米政権、アルバネーゼ国連人権特別報告者に制裁 国際刑事裁への支持に関連と

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画像説明, 国連人権理事会のフランチェスカ・アルバネーゼ特別報告者

アメリカのドナルド・トランプ政権は9日、国連人権理事会のフランチェスカ・アルバネーゼ特別報告者に制裁を科す方針を明らかにした。アルバネーゼ氏は、イスラエルによるパレスチナ・ガザ地区への軍事攻撃に対して厳しい批判を続けてきたことで知られている。

マルコ・ルビオ米国務長官はこの制裁措置について、アルバネーゼ氏が国際刑事裁判所(ICC)を支持していることに関連していると述べた。ICCの判事の一部は、すでにアメリカから制裁を受けている。

ルビオ国務長官は、アルバネーゼ氏がアメリカ人またはイスラエル人の起訴を目指すICCの活動に直接関与していると非難。国連特別報告者としての職務に不適格だと語った。

この制裁により、アルバネーゼ氏はアメリカへの渡航が制限される可能性があるほか、同国で保有する資産が凍結される見通しだ。

アルバネーゼ氏はXへの投稿で、制裁について直接言及はしなかったものの、「今日という日にこそ、私はこれまでと同様に、正義の側に揺るぎなく、確信を持って立ち続ける」と述べた。

また、ICCへの支持を表明する過去の発言を再投稿し、自身がICCの創設国であるイタリアの出身であり、同国の法律家や裁判官は「多大な犠牲を払い、時には命をかけて正義を守ってきた」と記した。

その上で、「私はその伝統を尊重し、継承するつもりだ」と書き込んだ。

アルバネーゼ氏は、BBCの取材に対してはコメントを控えたが、カタールの衛星テレビ局アルジャジーラには、今回の制裁について「マフィア的な脅迫手法だ」と語ったと報じられている。

トランプ政権はこのところ、ICCへの対抗姿勢を強めている。同政権はすでに、ICCの裁判官4人に対して制裁を科している

アメリカ政府は、ICCが昨年、イスラエル首相のベンヤミン・ネタニヤフ氏および当時の国防相ヨアヴ・ガラント氏に対し、ガザ地区での戦争犯罪の疑いで逮捕状を発行したことを受けて、ICC関係者への制裁措置に踏み切った。両氏は容疑を否定している。

ルビオ国務長官は、アルバネーゼ氏が「露骨な反ユダヤ主義をまき散らし、テロリズムへの支持を表明し、アメリカとイスラエル、西側諸国に対して公然と軽蔑の意を示してきた」と非難した。

今回の制裁措置は、イスラエル軍による軍事攻撃によってガザ地区で多数の民間人が犠牲になっていることへの責任追及を求める立場の関係者から、強い反発を招く可能性がある。

アルバネーゼ氏はこれまでも一貫して、占領下のパレスチナにおけるパレスチナ人の権利を守るために、西側諸国の政府が十分な対応を取っていないと主張してきた。

アルバネーゼ氏の率直な姿勢は、イスラエルおよびアメリカの指導者が、反ユダヤ主義への非難を武器化し、自らの政策への批判を封じ込めようとしていると主張する人々から、強い支持を集めている。

一方で、アルバネーゼ氏が過去に使用した表現を問題視する声もある。特に同氏が2014年、「ユダヤ系のロビー団体」がアメリカ政府の対イスラエル・パレスチナ政策に影響を与えていると示唆した発言が注目されている。

アルバネーゼ氏はその後、この発言を後悔していると述べたと報じられているが、反ユダヤ主義的であるとの指摘については否定している。

国際人権団体アムネスティ・インターナショナルの事務総長で、元国連特別報告者のアニエス・カラマール氏は、アルバネーゼ氏への制裁決定に強い失望を示した。

カラマール事務総長は「世界各国の政府および法の支配と国際法を信じるすべての関係者は、フランチェスカ・アルバネーゼに対する制裁の影響を緩和し、阻止するためにあらゆる手段を講じるべきだ」と述べた。

ルビオ国務長官は、アルバネーゼ氏が複数のアメリカ企業に対して「脅迫的な書簡」を送付し、根拠のない非難を行ったうえで、ICCにそれらの企業およびその幹部に対する訴追を推奨したと主張。同氏がアメリカに軽蔑の姿勢を示していると非難した。

ルビオ氏は「我々は国家の利益と主権を脅かす政治的・経済的な戦争行為を容認しない」と強調した。

アルバネーゼ氏は今月初め、多国籍企業数十社に対し、イスラエルとの取引を停止するよう呼びかけた。ガザ地区および占領下のヨルダン川西岸での戦争犯罪に加担するリスクがあると警告した。

同氏は、これらの企業が、「違法な占領、アパルトヘイト(隔離政策)、そして現在は(占領下のパレスチナ領土での)ジェノサイド(集団虐殺)によって成り立っているイスラエル経済から利益を得ている」と述べた。

イスラエル政府はこの報告を「根拠のないもの」として退け、「歴史のごみ箱行きになるだろう」と反発した。

アルバネーゼ氏はまた、トランプ米大統領が2月に発表した、ガザ地区を掌握し住民を他地域に移住させる計画についても批判している。

アルバネーゼ氏は当時、この計画について「違法で、非道徳的で(中略)完全に無責任だ。地域の危機をさらに悪化させることになる」と述べている。

アルバネーゼ氏はこれまでも、同様の非難を退けている。昨年10月にはBBCの取材で、「こうした発言と、それに伴う中傷を軽く受け止めているわけではない。しかし、これは私個人に向けられたものではないと理解している。私の前任者たちも同様の理解をしていた」と語った。

また、「(反ユダヤ主義だと非難している)これらの加盟国は、国際法を順守するための行動をまったく取っていない」とも述べた。

ローマ規程に基づいて設立されたICCには現在、約125カ国が加盟している。これらの国々はICCの保護を受けると同時に、加盟国として同裁判所の決定を尊重する義務を負っている。

アメリカは、ガザでの戦争を通して武器供与を続けてきた同盟国イスラエルの立場を支持し、ICCによるネタニヤフ首相への逮捕状に反対している。これに対し、多くのヨーロッパ諸国は、ICCの独立性を尊重する姿勢を示している。

ガザ地区のイスラム組織ハマスが主導する武装勢力は2023年10月7日、イスラエル南部を襲撃し、約1200人を殺害、251人を人質として連れ去った。イスラエル軍はこれを受けて、ガザ地区で軍事作戦を開始した。

ハマスが運営するガザ地区の保健省によると、それ以降、少なくとも5万7575人が殺された。

また現在までに、ガザの住民の大多数が複数回にわたって避難を強いられており、住宅の90%以上が損壊または破壊されたと推定されている。医療、給水、衛生管理の各システムは崩壊し、食料や燃料、医薬品、避難所の深刻な不足が続いている。

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