米の中国向け半導体収益15%支払い合意、専門家は他業界への波及警戒
トランプ政権は、経済的手段によって世界のビジネス環境を再構築しようと、法の限界を何度も押し広げてきた。人工知能(AI)半導体大手の米エヌビディア、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)と、米政府との新たな合意に、通商の専門家らは警戒感を強めている。
ブルームバーグは11日、エヌビディアとAMDが、中国向けの一部半導体販売による収益の15%を米政府に支払うことに合意したと報じた。対象となるのはエヌビディアのAIアクセラレータ「H20」と、AMDの「MI308」だ。
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元米国通商交渉官で、現在はシンガポールのユソフ・イシャク研究所(ISEAS)所属のスティーブン・オルソン氏は「『異例』とか『前例のないこと』といった表現では控えめすぎる」と衝撃を語った。同氏は「いま目にしているのは、米国の通商政策が事実上『収益化』されている状況だ。つまり、米国企業は輸出の許可を得るために、米政府に対価を支払わなければならない。もしそうなら、我々は新しくかつ危険な時代に突入したことになる」と語った。
取引的手法
混乱を招いた関税政策や、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長への継続的な批判に加え、トランプ氏は自身のソーシャルメディアを通じ、経営者に辞任を求めたり、企業の広告キャンペーンにコメントしたりと、さまざまな発信をしてきた。
トランプ氏の取引的な政策手法は、日本製鉄のUSスチールの買収合意にも表れている。この合意には、米国の国家安全保障規則の順守や、米政府に「黄金株」を与えるなどの条件が含まれていた。日本、韓国、欧州連合(EU)はいずれも、米国への数十億ドル規模の投資を約束し、関税率15%の確保に寄与したとされる。アップルなどの企業も、数千億ドル規模の投資を約束することで、関税回避を実現してきた。
シンガポールにあるヒンリッチ財団で貿易政策部門を率いるデボラ・エルムズ氏は「企業や国ごとに特定の組み合わせを作り、『他の誰も取引できないが、われわれに直接金を払えば取引できるようにする』というような話が出てくるかもしれない」と述べ、他の業界や製品にも同様の措置が広がる可能性を指摘した。
エルムズ氏は、エヌビディアとAMDが条件に同意したとはいえ、この合意の合法性には疑問が残ると指摘する。事実上の「輸出税」に見えるこの取り決めは、米国憲法で禁じられている行為だ。
争いの中心
半導体は、AIや自動化といった将来の産業をめぐる米中覇権争いの中心に位置する。バイデン前政権が中国への先端半導体の販売を制限し、これに対抗してエヌビディアは規制を回避できるH20を開発した。
トランプ政権は4月、エヌビディアに対する輸出規制を強化し、こうした半導体製品を許可なしに販売することを禁じていた。その後、エヌビディアとAMDは7月中旬、トランプ政権から、対中輸出を許可する方針を伝えられたとしていた。
2008年の金融危機後には民間企業の株式を取得するなど、米政府が介入した例は過去にもある。だが、ワシントンの戦略国際問題研究所のスコット・ケネディ上級顧問は、今回のような取引は記憶に乏しく、適切な監視なしには「縁故資本主義の国家」に転落しかねないと警告した。
ケネディ氏は「これは米国の経済運営のあるべき姿という点で、非常に大きな転換を意味する」と指摘し、「満足するのは、せいぜい中国だけかもしれない。彼らは、半導体チップを手に入れつつ、米国の政治制度が混乱し、国内の緊張が高まる様子を眺められるだろう」と語った。
原題:Trump Bid for Cut of Nvidia, AMD Revenue Risks ‘Dangerous World’(抜粋)