動画の総再生数“270万回”「マンジャロ」を安易に使う人に起こる健康被害の中身――薬剤師タレント「オンライン診療を受けてみた」結果は?(東洋経済オンライン)

6:30 配信

 最近、SNSやメディアで「ダイエットに効く薬」として“マンジャロ“が紹介される機会が増えています。 しかし、この薬は2型糖尿病の治療薬。健康な人が“ダイエット目的”で使用することについて安全性は認められておらず、安易に使用することは非常に危険です。 今回は薬剤師の立場から、この問題の危険性とオンライン診療の実態について解説します。【写真で見る】マンジャロとはどんな薬か

■何が危険なの? 使って大丈夫? 

 筆者はこれまでにもマンジャロに関する注意喚起の動画を複数公開しており、TikTok、Instagram、YouTubeでの総再生数は270万回を超えていますが、依然として「マンジャロって何が危険なの?」「使っても大丈夫?」という質問を多くいただきます。 以下に実際のコメントの一部をご紹介します。・なにが危険なのか教えて欲しいです

・マンジャロ過剰摂取(中略)オンラインでいっぱい買いました! ってドヤ顔していた

・彼女がマンジャロ使ってる・インフルエンサーがマンジャロ勧めてますね なかには現役の看護師から「マンジャロってやっぱりダイエットにダメですかね?」などと相談を受けることもあり、医療従事者の間でも正しい認識が広まっていない現状があります。 実際に、オンライン診療で糖尿病薬をダイエット目的で処方している医師にも「糖尿病薬をダイエット目的で使用して、何がいけないのかわからない」と話す方がいました。

■マンジャロとはどんな薬か

 マンジャロとは2型糖尿病にのみ効能・効果が認められた注射薬です。 製薬会社も公式に「マンジャロはあくまでも2型糖尿病のみ効能・効果を承認しているものであって、それ以外の目的で使用された場合の安全性と有効性について確認できていません」と発表しています。 つまりマンジャロは“やせ薬”ではなく、2型糖尿病の治療薬なのです。

 では、なぜマンジャロがダイエット目的で使われているのでしょうか? その理由は、副作用として表れる「食欲減退」です。

 マンジャロは2型糖尿病の治療薬なので、血糖値を改善し、脂肪分解を促進する作用があります。その過程で「食欲が落ちる」という副作用が特徴的に表れるため、「食欲がなくなってやせられる」とされ、ダイエット目的で使用する人が増えているのです。■マンジャロを安易に使うリスク

 繰り返しますが、マンジャロはあくまでも2型糖尿病の患者さんのための薬。健康な人が使用することは想定されていません。そのため、使用すると、より重篤な副作用を起こすリスクがあります。

 主な副作用は、食欲減退、嘔吐、下痢、低血糖症状などです。 低血糖症状とは血糖値が極端に下がった状態で、倦怠感や集中力の低下、動機、震え、意識障害などが表れます。 また、マンジャロは膵臓から分泌される血糖値を下げるホルモン、インスリン分泌を促進する薬であるため、過度にインスリン分泌が促進さることで膵臓に負担がかかり、急性膵炎を引き起こす可能性もあります。

 さらに、糖尿病治療に詳しい医師によると、実際の現場では「脱水症状による急性腎障害で救急搬送されるケース」が最も多いそうです。マンジャロの副作用により食欲が落ち、嘔吐、下痢を繰り返すことで脱水症状になり、腎臓に深刻なダメージを与えてしまうというのです。

 イギリスでは2024年に死亡事例も報告されています。 これを見ると、58歳の看護師の女性が、マンジャロを2回使用したあとに死亡。死因は多臓器不全・敗血性ショック・膵炎で、死亡診断書にはこの薬による影響も記載されています。 では、なぜこれほどリスクがあるマンジャロが“やせ薬”として広まったのでしょうか? 

 その理由の1つとして、過度なSNS広告と一部の美容クリニックやオンライン診療で、医師が安易にダイエット目的で処方しているケースが、巷にはびこっていることが挙げられます。

 実際に「マンジャロ1本無料プレゼント」や「めちゃくちゃ楽痩せ目指せます」、「重い副作用が出る人は稀で低血糖もほぼ起こらないです」などの広告が氾濫し、なかには「Amazonギフト6万円プレゼント」や「最大20万円分の旅行券プレゼント」など、過剰な特典を謳うクリニックも存在します。

 加えて、「正しい知識を持たないまま使用してしまう」「楽にやせられると思い込む」といった安易な気持ちで購入するという、買う側の問題も、健康被害を拡大させる一因となっています。

■オンライン診療を受けてみた では、どれほど簡単にマンジャロが処方されてしまっているのか。実態が気になり、筆者は実際にSNS広告に出てきたオンライン診療クリニックを利用してみることにしました。 予約は15分刻みで診療は即日可能。

 ウェブサイトにあった問診票には「身長150cmの場合、体重41.6kg以下は処方不可」と書かれていたため、150cm・42kgと記入しました。もちろん、オンライン上では虚偽の申告も容易です。

 身長、体重のほかに糖尿病の薬を使用しているかの有無、どこが気になっていてやせたいかなどについて書かれた問診票を提出すると、すぐに電話がかかってきました。 驚いたのは、ビデオ通話ではなく、ただの電話だったこと。これでは相手が本当に医師なのか確認もできません。

 マンジャロの使用を検討していることを伝えると、一応「41kg台になると低体重になるので、ご自身の判断で安全にお使いください」と言われましたが、それだけで副作用についての説明がありません。

 そこでこちらから副作用について質問したところ、「初期に嘔吐や便秘、下痢がありますが、そのうち落ち着きます」とだけ説明されました。 そして、わずか2分半ほどで「では、マンジャロ2.5mgを処方します」と言われたのです。あまりに簡単に処方されることに、驚きを隠せませんでした。 さらに、処方を断ると、最初に出た言葉が「費用面ですか?」。

 このクリニックで処方しているマンジャロの費用は、1カ月で3万円。1週間1本で7500円の計算になります。この瞬間、副作用よりも利益を優先しているのではないかという疑念が強まりました。

■“楽してやせる薬”は存在するのか?  何度も繰り返しますが、マンジャロは本来、糖尿病患者さんのために開発された薬です。 確かに、同じ成分で肥満症に適応がある「ゼップバウンド」という薬も存在しますが、こちらも誰でも使用できるわけではありません。高血圧や脂質異常症、または2型糖尿病のいずれかがあって、食事療法や運動療法を行っても十分な効果が得られず、以下に該当する場合に限ります。

・BMIが27kg/平方メートル以上であり、2つ以上の肥満に関連する健康障害がある

・BMIが35kg/平方メートル以上 「打つだけでやせる」「楽にやせられる」――。そんな甘い言葉の裏には、命に関わるリスクが潜んでいます。 「やせたい」という気持ちは誰にでもあります。でも、健康を犠牲にしてまで手に入れる“やせ方”は、本当の意味での「美しさ」や「健康」にはつながりません。

 体も心も守るために、「安易に手を出さないでほしい」と心からお願いしたいです。

東洋経済オンライン

最終更新:11/5(水) 6:30

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