サントリーニ島の「謎の群発地震」、ついに原因を解明、火山どうしの驚きの「つながり」も(ナショナル ジオグラフィック日本版)
2025年1月下旬、ギリシャのエーゲ海に浮かぶサントリーニ島、アモルゴス島、アナフィ島の地下で何かがうごめきはじめ、のどかな島々は2万8000回以上の謎めいた群発地震に襲われた。マグニチュード5.0以上の地震も数回あり、非常事態宣言も出された。サントリーニ島の人々は、近々火山が激しく噴火するのではないかと恐れた。 【動画】マグマの上昇がわかる、サントリーニ島群発地震の3Dアニメーション 地震の危機は約1カ月後に終息し、人々は胸をなで下ろした。そして今、科学者たちは各種の地震観測機器と人工知能(AI)を駆使し、犯人を特定できたと考えている。地殻の深くからシート状のマグマが急速に昇ってきて、群発地震を引き起こしていたのだ。研究は9月24日付けで学術誌「ネイチャー」に掲載された。 今回の分析は、サントリーニ島と、その沖合の海底にあるコロンボ火山との驚くべきつながりも明らかにした。「2つの火山は連絡しているのです」と、ドイツ、キールにあるGEOMARヘルムホルツ海洋研究センターの地球物理学者で、論文の著者の一人であるイェンス・カーステンス氏は言う。 研究チームのデータは、地下で起きている現象の表面を見ているにすぎない。しかし、緻密なモニタリングのおかげで、「じつに興味深い知見を導き出せました」と、英国立海洋学センターの海底火山学者イゾベル・ヨー氏は言う。なお、氏は今回の研究には関与していない。 さらに、科学者たちは今や、この一帯の地下のマグマの動きを追跡できるようになっている。この知識があれば、次にエーゲ海の島々で地震が始まったとき、噴火の可能性をより正確に予測できる。
歴史的に、エーゲ海のこの一帯では大規模な火山噴火が何度も発生している。サントリーニ島はカルデラの一部で、水没した中心部からは一対の小さな火山島パレア・カメニとネア・カメニが顔を出している。これらの火山は悪名高く、サントリーニ島の紀元前1600年頃の大噴火は1つの文明を滅亡させている。 また、サントリーニ島から北東に約7キロの海中にあるコロンボ火山も、1650年の大噴火で大津波と有毒ガスを発生させている。 サントリーニもコロンボも活火山なので、将来再び噴火する可能性がある。そのため、2025年の初めにサントリーニの地下で群発地震が発生したことは科学的には予想外ではなかったものの、不意をつかれた1万5000人の住民の間に不安が広がった。 住民の多くは島から避難し、科学者たちは群発地震の原因の究明に奔走した。不可解なことに、群発地震の震源は短期間のうちにサントリーニ島から離れて東の沖合に移動し、近くの断層帯に集まったが、その上に既知の火山はなかった。 「当時は多くの不確実性がありました。群発地震がマグマによるものなのか地殻変動によるものなのか分からなかったのです」と、ドイツ、ポツダムにあるGFZヘルムホルツ地球科学センターの地球物理学者で、今回の論文の著者の一人であるマリウス・イスケン氏は振り返る。 実は、科学者たちは群発地震が発生する前からサントリーニ島とコロンボ火山を監視していた。その上、この一帯を観測機器でカバーして自然の科学実験室にしようという学際的な取り組みも始動していた。ドイツとギリシャが主導する「MULTI-MAREX」というプロジェクトだ。 コロンボ火山の火口内には水中センサーが設置されていて、地震の信号と海底の揺れによる圧力の変化を検出していた。観測チームは、一帯の地形の微妙な変化を追跡できるレーダーを搭載した衛星と、GPS地上局、火山ガス検知器も利用した。 さらに、数十年分の地震データを使って訓練された機械学習プログラムも投入した。これらのプログラムは、かすかな地震まで識別し、その震源を正確に突き止めることができた。 これらのおかげで、研究者たちは群発地震を引き起こしたものをリアルタイムで追跡できたのだ。