日立やソニーは何が特別なのか。“高齢”日本企業が陥る「構造的イノベーションの罠」(BUSINESS INSIDER JAPAN)
研究開発や事業の領域を戦略的に変革した企業の成功例として、清水教授は日立やソニーを挙げる。日立は強みとしていた広い事業領域を整理して中核事業に資源を集中し、ソニーは高度な製品開発からサービスやエンターテイメントへ軸足を移した。 結果、両社ともに時価総額・収益ともに上がり「ある種成功したと捉えても違和感はない」(清水教授)という。 日本の高齢企業が事業ポートフォリオを再構築して、イノベーションを起こしていくためのポイントは何になるのか。重要なポイントの一つは「イノベーションの役割分担」という考え方だ。清水教授はアメリカを例にこう説明する。 「アメリカでは、産業・経済単位でイノベーションの分業がなされています。リスクが高い技術開発をスタートアップが行い、そこで競争力が出てきた事業を大企業が担う。そして、これらの技術開発の基盤となる基礎研究は、国が大学やスタートアップに資金を拠出して行われます。 これに対して、日本の産業におけるイノベーションは従来、大企業の研究開発部門が担ってきました。企業が自ら、基礎研究への投資や技術開発コストを負担しながら、事業を多角化してリスクを分散し、雇用を守ってきた経緯があります。このため、企業は事業ポートフォリオの再構築や新規事業開拓といった自己変革により、イノベーションに取り組む現状があります」 イノベーションを議論する上では、基礎研究の担い手をセットに考えなければならない。最近、日本では「ディープテック」と呼ばれる研究開発型スタートアップが、大企業が担えないイノベーションの種を生み出す存在になり得ると期待されている。 こうしたスタートアップが増えていくことで、オープンイノベーションや日本の大企業との連携を通じて、新しい事業を生み出していく可能性は大いにある。ただ、清水教授は、「(スタートアップの数は)もっとあってもいい」と語った上で、 「事業の種はたくさんあると思いますが、それをビジネスにできる経営人材の不足がボトルネックになっている。現状、国内で成功例とされるスタートアップでも、プロの経営人材に任せれば、さらにグローバルなレベルまで事業が拡大できる可能性もあります」 とボトルネックを指摘する。 大企業がスタートアップと連携する上では、すぐに事業化につながるアイデア「以外」にもしっかりと目を向けておくことが必要だ。 「以前、スタートアップとの連携で急成長したアメリカの企業を取材した際、いかに良いアイデアの最初の相談窓口になるかが大事、と語っていました。自社に全く関係のないアイデアも含めて幅広く相談を受け続けることで、いざ自社事業と相性が良いアイデアが出てきたときに1番最初の相談窓口になれる可能性が高くなる。 こういったマインドセットは、日本企業がオープンイノベーションや、アクセラレーターに取り組む際の参考になるのではないでしょうか。」 また、仮に将来の事業のタネになり得る技術が見つかっても、技術開発には時間も資金もかかるものだ。企業が新規事業に十分な投資を進めるには、株主からの理解が欠かせないものの、清水教授は日本企業の研究開発投資は株主に評価されづらい現状があると指摘する。 「(日本では)投資家が企業の研究開発ガバナンスをあまり信頼していないように思います。研究開発の内容が分かりづらく、株主が『よく分からない領域、望むものとは異なる領域に投資されている』と感じてしまうのかもしれません 今後、企業は『投資しようとする技術がどういうもので、どのような市場や機会が生まれ、利益が見込まれるのか』という戦略を、投資家側にクリアに説明することが求められていくと思います」
首藤みさき