ドゥテルテ前比大統領逮捕、背景にマルコス家との対立…中間選挙前に混迷必至
【ハノイ=竹内駿平】フィリピン大統領府は11日、警察当局がロドリゴ・ドゥテルテ前大統領(79)を逮捕したと発表した。ドゥテルテ氏が進めた麻薬撲滅対策を巡り、国際刑事裁判所(ICC)が「人道に対する罪」の疑いで逮捕状を出していた。5月に中間選挙を控え、フェルディナンド・マルコス大統領と対立するドゥテルテ氏側は「政治的だ」と反発しており、比国内は混迷が続きそうだ。
■遺族歓迎
マルコス大統領=ロイター比大統領府などによると、ドゥテルテ氏は11日午前9時20分頃、政治集会出席のため長女サラ副大統領と渡航した香港から首都マニラに到着した後、ICCの逮捕状に基づき比警察当局に逮捕された。ドゥテルテ氏はマニラの空軍基地に拘束された。ICCは国際刑事警察機構(ICPO)を通じて身柄拘束を求めたという。
サラ副大統領=ロイター比警察当局はドゥテルテ氏が飛行機に乗り込む様子を映した動画をSNSに投稿した。11日夜に記者会見したマルコス氏は、ドゥテルテ氏を乗せた飛行機がICC本部があるオランダ・ハーグに向かったと明らかにした。
ドゥテルテ氏が大統領在任中の2016~22年に推し進めた麻薬撲滅対策は、容疑者殺害もいとわず「麻薬戦争」と呼ばれ、6000人超が死亡したとされる。
比政府はICCが予備調査に着手した翌年の19年にICCを脱退した。しかし、麻薬撲滅対策時には加盟していたため、ICCは捜査権が及ぶとの判断を示していた。マルコス氏は昨年11月、ICCがICPOを通じて逮捕を要請すれば、身柄拘束に協力すると表明していた。
殺害された容疑者の遺族らでつくる団体は逮捕を歓迎した。ある犠牲者の妻は団体を通じ、「彼を刑務所で見てみたい。私たちが受けた仕打ちの代償を払わせたい」とコメントした。
■中間選に逆風
ドゥテルテ氏の親族が11日にSNSに投稿した動画では、ドゥテルテ氏は逮捕時に「法的根拠を示せ。自由を奪う理由を答えるべきだ」と反発した。
逮捕劇の背景には、マルコス家とドゥテルテ家の対立がある。両家は22年の大統領選で共闘したが、以降は政策の違いなどから対立を深める。
ドゥテルテ家にとって、上下両院選と地方選が行われる5月の中間選挙は28年の次期大統領選につながるもので、逮捕は大きな逆風となる。
ドゥテルテ氏は地元の南部ダバオ市を中心に根強い人気があり、中間選挙で市長選出馬を表明した。サラ氏は次期大統領選の有力候補とされる。比調査会社の1月の世論調査では、マルコス氏を信頼するとの回答は50%で、サラ氏の49%と僅差だった。マルコス氏がドゥテルテ氏の身柄拘束を容認したことで、ドゥテルテ家への包囲網を狭めたとの見方も出ていた。
サラ氏はマルコス氏らを標的に「殺し屋を雇った」などと発言したことから、比下院が2月、 弾劾(だんがい) 訴追案を可決した。中間選挙後の弾劾裁判で上院の3分の2以上が賛成すれば 罷免(ひめん) され、公職に就けなくなる。
半数が改選される上院選が大統領選出馬を左右する。現在多数派のマルコス派が勝利すれば、サラ氏は罷免となる可能性が出てくる。
国際ニュースを英語で読む