中国がCOVID-19に関する情報を隠蔽していることをWHO最新報告書が示唆

国際

ジュネーブに本部を置く世界保健機関(WHO)の新規病原体起源に関する科学諮問グループ(SAGO)は27日、COVID-19パンデミックの原因ウイルスであるSARS-CoV-2の起源に関する最新報告書(77頁)を発表した。それによると「全ての仮説を完全に評価するために必要な情報の多くは提供されていない」と指摘、中国武漢で最初に発生した新型コロナウイルスに関する情報を「中国が隠蔽している」ことを示唆した。

中国武漢ウイルス研究所(WIV)Wikipediaから

WHOのテドロス事務局長は、「3年以上にわたり、この非常に重要な科学的取り組みに時間と専門知識を捧げてくださったSAGOの27名のメンバー全員に感謝する。現状では、人獣共通感染症の流出や実験室からの漏洩など、あらゆる仮説を検討し続けなければならない。私たちは、将来のパンデミックから世界を守るために、中国をはじめとするCOVID-19の起源に関する情報を有するすべての国に対し、その情報をオープンに共有するよう引き続き訴える」と述べている。新型コロナウイルスの起源問題では、「自然発生説」(a natural zoonotic outbreak)と「武漢ウイルス研究所=WIV流出説」(a research-related incident)の2通りがある。

SAGOの報告書は、「COVID-19の起源に関して、利用可能な証拠(available evidence for the main hypotheses for the origins of COVID-19 )から検討するならば、コウモリから直接、あるいは中間宿主を介して、人獣共通感染のスピルオーバーが示唆される」と説明する一方、「WHOは、パンデミック初期におけるCOVID-19感染者の数百の遺伝子配列、武漢の市場で販売された動物に関するより詳細な情報、そして武漢の研究所における研究内容とバイオセーフティ状況に関する情報を中国に要請してきたが、中国はSAGOにもWHOにもこれらの情報を提供していない」と強調し、「中国はコロナウイルスSARS-CoV-2の起源に関する重要な情報を未だに公開していない。そのため、このウイルスがどのようにしてヒト間で広がり、これほど壊滅的な結果をもたらしたのか、依然として特定できない」と指摘している。

ここで注意しなければならない点は、上記の「利用可能な証拠」とは、中国側がWHOに提供した情報を意味し、中国側が主張する「人獣共通感染説」を裏付けている一方、、武漢ウイルス研究所(WIV)起源説では「中国側が情報を提供していないので結論付けることはできない」ということだ。すなわち、中国当局は自身の説を裏付ける情報だけをWHOに提供し、それに反する情報は隠蔽しているというわけだ。中国側がWIV発生説に関連する情報の提供を渋っているということは、WIV発生説が正しいことを間接的に裏付けることにもなる。

実際、オーストリア国営放送(ORF)はSAGOの報告書について、「中国、コロナウイルスに関する情報を隠蔽」という見出しで報じている。この受け取り方はSAGOの報告書のポイントを突いている。

なお、SAGOは2022年6月9日に報告書で初期の調査結果と勧告を発表した。今回の報告書は、査読済み論文やレビューに加え、入手可能な未発表情報、現地調査、インタビュー、監査結果、政府報告書、情報機関報告書などのその他の報告書に基づいて、その評価を更新したものだ。

南アフリカのウィットウォータースランド大学の特別教授でSAGO議長マリーティ・ベンター氏は「新型コロナウイルスの起源問題は単なる科学的な取り組みではなく、道徳的かつ倫理的な責務だ。SARS-CoV-2の起源とそれがどのようにパンデミックを引き起こしたかを理解することは、将来のパンデミックを予防し、人命と生活を救い、世界的な苦しみを軽減するために不可欠だ」と述べている。

WHOは「SARS-CoV-2の起源を解明するための作業は未だ完了していない。WHOはCOVID-19の起源に関するさらなる証拠を歓迎しており、SAGOは新たな情報が得られた場合には、引き続きその検討に尽力する」と述べている。

ちなみに、SAGOのメンバーは27人の科学者で構成されており、2021年からウイルスの起源に関する問題に取り組んできた。委員会のメンバーのうち、中国、ロシア、カンボジア、ブラジルの4人の科学者は今回のSAGOの報告書の著者として名を連ねることを拒否している。

参考までに、米国ホワイトハウスは4月18日、Covid govウェブサイドの改訂版で「新型コロナウイルスはWIVから流出した」という公式見解を表明した。また、独連邦情報局(BND)は昨年秋、公的なデータの分析に加え、「サーレマー」というコードネームで行われた情報機関の極秘作戦で入手した資料の存在を明らかにしている。資料の中には、中国の研究機関、特にウイルス研究の最先端機関のWIVからの科学データや、自然界のウイルスを人為的に改変する「機能獲得(Gain-of-Function)」実験のリスクに関する証拠や、研究所の安全基準違反を示す多数の資料も含まれていた。

-習近平国家主席 中国共産党新聞より

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年6月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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