暑すぎる地下鉄、世界中で問題に 現代に合わなくなった都市設計、解決策は
ラッシュアワーのロンドンの地下鉄駅で携帯扇風機を使用しながら地下鉄を待つ通勤客/Jose Sarmento Matos/Bloomberg/Getty Images
(CNN) 英ロンドンの地下鉄「アンダーグラウンド(通称チューブ)」がまだ新しかったビクトリア女王の時代、英国には煙突掃除人がいて、イングランドの気温は今よりもカ氏で2度以上低かった。
ナチスによる爆撃からロンドンを救う役割を果たした地下鉄の60%は、今もエアコンがなく、線路がゆがむほどの猛暑は健康被害を生じさせかねない。
一方、1904年以来眠ることのなかった米ニューヨーク市の地下鉄は、大雨が降るたびにホームの通気口に雨水がたまって階段から滝のように水が流れ落ち、運行停止が頻発するようになった。
世界最先端の地下鉄でさえも、地球温暖化に耐えられる設計が試されている。2021年7月に中国・鄭州を襲った猛烈な豪雨では、満員だった地下鉄の車両が浸水した潜水艦のような状態になり、14人が命を落とした。開業からまだ10年もたっていなかった。
ニューヨーク市都市交通局で対策にあたっているエリック・ウィルソン氏は、「東京も、パリも、ロンドンも、みんなそうした豪雨を経験している」と話す。
かつて地上の混乱からの避難場所だった地下鉄は、今や危険地帯と化した。過去1世紀にわたって都市生活を支えてきた地下鉄のインフラは、現在のような状況は想定していなかった。
12年、大型ハリケーン「サンディ」は、マンハッタンで最も古く、最も深い場所にある地下鉄の駅を直撃。これをきっかけに、トンネルをふさいで水の流入を食い止める巨大な空気注入式プラグのような仕組みが開発された。ただ、このシステムは設置に時間がかかるため、ハリケーンなどには対応できても、道路が瞬く間に河川と化すようなゲリラ豪雨には対応できない。
地下鉄周辺の水をくみ出すポンプは建設から60年以上たったものもある。排水用の高性能マシンの予算も計上されているが、地下鉄の出入り口前に縁石を設置する予算はそれ以上に大きい。
ロンドンの地下鉄も過去数年で何度も浸水に見舞われてきた。しかも夏は粘土状の地質に熱が閉じ込められて、地獄のような暑さになる。エアコンがあるロンドンの地下鉄はわずか40%。ほとんどは地表近くや地上を走る路線に限られる。
「深い場所を走る路線のエアコンは大きな課題だ」とロンドン交通局のリリ・マトソン氏は打ち明ける。「非常に深い場所を走っていて、空調を設置できるだけのトンネル換気設備がない場合もある。そこでファンやスーパーファンといった斬新な手段で熱を減らしている」
しかし、地下鉄で顕在化しているこうした症状は、さらに大きな問題の前兆でしかないという見方で両都市の専門家は一致している。現代の地下鉄があまりにも蒸し暑くなったのは、今とは違う時代、違う水の循環を前提に都市が建設されたためだった。過酷な猛暑や浸水から地下鉄を守るためには、緑化公園を建設したり、近くに植樹したりするのが最善の対策となる場合もある。
「それは都市を緑化して、熱に耐えられるようにすることでもある」とマトソン氏は言う。「そこで我々は植樹を増やし、持続可能な都市排水、つまり表面緑化を推進している。同時に首都の気温を下げる方法も検討している。そうすれば交通網を機能させることもずっと容易になる」
都市の3分の2は「セメント、アスファルト、屋根といった水を通さない素材でできていて、都市と郊外の土地の90%は私有地が占める」。米環境保護団体ネイチャー・コンサーバンシーのビル・ウルフェルダー氏はそう指摘する。
ニューヨーク市ブルックリン区で最大の私有地を所有するグリーンウッド墓地は、ネイチャー・コンサーバンシーの協力でニューヨーク州から170万ドル(約2億5000万円)、ニューヨーク市からは65万ドルの助成金を獲得。数区画でアスファルトの舗装を水はけの良い敷石に入れ替え、地下の貯水施設と、天気予報に基づいて自動的に雨水をためたり放出したりできるシステムを建設した。
グリーンウッド墓地は地下鉄より1世紀以上古い歴史をもち、約200ヘクタールの広大な敷地に丘陵や池、遊歩道が配置されている。管理会社が近隣住民の憩いの場にしたいと考える中で、排水処理に果たせる役割に思い至ったという。
「私有地や私有の緑化空間について少し考え方を変えるだけでいい。私有地であっても、周囲をフェンスで囲まれていても、私たちはこの社会の一員だ」と墓地管理会社のジョー・チャラプ氏は話している。