冷え込み続いた中朝関係に復調の兆し 貿易額3割増、トランプ政権など国際情勢変化見据え

北朝鮮・新義州の鴨緑江沿いの地域で進められている堤防の増築作業。看板には「忠誠と愛国の力」と書かれていた=7月中旬(中国遼寧省丹東から三塚聖平撮影)

中国と北朝鮮との交流が経済面を中心に復調しつつある。中国側の発表によると、中朝の今年上半期の貿易総額は前年同期と比べ3割増だった。両国を結ぶ国際旅客列車の再開情報が伝わるなど人的交流の拡大も見込まれている。中朝関係は昨年、北朝鮮とロシアの接近を受けて冷え込んだが、中国側がトランプ米政権の動きなど国際情勢の変化をにらみ、北朝鮮への影響力を保持すべく関係改善に動いた可能性が指摘されている。

中国税関総署が7月18日に発表した統計によると、中国と北朝鮮との間の輸出と輸入を合わせた貿易総額は、今年1~6月期に12億6075万ドル(約1845億円)だった。前年同期比で約30%増と大きく伸びた。

中国から北朝鮮への輸出は、約33%増の10億5048万ドルと総額を上回る伸びになった。壁紙や建築用品に使うプラスチック製品や家具の輸出が目立つ。北朝鮮は住宅など大規模な建設事業に力を入れており、中国が北朝鮮側の求めに応じる形で建築資材などの輸出を許可したことがうかがわれる。

北で進む大規模建設

昨年7月に鴨緑江周辺を襲った大規模な洪水で被害が出た北朝鮮北西部・新義州(シニジュ)では、堤防の増築作業が進められている。7月中旬、新義州の対岸にある中国東北部、遼寧省丹東から産経新聞記者が確認した。作業現場には「絶対忠誠」「絶対服従」といったスローガンを記した看板もあり、金正恩朝鮮労働党総書記の指示の下で作業を急いでいるとみられる。

トラックやショベルカーも動いていたが、手作業でコンクリートブロックを運ぶなど人力に頼っている様子だった。作業が進められていた地域は、大規模洪水で被害を受けた建物が集中していた場所だ。昨年の洪水は、対岸の中国・丹東側と比べて堤防が整備されていなかったことが原因と指摘されていた。現時点で堤防は5メートル以上に達している場所もあった。

高官往来途絶える

伝統的な友好関係を誇る中国と北朝鮮は2024年に国交樹立75年の節目を迎えたが、昨年5月以降は高官の往来が途絶えた。北朝鮮が、ウクライナ侵略を続けるロシアと軍事的に急接近したことなどを受け、中朝関係がぎくしゃくしたと指摘される。

今年に入り、中朝貿易の停滞が解消されつつあることについて、北京の外交筋は「中国が国際情勢の変化をにらんで、北朝鮮に対する態度を調整し始めた可能性がある」と分析する。

トランプ米大統領が北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記との接触を模索している可能性が指摘されるほか、韓国の李在明(イ・ジェミョン)大統領が南北の緊張緩和や対話再開を目指している。そうした中、中国側が北朝鮮への関与を再び拡大させ、後ろ盾としての影響力を確保しようとしているという見方だ。

列車、航空便再開情報

また、北朝鮮の観光サイトは7月中旬までに、「国際列車時刻表」のページに北朝鮮の平壌と中国の北京を結ぶ国際定期列車の情報を掲載した。韓国メディアによると、実際に運行されれば、新型コロナウイルスの影響で往来が止まった20年以来となる。サイトには、平壌と中国東北部の遼寧省丹東を結ぶ定期列車も掲載されている。

今年6月には、平壌とロシアのモスクワを結ぶ国際列車の運行が約5年ぶりに再開しているが、中国との路線がそれに続く可能性がある。

同サイトには平壌と中国・上海を結ぶ定期航空便の情報も掲載されている。列車も航空便も具体的な再開時期は示されていないが、中朝間で調整が進められているとみられる。こうした動きが、コロナ禍が終わっても止まったままの北朝鮮による中国人観光客の受け入れ再開につながるか、関心を集めている。

軍事パレード出席者は

中国のメディア関係者は「中朝関係の復調が本格的な軌道に乗るかは、今後の高官往来を見る必要がある」と指摘する。

中国は、抗日戦争勝利80年の記念行事の一環として9月3日に北京で軍事パレードを行う。15年に行われた抗日戦争勝利70年の軍事パレードには北朝鮮の崔竜海(チェ・リョンヘ)朝鮮労働党書記が出席しており、今回の出席者が誰になるかが中朝関係を占う試金石になりそうだ。(中国総局 三塚聖平)

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