コラム:トランプ米政権「次の100日」、市場が過小評価する下振れリスク
[オーランド(米フロリダ州) 30日 ロイター] - トランプ米大統領の第2次政権発足後の100日間は、世界市場に信じられないほどの激動をもたらした。米国への輸入関税強化が引き起こした混乱が米国の資産価値を数兆ドルも押し下げたからだ。次の100日間はどうなるのだろうか。おそらく変動幅は小さくなるだろうが、金融市場は下振れリスクを過小評価しているかもしれない。
世界中の投資家の間で米国資産を保有する意欲が低下したため、米株式市場とドル相場はトランプ氏の在任100日で大きく低下した。
S&P総合500種株価指数を含めた多くの市場は、トランプ氏の就任後1カ月間に過去最高値を更新していた。にもかかわらず、政権発足100日間の米株価の下落幅としては1973年のニクソン第2次政権以来の大きさとなり、ドル実効レートは10%弱下落した。
しかし、トランプ氏がより過激な政策の一部を後退させ、暴言を吐く回数を減らしたことで、世界の株式市場のいくつかは安値から反発した。モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル(MSCI)世界株価指数は現在、トランプ氏の就任からの下落率は3%にとどまっている。中国株と英国株、欧州株はほぼ横ばいだった一方、MSCIの日本を除くアジア指数、ドイツのDAX指数、インドのSENSEX指数は2―7%上昇した。
だが、トランプ政権の次の100日間に何が待っているのかに対して市場はやや楽観的すぎるかもしれない。
Line chart showing approval and disapproval polling numbers on Trump's economic policy<不安定な展開>
トランプ氏による関税引き上げを巡る混乱のピークはおそらく過去のものとなったものの、仮に関税の引き上げ幅が縮小されたとしても、過去数十年間で最高水準であることには変わりはない。また、世界の二大経済大国である中国と米国の貿易摩擦はすぐに収束することはないだろう。市場は、こうした状況が引き起こすとみられる貿易の混乱と景気減速を想定していないようだ。
世界の株式バリュエーションは1月以降に割安になったものの、下げ幅はそれほど大きくはなく、欧州株のバリュエーションは再び上昇し始めている。一方、S&P総合500種株価指数構成企業の1年先の1株当たり利益見通しは過去最高を更新し続けており、1株当たり280ドルを超えようとしている。
これは米国と世界の経済の力強さに対する自信なのだろうか、それとも自己満足なのだろうか。トゥルーイストのキース・ラーナー最高投資責任者(CIO)は後者だと見ている。
ラーナー氏は、S&P総合500種の短期的な上昇余地は5%以下で、下落余地は10%超だとみており「市場は直近の安値で悪い材料を織り込んでいたが、今後さらに不安定な展開となった場合のバッファーは少なくなっている」と指摘。その上で「現在の水準ではリスクへのリターンはそれほど魅力的でないように映る」との見方を示した。
米中貿易の突然の破綻、過去最高水準の不確実性、米国が数十もの貿易相手国との交渉を繰り広げている間に家計や企業が数カ月間にわたって直面する手詰まり状態は、国際通貨基金(IMF)が先週示した世界の経済成長率の下方修正が甘すぎるかもしれないことを示唆している。仮に景気後退を避けられたとしても、スタグフレーション(景気低迷の中での物価上昇)への突入は逃れられないかもしれない。
<トランプ氏のピーク>
強気な見方としてあるのは、就任後100日間が「トランプ氏のピーク」になるとのシナリオだ。それは市場全体に及ぶ衝撃、混乱、大幅下落が今後数カ月以内に繰り返されることはないとの見立てだ。その場合には米国の対立国や同盟国との緊張が解け、世界が平常に近い状態に戻ることになる。
おそらくこれらの一部は実現しつつある。トランプ政権の政策に対するテスラ最高経営責任者(CEO)のイーロン・マスク氏の影響力は弱まっており、マスク氏が政府効率化省(DOGE)に割く時間は縮小している。トランプ氏はパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長への攻撃を和らげ、政権としては関税を巡ってより融和的に進める姿勢を示している。
そう考えると、米国の「巨大IT企業」の現在の株価は割安になっており、ドルの安全資産としての地位に対する疑念は誇張されすぎているとの反論もあるかもしれない。米経済は依然として世界で最も革新的でダイナミックであり、欧州や中国では大規模な財政出動が控えている。
それでは、株式は買い時なのか。それは早計だろう。JPモルガンの最近の調査によると、投資家らは貿易戦争の緩和を期待しているかもしれないものの、新しい世界秩序を作ろうとするトランプ政権の姿勢によって「永続的な損害」がもたらされることを恐れている。また、投資家は「(トランプ政権の)最終的な方針についてほとんど確信が持てない」とか、どのクラスの資産を保有すべきかが分からないといった悩みを抱えている。
仮にトランプ政権の次の100日が最初の100日よりずっと波乱が少ないとしても、確実性が低く、不確実性が高く、長期的にダメージが及ぶことへの懸念に目をつぶって強気な姿勢で臨むことは困難だ。
(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
Jamie McGeever has been a financial journalist since 1998, reporting from Brazil, Spain, New York, London, and now back in the U.S. again. Focus on economics, central banks, policymakers, and global markets - especially FX and fixed income. Follow me on Twitter: @ReutersJamie