デジタルID、イギリスでの就労で義務化 スターマー首相が発表
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イギリスのキア・スターマー首相は26日、イギリス国内で働くためにデジタル身分証(ID)を持つことを義務付ける方針を発表した。不法移民への対策の一環として導入される見通し。
スターマー首相は、新しいデジタルID制度は「国内での不法就労を困難にし、国境をより安全にする」と説明。イギリス市民にとっても「数え切れないほどの利点がある」と主張した。
しかし野党各党は、小型ボートによる英仏海峡の横断を、この提案によって阻止することはできないと主張している。
スターマー政権は、不法移民問題に対処するよう求める世論の圧力を受けている。労働党が政権を握って以降、小型ボートで到着した移民は5万人を超える。
スターマー首相はこの日、各国首脳も出席したロンドンで開催された「グローバル・プログレッシブ・アクション・カンファレンス」で演説し、デジタルIDの導入計画を明らかにした。この会議には、オーストラリアのアンソニー・アルバニージー首相やカナダのマーク・カーニー首相らが出席した。
スターマー氏は、イギリスではこれまで不法に働くことが「簡単すぎた」と指摘。中道左派の政治家らが、「明らかに本当」の事態について発言を「ためらってきた」ためだと述べた。
また、「外国人労働者を搾取し、公正な賃金を損なう労働力に依存することは、思いやりのある左派政治ではない」と強調した。
「すべての国が国境を管理する必要がある。これは単純な事実だ。自国に誰がいるのか、私たちは知る必要がある」とも、首相は述べた。
スターマー氏はまた、「この制度は、一般市民にとっても数え切れないほどの利点をもたらす。例えば、古い公共料金の請求書を探し回ることなく、主要なサービスに迅速にアクセスするために身元を証明できるようになる」と話した。
同じ会議で演説したダレン・ジョーンズ首相首席秘書官は、「このデジタルID制度を機能させ、国民が賛同してくれれば、それは現代国家の基盤となり、将来的に非常に革新的な公共サービス改革が可能になる」と述べた。
IDカードについては、20年以上前にトニー・ブレア労働党政権が導入を試みたことがあるが、この構想は2010年に保守党と自由民主党の連立政権によって撤回された。
しかし、スターマー氏は最近、「この20年間で議論は進展した」と発言し、「今の私たちは今、20年前よりもはるかに多くのデジタルIDを持ち歩いている」と前向きな姿勢を示していた。
イギリス政府は、スマートフォンを使えない人々にとっても制度が機能するようにしたいとしており、年内にサービスの提供方法に関する協議を開始する予定だと述べている。
この協議は3カ月にわたる見通しで、来年初めには法案が議会に提出される予定。
英首相官邸によると、各自がデジタルIDを持ち歩く必要はなく、提示を求められることもないが、イギリスで就労する権利を証明するためには必要となる。
デジタルIDは、イギリスでの就労資格を証明する手段として、遅くとも2029年までに義務化される見通しだ。
新しいデジタルIDは、非接触型決済カードや、国民保健サービス(NHS)のアプリと同様の形で、個人のスマートフォンに保存されることになる。
このIDには、氏名、生年月日、国籍または居住資格、写真が含まれる見込み。
協議では、住所などの追加情報を含めるべきかについても検討される予定だ。
イギリスでは雇用主はすでに、採用候補者がイギリスで就労する権利を持っているかを確認する義務を負っている。
関係者によると、政府当局は、デジタルIDの義務化が偽造書類の使用を減らし、一貫した本人確認手法を提供できるかを検討しているとされる。
政府は、この制度の導入によって、運転免許証、育児支援、福祉などのサービス申請がより簡素化されるほか、納税記録へのアクセスも効率化されるようになると述べている。
労働党は、この新提案が国民の支持を得ていると考えているが、100万人以上がこの構想に反対して署名している。
BBCニュースビートは、政府の計画について若者の意見を聞いた。
エムリン・ジェンキンスさん(23)は、デジタルIDに反対しており、この計画を「ファシズム的でひどいものだ」と表現した。
「スマートフォンにアクセスできない、あるいは安定したインターネット環境がないホームレス状態の人々は、どんな影響を受けるのか」と、ジェンキンスさんは問いかけた。
アリアンウェン・フォックス=ジェイムズさん(20)は、いくつかの実用的な利点は理解できるとしながらも、「すべてのデータが中央集約されるという考え」には不安を感じると述べた。
「もし政府が本当に不法就労に対処したいなら、移民手続きをもっと簡単にして、もっとアクセスしやすくするはずだ」
エイミーさん(22)は、デジタルIDがあれば、仲間と夜に出かける時には助かると話した。
「みんなが忘れるのは、まさにそれ(身分証)だから」とエイミーさんは言い、「でもスマートフォンに入っていれば、誰もが手に持っている言言う」と述べた。
「こういうものが導入されるたびに、必ずハッキングされる」、「みんな何でもハッキングするから」とエイミーさんは話した。
最大野党・保守党のケミ・ベイドノック党首はこの計画について、「ボートを止めることには何の効果もない」と述べた一方で、「法を守る市民に対して使われることになり、犯罪者は自由の身になる」と批判した。
ベイドノック氏はデータの安全性についても懸念を示し、「情報を一つのデータベースに集約することはリスクになる」と述べた。
自由民主党のエド・デイヴィー党首は、自分たちの党はこの制度に対して「徹底的に闘う」と述べ、「この制度は、税負担と官僚主義を増加させる一方で、英仏海峡の横断問題にはほとんど何の効果もない」と批判した。
一部の活動団体もこの計画に反対している。ロビー団体の「リバティ」は、「大規模な監視に関する重大な懸念を引き起こす」と主張している。「ビッグ・ブラザー・ウォッチ」は、この制度によって「国から自由がなくなる」と述べた。
一方で、元労働党内務相のデイヴィッド・ブランケット卿は、改革案が十分に強固ではないと主張した。
ブランケット卿はBBCラジオ4の番組に出演し、「理解に苦しむ。今は信念に基づく、注目度の高い、世の中を揺るがす政治の時代だが、これは弱々しく見える」と語った。
また、「なぜこの制度が必要なのか、なぜ個人にとって有益なのかについて、非常に一貫した見解が示されていないことも、理解に苦しむ」と述べた。
スターマー氏は演説後の会話の中で、次期総選挙を労働党と野党リフォームUKとの間での「開かれた戦い」にしたいと抱負を示した。
また、来週開催される労働党大会での演説では、リフォームUKへの対応が大きな焦点になるとも示唆した。
リフォームUKはスターマー氏の演説について、国民が「スターマー氏が単に保守党の高税率と大量移民という遺産を引き継いでいるという事実に目覚めつつある」と述べた。
ナイジェル・ファラージ党首が率いるリフォームUKは、下院で5議席しか有していない。しかし世論調査では、ここ数カ月にわたって首位を維持している。