと考えられてきました。しかし実際は、我々が調査していた期間の中でも、自然な変化がかなり起きていることがわかりました。

と、英国サウサンプトン大学の博士課程の学生で、本研究の筆頭著者であるエヴァ・スチュワート氏は声明で説明しています。

この多毛類(ポリキアーテ)と呼ばれるゴカイの仲間は、海底の泥の堆積物の中で発見された多くの生物のひとつでしたsource:Credit: Natural History Museum/University of Gothenburg

採鉱は悪影響だけれど…

さらに論文によれば、採鉱の影響も非常にクリアに言及されていて、採鉱車両の走行によって、生物個体数は37%、種の多様性は32%減少したとのこと。スチュワート氏によれば、

採鉱の機械が海底を高速で通過する時に、海底の地面は約5センチ削られ、その層に、ほとんどの生物が生息しています。当然、堆積物を取り除けばその中にいる生物も一緒に取り除いてしまいます。

とのこと。一方で、このように破壊されてもうまく適応する生物も一部いるようで、落ち着いた後は、元の場所へと戻っていく様子も確認されました。

今回の論文では、さまざまな知見を得たものの、深海の環境において、深海採鉱が生物にどのような影響を及ぼすのかを確実に言い切ることはまだ難しいと結論づけています。その理由のひとつとして、まずこの研究だけで何百種もの新種が発見されたこと自体が、まだ人類が深海についていかに無知であるかを浮き彫りにしたからです。

Source: Nature Ecology & Evolution, BBC, Natural History Museum

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