上空から数億匹のハエを投下、米政府が計画 その理由は
温血動物の傷口に寄生し、生きたまま徐々に食べてしまうことで知られるハエの一種、新世界ラセンウジバエの幼虫が2023年初頭から中米全域で大発生している/Michael Miller/Texas A&M AgriLife
(CNN) 米農務省はこのほど、テキサス州とメキシコの国境付近のいずれかの町に「ハエ工場」を開設する計画を発表した。不妊化させたハエを繁殖させ、上空から散布する狙い。同国の畜産業は現在、南西部の国境から侵入しようとしている肉食生物の脅威に直面している。
上空の飛行機から何億匹ものハエが降ってくると聞けば、恐ろしい悪夢のように感じられるかもしれない。しかしこのような大群こそが畜産業にとって最善の防御策になり得ると専門家は指摘する。
温血動物の傷口に寄生し、生きたまま徐々に食べてしまうことで知られるハエの一種、新世界ラセンウジバエの幼虫が2023年初頭から中米全域で大発生し、パナマ、コスタリカ、ニカラグア、ホンジュラス、グアテマラ、ベリーズ、エルサルバドルでまん延が記録されている。中米のほとんどの国では、20年間発生していなかった。
このハエは昨年11月にメキシコ南部にまで到達し、米農業関係者の懸念を引き起こした。国境付近では牛、馬、バイソンの貿易港が複数閉鎖された。
米国がこうした侵略的害虫と戦うのは今回が初めてではない。1960年代と70年代には、不妊化したオスのラセンウジバエを繁殖させ、飛行機から散布して野生のメスのハエと交尾させることで、新世界ラセンウジバエの個体群をほぼ根絶させることに成功した。
現在、ラセンウジバエが北方へと広がり続けているため、当局は今回もこの手法に期待を寄せている。
しかし、6月17日付の米議員80名からの書簡によると、現在、ラセンウジバエを散布用に繁殖させている施設はパナマに一つしかなく、大発生を抑え込むにはさらに数億匹の不妊化ハエが必要な状況だ。
この翌日、米農務省は、テキサス州とメキシコの国境付近のいずれかの町に「ハエ工場」を開設する計画を発表した。
メスのハエは20日という短い寿命の間に一度しか交尾しない。そのため、不妊のオスに暴露されれば、発生規模にもよるが、数カ月から数年のうちに絶滅してしまう。
米国でどのように散布されるかは不明だが、昆虫学の専門家によると、成虫のハエは通常、温度管理されたコンテナに詰められ、飛行機から投下される。しかし、ハエが近隣の郊外に散布されるからといってパニックになる必要はないという。ハエは都市部に興味はなく、人口の少ない農村部を狙うことが多いからだ。
農務省は、新たな不妊ハエ施設に加え、2025年内にメキシコにある老朽化したハエ工場を2100万ドル(約30億円)かけて改修する計画も発表している。