イスラエルにもイランにも「勝ってほしくない」?...湾岸諸国がひそかに「消耗戦」を期待する理由(ニューズウィーク日本版)

6月13日、イスラエルがイランの核関連施設などを空爆し軍高官や核科学者を殺害すると、湾岸諸国の支配層の一部は歓喜した。これをイランの脅威が弱まる兆しとみたのだ。 【動画】イランを去る人々が撮影した「最後の一枚」投稿をめぐって、SNSで議論白熱 だがイスラエルとアメリカがイランの体制転換を狙っていることが明らかになるにつれ、喜びは不安に変わった。米軍がイランの核施設を爆撃した後、ドナルド・トランプ米大統領は「イランを再び偉大に」するには体制の転覆も悪くないと示唆した(後にそうした発言を修正)。 1979年にイランの最高指導者ルホラ・ホメイニ師が近隣国に「革命を輸出」すると宣言して以来、イランと湾岸諸国の間には緊張関係が続く。湾岸諸国はイランを中東の不安定化の要因と見なし、代理戦争が何度も起きた。 そんななか湾岸諸国は体制転換を図らずに、イランを抑え込もうとしてきた。2023年にはサウジアラビアとイランが国交を回復。関係を改善しない状態で無秩序な体制転換が起きたり、拡大主義的な政権が出現したりすれば、イランはより大きな脅威になると各国は考えている。 そもそも湾岸諸国にとって、イランは今も昔も中東の一員だ。イラン文明はこの地に古代から根を張り、他のイスラム世界の国々と共生し、共に文化を築いてきた。 イスラエルとはそこが大きく異なる。20年のアブラハム合意に基づき、バーレーンやアラブ首長国連邦(UAE)はイスラエルと国交を結んだ。だが多くの人々は、イスラエルを植民地主義のよそ者とみている。 イランも到底無害とはいえない。シリアのアサド政権を支え、イラク、レバノン、イエメンの武装勢力を支援するなど、中東全域で不安定化をあおってきた。 それでも湾岸諸国は体制と国民を分けて考え、イラン社会に共感を向ける。サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子は21年、イランを「永遠の隣人」と呼んだ。 近隣国としては、「隣人」が体制転換で混乱する事態は避けたい。人道危機で難民が発生すれば、深刻な経済的被害を被るのは自分たちだ。 その一方で政府系メディアは、イスラエルの変革を望む声を伝える。湾岸諸国は勝者が明確に決まることを望んでいないらしい。紛争が長引き消耗戦になれば、いずれイスラエルの政治体制が変わり、強硬なパレスチナ政策を改めるかもしれない。そうなればイスラエルとの国交正常化は容易になる。 また、イランに欧米寄りで国家主義的な政権が誕生すれば、新たな火種になりかねない。イランが国際社会との関係を深め経済発展に力を入れれば、湾岸諸国の立場が揺らぎ、領土問題が再燃する恐れもある。 空気は変わりつつある。UAEのアナリスト、モハメド・バハルーンは6月に「イスラエルはハンマーを振り回す北欧の神トールを気取っている」と、批判した。「軍事同盟よりも経済連携を求める地域に、そんな国の居場所は非常に限られる」 軍事力に依存するイスラエルは、湾岸諸国が描く未来にそぐわない。目指すのは投資が舞い込む経済拠点であり、永遠の紛争地ではないのだ。 The Conversation Mira Al Hussein, Research Fellow at the Alwaleed Centre for the Study of Islam in the Contemporary World, University of Edinburgh This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

ミラ・アル・フセイン(英エディンバラ大学アルワリード現代イスラム研究センター)

ニューズウィーク日本版
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