トランプ米政権、ヨーロッパは「文明消滅」の危機と警告 新たな戦略文書で

画像提供, Reuters

アメリカのドナルド・トランプ政権は5日に公表した国家安全保障戦略の中で、ヨーロッパが「文明の消滅」に直面していると警告した。また、特定の国々について、信頼できる同盟国としての存続を疑問視した。

33ページにわたる戦略文書では、トランプ大統領が世界に対してどのような構想をもち、それに向けてアメリカの軍事力と経済力をどう行使するかの考えが示されている。

トランプ氏はこの文書を、アメリカが「人類史上最も偉大で最も成功した国家」であり続けるための「ロードマップ」だと述べた。

これに対し、欧州各国の政治家も反応を見せている。ドイツのヨハン・ヴァーデフール外相は、同国は「外部からの助言を必要としない」と語った。

正式な国家安全保障戦略は、通常、米大統領が任期中に1度発表するものだ。これには、将来の政策や予算の枠組みを形成し、大統領の優先事項がどこにあるのかを世界に示す役割がある。

今回の新しい文書は、トランプ氏が9月に国連で行った演説と同様のレトリックを使っている。トランプ氏はこの演説で、西欧諸国と、その移民やクリーンエネルギーへの取り組みに対して厳しい批判を展開した。

新しい文書ではトランプ氏の見解をさらに強調し、「西洋のアイデンティティー」の回復、外国の影響力との戦い、大規模移民の終結に加え、麻薬カルテルの阻止といったアメリカの優先事項に、より焦点を当てるよう求めている。

ヨーロッパに焦点を当てた同文書は、現在の傾向が続けば、ヨーロッパ大陸は「20年以内に見分けがつかなくなる」と指摘。大陸の経済問題は「文明の消滅という現実的でより深刻な見通しによって覆い隠されている」と主張している。

また、「特定のヨーロッパ諸国が、信頼できる同盟国であり続けるのに足る経済力と軍事力を維持できるかどうかは、まったく不明だ」と文書は記している。

文書ではさらに、欧州連合(EU)や「その他の国際的な組織」が「政治的自由と主権を損なう活動」を行っていると非難し、移民政策が「争いを生んでいる」と述べられている。「言論の自由の検閲や政治的反対意見の抑圧、出生率の急落、国家的アイデンティティーと自信の喪失」などの問題も挙げている。

一方で、同文書は「ヨーロッパの愛国的な政党」の影響力の拡大を称賛し、「アメリカはヨーロッパの政治的同盟国に、この精神の復興を促進することを奨励する」と述べている。

同国のヴァーデフール外相は、「アメリカは、そして今後も、(北大西洋条約機構・NATO)同盟において我々の最も重要な同盟国だ。この同盟はしかし、安全保障政策の課題に取り組むことに重点を置いている」と強調した。

「表現の自由や我々の自由な社会の組織に関する問題は(NATOの戦略に)含まれるべきではないと私は考える。少なくともドイツに関してはそうだ」

トランプ政権の戦略文書は、ロシアによるウクライナへの全面侵攻にも言及。ヨーロッパがロシアとの関係において「自信を欠いている」と指摘している。

そして、ヨーロッパとロシアの関係を管理するには、アメリカの大きな関与が必要になるとし、ウクライナでの敵対行為を終わらせることがアメリカの核心的利益だと述べている。

トランプ政権が提案した和平案には当初、現在ロシアが占領している領土の譲渡にウクライナが同意するなどの条件が盛り込まれ、ロシア寄りと広く見なされていた。しかし、今月2日にトランプ氏の特使がロシアとの協議で提示した和平案は、複数の修正が加えられたものだった。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、ウクライナ軍が同国東部のドンバス地域から撤退しなければ、ロシアが武力で奪取すると警告している。

ホワイトハウスの戦略文書は、西半球への言及を繰り返し、アメリカが外部の脅威から自らを守る必要性を強調している。

「我々の半球における緊急の脅威に対応するために『世界的な軍事プレゼンスの再調整』が必要だ」とし、そのために、かつてアメリカの国家安全保障にとって重要だったが現在はそうではない地域から資産を移すことを求めている。

西半球以外では、トランプ政権は南シナ海をアメリカ経済に重大な影響を及ぼす重要な海上輸送路と位置付けており、「西太平洋における軍事プレゼンスを強化し、強固にする」と述べている。

また、日本、韓国、オーストラリア、台湾に防衛費の増額を求めている。

戦略文書には、「台湾をめぐる紛争を抑止すること、理想的には軍事的優位を維持することで、それが優先事項だ」と記されている。中国は台湾を自国の領土の一部と見なし、その「再統一」のための武力行使の可能性を排除していない。

戦略文書は、アメリカ国内の産業基盤を強化し、外国技術への依存を減らすことについても言及している。これは、トランプ政権が包括的な世界的関税措置で取ってきた動きと一致している。

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